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◇第50話◇ 大好き!

 

 お父様、お母様、ただ今貴方達の息子は大変な事態に陥っています…


 窓から見える景色はそりゃ良いものだ

 だけど…だけど、この状況でそんなことは言ってられない


「…………」

「…………」


 沈黙すぎる車内

 ラジオも掛けたいぐらいの沈黙だ

 だけど、これは美穂さんの車だ。勝手に触ってはいけない


 ぶーん…っとエンジンの音が響く

 美穂さんは何を考えているんだろうか?

 聞きたいことはたくさんある。

 どうしてここにいたの?

 誰かと来たの?

 この車は買ったの?

 今までどうだった?

 何かあった?

 仕事の方はどう?

 辛いことはない?

 …俺の事どう思ってる?


 聞いてしまえばスッキリになるに違いない。

 だけど、聞ける勇気もない


「…じゅ、潤一は最近どうなの?」

「え?」

「元気?」

「は、はい。なんとか」

「…そう」

「………」


 だからどうして俺は敬語なんだ…

 一瞬美穂さんの目が悲しそうになったのは見逃さない。

 どうしてそんな目をするんだろう…俺が他人行儀だから?それともあの大人の男性と何かあったから?

 分からない…俺には美穂さんが分からない…

 付き合っている時は美穂さんの事なんて全部分かっていると思っていた。…いや、思おうとしていた。

 そうじゃなきゃ不安で押しつぶされそうだったから。

 でも、それでも、美穂さんに対する気持ちは変わらない。

 いっその事、ここで告白してみるか?

 今、美穂さんはなんで悲しい目をしたかは分からない。大人の男性と何かあったからかもしれない。

 だけど、今、俺が告白することで一瞬でもその悲しい目を無くさせることができたら………ダメだ、そんなことをしても美穂さんを困らせてしまう。悲しい目を無くさせるために困らせるなんてしたくない

 だったら、俺にできる事はただ1つだ


「運転上手いんですね」

「え?」

「いや、意外と言うか慣れたように運転している感じなので。あ、でも車は新車っぽいような…」

「新車よ。ちょっと前に買ったの」

「へぇ。お金大丈夫だったんですか?車って高いですけど」

「そうね。でも私、お金はあるから」


 美穂さんがやっと笑顔になってくれる

 それだけで俺も笑顔になれる。

 そして、こうやって話しているとやっぱり自分は美穂さんの事が好きなんだと改めて自覚できた

 美穂さんの一言一言が自分にとって愛おしい。表情の1つ1つが愛おしい。

 本当に好きなんだと思う。

 しばらく、美穂さんと他愛も無い話を続けていると何やら空の色が、さっきまで雲1つ無い青空だったのに黒い雲がモクモクと出始めてくる

 そして、大きなバケツをひっくり返したかのような大雨が降り始めた

 あまりの大雨に美穂さんは慌てて近くのコンビニに止める


「ご、ごめんなさい。雨の運転って苦手で」

「これだけ降ってるとさすがに俺も…」


 ワイパーを最高速で動かしていても見ずらい

 それぐらいの大雨だ。もしかするとこれがゲリラ豪雨と言うのかもしれない

 俺と美穂さんはあまりの大雨で外に出る気にもなれず、ただひたすら静かに動くワイパーを見る

 車の中はウィーンウィーンとワイパーの動く音だけが流れる。


 どのぐらい経っただろう

 雨の勢いは変わらない。ワイパーも頑張って動いている

 横にいる美穂さんは窓から雨の降る風景をじーっと見ている

 いや、良く見たら泣いている?


「あ、み、美穂さん?」

「え?な、なに?」

「いや…えっと……その…」


 俺が言いづらそうにしていると美穂さんの目からツーっと涙が流れる

 すると美穂さんも自分が泣いていると気付いたのか、慌て出した


「え?あ、な、なんで私泣いて…あれ?あれ?」


 流れる涙を拭いても拭いても次々と流れていく

 美穂さんはどうして泣いているのかも分かってないのか、流れる涙をただひたすら拭く


「ど、どうして?あれ?」

「ちょ、ちょ、美穂さん、そんな目擦っちゃ」

「どうして?え?」


 軽くパニック状態になっている

 俺はどうにかしようと美穂さんの肩に手を置いて、ハッキリと名前を呼んだ


「美穂さん!!!」


 美穂さんはビックリしたのか、目を大きく開き、涙を拭く作業が止まる

 目は擦りすぎたのか充血していて、目が真っ赤だ

 しかし、そんなことは今関係ない。勢いで肩に手を置いてしまったけど、これからどうすればいいんだ???

 何も考えずにただ美穂さんの名前を呼んでしまってこっちがパニック状態になりそうだ

 それに美穂さんの目がさっき以上に涙が溜まっていて、瞬きをした瞬間、ダムが決壊したように美穂さんの目から涙が流れ、どうしてか分からないけど…


「ああーーーもう!!!!」


 美穂さんが叫んだ…


「もう!もう!もう!!!全部、全部、全部潤一が悪いんだから!!!!!

 さっきから気まずそうな顔はするし!時々悲しそうな目もする!!話していても他人行儀な敬語するし!!何よ!!!何なのよ!!」

「え?え?」

「私が何したってのよ!!勝手に決め付けて!勝手に別れようとか言って!!!なんでよ!!!どうして私がこんな辛い気持にならないといけないの!!私何かした!!?潤一を困らせるような事した!?

 だったら私に言ってよ!!!なんでいつもいつも私に隠し事するの!!!

 言ってよ…潤一の気持ちを…私に隠し事しないでよ!!私は潤一の全部を知りたい!潤一が困ってるなら助けたい!潤一と一緒に笑いたい!!潤一に甘えられたい!!

 だけど…だけど、潤一は時々凄く大人になる……潤一はカッコいいから…大学生だから…だから、私よりもっと良い女の子に会っちゃう!!不安なの!!不安で押しつぶされそうなの!!

 私は潤一の事が好き!だけど、だけど私よりもっと良い女の子なんて一杯いる!だから不安なの!!

 どれだけ潤一に好きって言われても嘘なんじゃないかって疑っちゃう!もうそんな自分が嫌なの…もう嫌…

 こうやって自分勝手に好きかって言う自分の嫌…、もう嫌、何もかも嫌…」


 俺の胸をドンドンと叩きながら叫ぶ

 今まで美穂さんが隠してきた事を…言いたくて仕方なかったであろうことを…


「私にとって潤一は特別なのに、潤一にとって私はなんなのよ……いや、もういや…聞きたくない…何も聞きたくない…潤一の声も聞きたくない

 誰の声も聞きたくない…潤一の事も聞きたくない!!!

 三橋さんから潤一が小学校3年生までおねしょしてた事!実はお化けが大の苦手で夜はトイレに行けない事!中学生の時、道に落ちてたエッチな本をこっそり家に持ち帰った事!」

「ちょ!なにそれ!!!」

「聞くのも嫌だった!!私の知らない潤一がどんどん出てきて怖かった!!すぐにでも耳を塞ぎたかった!!だけど、だけどもう良い……もう潤一なんて知らない……元々そんな子いなかった……」


 どうすればいいか分からない…

 美穂さんはもう何もかも嫌なのか耳に手を当て、ぶんぶんと頭を振る

 俺はどうすることもできないんだろうか……あまりの事で頭が付いてきていない

 だけど、ここで何かしないと一生後悔する!

 俺は何も考えずに今できることを実行に移した


「美穂さん!!」


 手を耳に当てる美穂さんの手を掴み、耳から離す

 そして、顔を俺の方へ無理やり向けると、さっき以上に目を真っ赤にしながら化粧が涙で崩れてしまっている美穂さんの顔が目の前に見える。ものすごい顔、だけどそれすら愛おしい

 俺は何も言わずに美穂さんの口に自分のを合わせる

 言葉になんてできない。俺の今の美穂さんに対する思いは言葉なんかじゃ表せない


 実際どのぐらいの時間、キスをしていたかは分からない

 美穂さんの唇から離れると美穂さんは目を大きく開き、口をパクパクとさせる

 もう何も考えない、この気持ちを言葉にすることは絶対にできない。だけど、言葉じゃないと伝わらないことだってある


「俺は美穂さんの事が好き!大好き!!笑ってる美穂さんも落ち込んでる美穂さんも怒った美穂さんも全部好き、すべてが愛おしい。自分にもう嘘は吐きたくない。

 美穂さん、俺は貴方の事が好きです。愛しています!」


 たぶん俺の顔は真っ赤だ

 自分でも湯気が出るんじゃないかってぐらい熱い

 そして、目の前に居る美穂さんも真っ赤だ。顔も目も。

 美穂さんは一度止まりかけていた涙が再び流れる

 そんな美穂さんも愛おしい。だから、強く抱きしめる

 言葉では表せなかったたくさんの想いが美穂さんに伝わるように。


「潤一…私も好き、貴方のことを愛してる」


 耳元で美穂さんが俺だけに聞こえるように言ってくれる

 そして、強く抱きしめてくれる。

 もう、別れるなんて言わない。

 こんなにも俺の事を想ってくれる人がいる。

 こんなにも美穂さんの事を想える自分がいる。

 それだけでいい。歳の差なんて関係ない、大学生と社会人なんて関係ない

 美穂さんが好きと言ってくれる。それだけでいい。

 歳の差?社会的立場?そんな事を考えてる暇があれば美穂さんを見ればいい。目の前に居る美穂さんを抱きしめればいい。大好きと言えばいい。

 俺は美穂さんの事が大好きなのだから。


 雨が車を打ち当る音の中、俺と美穂さんはお互いの気持ちを再び確かめるように唇を合わせた



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