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◎第49話◎ あの時より強く、

 

 予期しない事で思わず車のキーを落としてしまった

 その音で潤一はこっちに振り向く

 そして、目が大きく見開き、びっくりしているような顔で私を見る


 こうして潤一の顔を見るのは何カ月ぶりだろう?

 飲み会の時はいつの間にか記憶が無くなってしまっていたから、ずいぶん長いこと潤一の顔を見てない気がする。

 だけど、今でもすぐに潤一の嬉しそうな顔、拗ねた顔、落ち込んだ顔、照れている顔が思い浮かぶ


 どのぐらい私と潤一の間に沈黙が流れただろう…

 いっぱい話したいことがあるのに、いっぱい報告したいことがあるのに、伝えたいことがあるのに、いっぱいありすぎて言葉が出ない

 私が何から伝えればいいのかパニックになっていると潤一が沈黙を破った


「え、えっと…その…カギ、落ちてますよ?」

「え、ええ」


 慌てて車のキーを拾う。

 本当はキーなんかどうでもいい。潤一の声を聞くだけで心が安らぐ

 でも、どうしよう……

 電話の豊臣くんが言っていた人は本当に潤一なんだろうか…

 豊臣君が言っていた情報はピッタリはまる

 第一駐車場にいる両手にお土産袋を持って、1人ポツンと缶コーヒーを飲んでいる男の子

 たぶん、潤一以外いないだろう

 でも…でも、もし…予想もしたくないけど彼女と一緒に………

 加奈子にも三橋さんにも言われた。潤一を信じろって。でも、でも、潤一も立派な男。

 私みたいにこんなウジウジ考えないかもしれない…


「え、えっと…その…じ、じゃ俺はこれで………」


 何の根拠もないことを考えてしまっていると潤一は身体の向きを変える

 行っちゃう…まただ…また潤一の背中を見ることしかできないんだろうか…

 車のキーを持っている手をギュッと握る。あの時、水族館で別れを切りだされた時と何も変わらない…

 また…またあんな悲しい事を味わうことになってしまう…少しずつ遠くなっていく潤一の背中が私の心をギュッと握りつぶすかのように痛くなる。ダメ!!もうあんな悲しい事は嫌!!!

 遠くなっていく潤一を呼び止めるために精一杯頭を働かせ、叫ぶ


「ま、待って!!!…あ、あの…えっと……どうやって帰るつもりなの?」


 少しビックリしたような顔をしながら潤一が振り向く

 その表情で確定した。豊臣君が言っていた男の子は潤一。

 つまり、帰る手段は歩く以外無い。潤一は苦笑いをしながら再び歩き出す

 私にバレたくないからだろうか?友達に置いてかれたという事を。

 そんな歩いて1日以上かかる道のりと引き換えにプライドを保とうとする潤一が可愛く感じてしまう

 今までどうしようどうしようと悩んでいた心がスッと晴れた


「わ、私の車で送って……あげるから!」



 やっと言えた。

 潤一はさっきとは比べ物にならないぐらいビックリしたような顔をして、手に持っていたお土産袋を落とした



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