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◎第8話◎ 騒ぎ

 

「あははははは」


 隣から大きな笑い声と騒いでいる声が聞こえてくる

 ここの居酒屋は1枚の襖で分けられているから、ある程度のうるささは我慢できる

 それに隣は若い人たちだからしょうがない

 私はお茶を飲みながら若いって良いなぁと思っていると、中西くんの表情が変わり始めているのに気が付いた

 お酒のせいもあるのかもしれないけど、さっきから顔が赤い


「潤一ぃぃぃ!!!」


 ドンッ!って音と大きな声がこの部屋中に響く

 あまりの音にビックリしたけど、さっき聞こえた名前は聞き間違い?

 確か潤一って…でもまぁ、世の中に潤一って人が一杯いるだろうから彼氏の潤一とは限らないっか…

 私は少し心の中で笑っていると中西くんが急に立ったと思うと襖をバンっと開いた


「お前らの場所じゃないんだ、もう少し静かにしろ!」


 店中に聞こえるんじゃないの?ってぐらいの大きな声

 あまりの大きな声に私はボー然としてしまって、隣の部屋の子たちも急のことで固まっている


「…………」

「謝ることもできないのか!」

「な、中西くん、そんな怒らなくても。ご、ごめんね?この人酔っ払っちゃって」


 さっきまで私に絡んでいた加藤さんが慌てながら中西くんを止めようとしているけど、怒りは収まらない


「お前ら!隣にも人がいるってことぐらい分かってたんだろ!もう少し静かにやれ!!!」

「ちょ、ちょっと、中西くん!」

「…………」


 完全に隣の合コンをしていた子たちは怖さのあまり固まっている

 女の子の中には泣いている子までいる

 なぜか男の子は1人で口を開けながら固まっていた

 もしかして、1対4?

 思わず冷静に考えてしまったけど、今は関係ない。私も中西くんを押さえに入ろうとすると男の子がもう1人入ってきて、頭の上に?がいっぱい出ているような顔で辺りをキョロキョロして、状況が分かったのか中西くんを止め始める


「ちょ、ちょ、ちょっとなんですか。落ち着いてくださいって」

「なんだお前!さっき騒いでた奴か!!!」


 一瞬の油断。

 私が入ってきた男の子に気を取られなかったら抑えられたはずの拳が男の子の顔に飛んでいく

 そして、見事右頬に当たり、鈍い音が響いた


「った!!!」

「きゃっ!?」


 油断していた所にパンチ

 男の子はパンチされた勢いのまま倒れ込む

 私は慌てて男の子に近寄った


「じゅ、潤一!だ、大丈夫?」

「ってぇ…ってあれ?美穂さんなんで」

「それより血が」

「っぅ~…口の中切れたかも」


 潤一の口からは血が少し垂れていて、流れる量が多くなっていく

 おそらく、深く切ったんだろう

 私は心の奥の方から怒りが湧きあがってきて、お酒の勢いでまだ暴れている中西くんの前に立つ


「中西くん!!今日はもう帰りなさい!!他のお客様に迷惑です!!!」


 湧きあがる怒りを出来る限り抑えて、中西くんに命令する

 すると、さっきまで騒いでいた中西くんも私のチームのみんなはシーンとなった

 普段、あまり怒らないからビックリしているんだろう


「溝口くん、中西くんを家まで送ってあげて。他のみんなももう帰っていいわ。あとは私がやっておくから」

「…は、はい」


 みんなは慌てたように帰る準備をして、一礼してから出ていく

 そして、皆がいなくなった後、私は合コンをしている子たちの方へ向き、頭を下げる


「ごめんなさい。私の部下が大変なご迷惑をおかけしました」

「い、いえ…私たちもちょっと騒ぎすぎたと思ってますから…」


 男の子が何とか声を出している感じで、潤一は濡れタオルで血を拭いている

 お詫びとして向こう側の料金も払うことで何とか許してもらえたけど、後味がものすごく悪い

 私は再び頭を下げて、部屋を出る。そして、店員にも謝り、代金を払って外に出た

 明日、中西くんに反省させないといけないと思い、大きなため息を吐いていると後ろから潤一が走ってきた


「美穂さん、待って」

「…潤一…ごめんね」

「え?いや、ううん。別に切っただけだし」

「今から病院行く?」

「いや、良いよ。寝てたら治るって」

「でも…」

「大丈夫。それより一緒に帰ろ」


 潤一は私が編んであげた少し長いマフラーを私に巻いてくれて、手を繋いで夜道を歩く

 今日は1限がどうとか、2限がどうとか、潤一は話してくれて盛り上げようとしていたけど、私はどうしても気分が上がらない。

 あの時、私が油断してなかったら潤一は怪我をしなかった…


「…美穂さん、俺が合コン出たこと怒ってる?」

「え?」

「だって、さっきからうん、そうなんだ、とかしか言ってくれないし…。確かに彼女いるのに合コン出るのはどうかと思うけど…俺、飯食ってただけだから」

「………」


 小さな子どものような、怒れると思ってる子のような顔で見てくる潤一を見ているとさっきまで落ち込んでいた私の気持ちが少しづつ高く上がっていく


「ううん。大丈夫だよ、潤一。おいしかった?あそこの料理」

「うん。特にからあげが」

「そう。私、からあげ食べられなかったなぁ」

「そうなの?それじゃ今度2人で行こうよ」

「行けるかな?私たち顔覚えられたかも」

「あ、そっか…まぁなんとかなるよ」

「そうね」


 潤一はニコニコ笑いながら、今度はどこに行こうとかあそこのから揚げが美味しかったとか色々話してくれる

 口の中が切れて痛いのに。たぶん、私が落ち込んでるからだろう。

 その優しさについ甘えたくなって手をギュッと強く握ると潤一もギュッと握り返してきて、ニコッっと笑い、話を続けてくれた



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