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◎第51話◎ 大好き

 

 今の状況は私にとって幸せ?それとも不幸せ?

 車の助手席には潤一が外の風景をボーっと見ている

 ラジオを掛けてみようか…でも、静かに外の風景を見ている潤一の邪魔をしてはいけない気がする


 車の中は静かに沈黙が続き、車も一定のペースで進む

 潤一に聞きたいことはたくさんある

 学校の方はどう?

 友達とは上手くできてる?

 元気だった?

 何か面白いことはあった?

 まだ私の事が好き?


 最後のが聞けたらどれだけ楽なんだろう…

 加奈子も三橋さんも加藤さんもまだチャンスはあると言う。

 私が潤一の彼女だと思っていた三橋さんも応援してくれている。だけど、聞くことが怖い

 もし、もし「ううん」なんて言われたら私はどうなってしまうんだろう…

 立ち上がれるだろうか……いや、今考えるべきじゃない。

 今までは考えて考えて悪い方へ向かっている。だったら行動に移すべき。

 横にいる潤一にバレないように深呼吸をして、意を決して潤一に話かける


「…じゅ、潤一は最近どうなの?」

「え?」

「元気?」

「は、はい。なんとか」

「…そう」

「………」


 どうして潤一は敬語なんだろう…

 そりゃ私たちは今付き合っていないし、他人と言えば他人になる。だけど…そうだと分かっていても潤一が敬語で話すたびにズキズキと痛くなる

 潤一はもう私のことを好きでは無いのかもしれない。だって、まだ私の事が好きならもっと話してくれるはず。敬語なんて使わないはず。私はもっと潤一と話したい

 だけど、潤一が敬語で返事をしてくるたびに心が痛くなる、悲しくなる。俺はもう貴方の事を好きではないと言われているような気がしてくる

 ううん…違う、潤一が話せないのは私のせいだ…私が話をさせる雰囲気じゃないからだ…

 私がもっと話やすいようにしたら話をしてくれる。潤一を意識しなければ良いだけ。

 車の運転に集中しよう。横にはだれも乗っていないと考えれば十分にできる。

 私は車の運転に集中しようとすると横から潤一の声が聞こえた


「運転上手いんですね」

「え?」

「いや、意外と言うか慣れたように運転している感じなので。あ、でも車は新車っぽいような…」

「新車よ。ちょっと前に買ったの」

「へぇ。お金大丈夫だったんですか?車って高いですけど」

「そうね。でも私、お金はあるから」


 明らかに無理をしている…

 私のために話を盛り上げようとしてくれている。

 潤一の1つ1つの言葉が私の暗くなりかけていた心の中を明るく照らしてくれる

 やっぱり潤一のすべてが好き。笑顔も悲しい顔も困った顔も無理している顔もすべて好き。

 横にいる潤一を無視することなんてできない。だって大好きな子が横にいるんだから

 それでも…それでもやっぱり潤一の話す敬語が私の心をズキズキとさせていく

 自分の気持ちを言いたい。だけど…だけど、本当に良いんだろうか…

 無理やり潤一を車に乗せて迷惑していないだろうか?お金だけを渡してあげた方が良かったのかもしれない…

 そう思うとさっきまで潤一の1つ1つの言葉が明るくしてくれたのに、今では声を聞くたびに暗くなっていく。

 離れたくない、この時間がずっと続けばいいのに…そう思ってしまう自分に嫌気を感じる

 また私は潤一の大切な時間を奪おうとしているんじゃないか?

 今も私がじっと黙っているから潤一にばっかり話させてしまっている…

 どんどん心の中が暗くなっていくと同時に空の方もモクモクと雨雲が広がりだしてきた

 そして、バケツをひっくり返したように大粒の雨が降り出す

 まだ雨の運転には慣れていない私にはこのワイパーを動かしても見ずらい状態では危険すぎると判断し、近くにあるコンビニの中へと入った


「ご、ごめんなさい。雨の運転って苦手で」

「これだけ降ってるとさすがに俺も…」


 コンビニに止めるとさっきまで他愛も無い話をしていたのに車の中がワイパーの動く音だけが響く

 もう潤一の顔が見れない…見てしまったらますます潤一の事が好きになってしまう…

 告白するって決めたのに、私は潤一の事が好きって言うと決めたのにいざとなったら何も言えない…私は臆病者だ…

 私なんかより潤一の方がよっぽど大人…私なんかと釣り合わ……ない……


「あ、み、美穂さん?」

「え?な、なに?」

「いや…えっと……その…」


 何やら潤一が言いたそうな顔でこっちを見てくる。

 なんだろうと思っていると頬に涙が伝っていくのに気が付いた


「え?あ、な、なんで私泣いて…あれ?あれ?」


 どうして?どうして泣かないといけないんだろう?

 どうして涙が止まらないんだろう?

 もう訳が分からない…


「ど、どうして?あれ?」

「ちょ、ちょ、美穂さん、そんな目擦っちゃ」

「どうして?え?」


 なんで?どうして止まってくれないの?

 なんで私が泣かないといけないの?

 どうして私がこんなに悲しい気持ちにならないといけないの?


「美穂さん!!!」


 私の肩を掴んで潤一が叫ぶ


 あまりの突然の事でビックリしてしまった

 だって潤一の顔がすぐそこにあって必死な顔で私の顔を見てきてくれてるんだから

 だけど潤一の目に少し悩みが見えてくる。もう潤一の事が分からない…さっきまでは他人行儀で急に私のために必死にしてくれる、そして今は困ったような目をしている…

 もう分からない…潤一の気持ちが分からない…

 もう嫌…もう何もかもが嫌!!!


「ああーーーもう!!!!」


 どうして私がこんな思いをしないといけないのよ!!!


「もう!もう!もう!!!全部、全部、全部潤一が悪いんだから!!!!!

 さっきから気まずそうな顔はするし!時々悲しそうな目もする!!話していても他人行儀な敬語するし!!何よ!!!何なのよ!!」

「え?え?」

「私が何したってのよ!!勝手に決め付けて!勝手に別れようとか言って!!!なんでよ!!!どうして私がこんな辛い気持にならないといけないの!!私何かした!!?潤一を困らせるような事した!?

 だったら私に言ってよ!!!なんでいつもいつも私に隠し事するの!!!

 言ってよ…潤一の気持ちを…私に隠し事しないでよ!!私は潤一の全部を知りたい!潤一が困ってるなら助けたい!潤一と一緒に笑いたい!!潤一に甘えられたい!!

 だけど…だけど、潤一は時々凄く大人になる……潤一はカッコいいから…大学生だから…だから、私よりもっと良い女の子に会っちゃう!!不安なの!!不安で押しつぶされそうなの!!

 私は潤一の事が好き!だけど、だけど私よりもっと良い女の子なんて一杯いる!だから不安なの!!

 どれだけ潤一に好きって言われても嘘なんじゃないかって疑っちゃう!もうそんな自分が嫌なの…もう嫌…こうやって自分勝手に好きかって言う自分の嫌…、もう嫌、何もかも嫌…」


 もう嫌…自分も嫌いだ…潤一も嫌い…

 みんな嫌…私はもう耐えられない…


「私にとって潤一は特別なのに、潤一にとって私はなんなのよ……いや、もういや…聞きたくない…何も聞きたくない…潤一の声も聞きたくない

 誰の声も聞きたくない…潤一の事も聞きたくない!!!

 三橋さんから潤一が小学校3年生までおねしょしてた事!実はお化けが大の苦手で夜はトイレに行けない事!中学生の時、道に落ちてたエッチな本をこっそり家に持ち帰った事!

 聞くのも嫌だった!!私の知らない潤一がどんどん出てきて怖かった!!すぐにでも耳を塞ぎたかった!!だけど、だけどもう良い……もう潤一なんて知らない……元々そんな子いなかった……」


 私の知らない潤一なんて知りたくない…知らない潤一を聞くたびに怖くなる

 貴方は何も潤一の事を知らないって言われている気がして怖い。こんな怖い思いをするなら潤一なんていない方が良い、知らない方が良い…


 両手で耳を押さえて何も聞こえないようにする

 そうすれば前にいる潤一の声も何も聞こえない、私が1人だけになれる

 だけど潤一はそれを許してはくれない


「美穂さん!!」


 潤一は無理やり聞こえないように耳を押さえていた手を退かし、顔を潤一の方へ向かされる

 そして、キスをしてきた

 あまりの突然の事で抵抗ができなかった…それに、目の前には潤一の目を瞑った目がすぐそこにある

 え?どうして?なんで?分からない…今、私は何をされているの?

 

 どのぐらいの時間が過ぎただろう?

 ようやく潤一が離れると顔を真っ赤にしている。

 私は何を言えばいいんだろう?「何してるのよ!」「やめて!」という否定の言葉を言うべき?

 だけど、今は口から出そうな言葉はそんな否定をするような言葉じゃない。


「俺は美穂さんの事が好き!大好き!!笑ってる美穂さんも落ち込んでる美穂さんも怒った美穂さんも全部好き、すべてが愛おしい。自分にもう嘘は吐きたくない。

 美穂さん、俺は貴方の事が好きです。愛しています!」


 外で降る雨の音に負けないように、ワイパーの動く音に負けないように、私に届くように、一杯の気持ちで潤一が言ってくれる。

 嘘じゃない、きっと嘘じゃない。信じていい。潤一の言葉が心に響く

 きっと今の私の顔は酷いと思う、普段なら絶対に見せたくない。だけど、今はそんなの関係ない

 潤一が目の前に居てくれる。そう思うと涙が流れる。潤一はギュッと離さないように強く抱きしめてくれる

 潤一のぬくもり。もう絶対感じることは無いと思っていたこの温もりは私にとって特別。

 他の人ではダメ、潤一でしかダメ。私の心をここまで温かくしてくれるのは潤一だけ。


「潤一…私も好き、貴方のことを愛してる」


 もう嘘は吐かない。潤一の事が好き、大好き。

 潤一は私にとって大きな存在。どんな酷い事が起きても横に潤一が居れば耐えられる。

 どれだけ歳が離れようと、社会的地位が違っても関係ない

 私は潤一の事が好き。潤一が近くで笑ってくれればいい。


 私は言葉にできない気持ちが伝わるように潤一と唇を重ねた


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