◎第6話◎ 祝賀会
「さすがだよ、谷川くん」
休憩から戻ると部長の杉本さんがニコニコしながら褒めてきた
おそらく、今回の大きな仕事の件だろう
「いえ、私だけの力では無いので」
「でも君がリーダーだ。チームをまとめたんだから誇るべきだよ」
「ありがとうございます。それでは私は」
今回の仕事は私たちチームだけで成功させたもの
だから、私だけ褒められても嬉しくない
私は自分の持ち場へ向かい、一緒に企画を立てた仲間の所へ向かう
「みんな、今日はお祝いよ」
「いいんですか?」
「ええ。大成功になったからね、今日ぐらいはパーっとしないと」
「やった。谷川さんの奢りですね!」
「え?」
チームのみんなはワイワイと嬉しそうにはしゃぐ
そんな雰囲気だとしょうがないなぁとさえ思ってしまう
「ええ。私の奢りよ。少しは私の財布の中も気にしてね」
「はい!」
この様子だと遠慮なんてしてくれそうになさそうだ
私はもう諦めて携帯を開くと1通のメールが入っていた
-俺の方もごめん。仕事頑張ってね。俺も1限は少し寝たけど頑張った!-
思わずクスッと笑ってしまった。最後は別に言わなくても良いのに言っちゃう辺りが潤一らしい
私はメールで返信して仕事に取り組む
「「「「かんぱーーーーい」」」」
この調子だと引き出したお金だけじゃ足りないかもしれない…
私を含むメンバー7人は会社近くの居酒屋で騒ぐ
と言っても私は帰ってやる仕事があるため、お酒は最初の1杯しか飲まずにあとはお茶にしているけど。
「谷川さんって彼氏とかいるんですか~?」
1人酔った女の子が私に絡んできた
「いるでしょ。だって谷川さんって美人だもん」
「ですね。俺もちょっと気があったりしますし」
「あ~~溝口くん、彼女いるのにぃ!」
「あ、言わないでよ、加藤さん!相思相愛なんだから」
「うわぁ…今の彼氏いない私に対するイジメだわ…谷川さん、慰めてください…」
このチームは本当に仲が良いと言うか、オフ時の上下関係があまりない
だからオンとオフの雰囲気が違う
でも、今日はやっぱりお酒の力も働いてますますそんなの関係なくなってきてしまっているけど…
私は笑いながら話を変えようとすると「ダメです!前々から気になってたんですから!」とすぐに話を戻されてしまった
「いるんですかぁ?いないんですかぁ?」
「え、ええ。い、いるわよ」
「えええええー!!!!」
チームのみんなが一斉にビックリし出す
そんなに私に彼氏がいるのがおかしいんだろうか…
「谷川さんの彼氏ってなんか凄そうですね」
「うんうん。凄くカッコいい人なんだろうなぁ」
「そりゃそうでしょ。だって谷川さんの彼氏だよ、きっと1流企業の出来る人だって。ほら、あの~すごい出世してるエリート、杉本さんみたいな人だよ」
「あの人か!あの人俺と同じ30だぜ?」
「あははは、中西くん置いてかれてる~」
周りは一気に盛り上がり、私の彼氏がドンドン凄い人になっていく…
今更、私の彼氏が大学生でちょっとサボり魔で抜けてたりする普通の子なんて言えない状況になってしまった
「写真とかあるんですか?見せてくださいよ~」
「え?あ、えっと…今日はちょっと持ってきてないの。ごめんなさい」
「あ~残念…今度見せてくださいね!」
「え、ええ…あ、ごめんなさい、ちょっと携帯が」
私は一旦席を立って、その場を離れる
アレ以上あそこにいたら無理やりでもどんな人なのか聞かれそうだ
私は少し離れた廊下で携帯を開くと潤一から留守電が入っていた
「美穂さん、ゴメン!親が今日帰ってこないんだ。んで家のカギ持ってないから入れなくて!だから美穂さんの家で泊めてね!」
と焦ったような声で入っている
潤一に私の家の合鍵は渡す時、「勝手に中に入ってていいよ」と言ってあるのにわざわざこうやって電話をしてくる辺りは真面目なのかな?
私は少しクスッと笑ってから元の位置に戻ろうとすると隣の部屋の中から大盛り上がりの声が聞こえてきた
「じゃ!!!合コン開始だぁぁぁっぁぁ!!!」
大学生かそこらへんの子たちだろう。
楽しそうな声ではしゃいで、若さいっぱい
私は少し羨ましいと思いながら部屋へ戻るとこっちも隣の部屋に負けないぐらい盛り上がっていた