◇第44話◇ そういうもん?
豊臣はやっぱり変態だった…
改めてそう思ったのは旅館に着いた時だった
「お、おい……聞いてないぞ……」
「何が?」
「どうかしたの潤一君?」
車を駐車場に止め、泊まる旅館の前に立つ
綺麗な木造建築と言うんだろうか?昔からあるような旅館で見た感じからしていい感じの旅館だ
そして、大学生が泊まるような場所では無いのがよくわかる
それなのにこの2人はどうしてこんな平然とした顔をしているんだろう…
「ここ凄い高そうじゃないか、俺そんな金持ってきてないぞ」
「潤一、高そうじゃない。実際に高い」
豊臣はなんてことの無いような顔で言うと旅館の中へと入っていく
和志君も「やっぱり高いんだ」と呟いて楽しそうに中に入って行った
豊臣は何となくわかる。あいつは大学生のくせにかなり良いマンションで1人暮らししているし、親がそれなりにお金持ちだと聞いたことがある。
でも、和志君は俺と同じような普通の家庭だ。バイトに明け暮れて、自分の遊ぶ金は自分で稼ぐというような感じなのにどうしてあんな普通の顔をしているんだろう…
俺は財布の中身を再度確認してから旅館の中へと入る
すると、すでに豊臣達が予約をしていたのか桶みたいなのを手にしていた
「なぜ桶…」
「部屋に入るまでに少し時間あるから温泉で時間つぶし。ほら、潤一のも」
「普通、荷物とか部屋に置いてから行くんじゃないのか?そういうのって」
「急に予約したからできないんだよ。荷物は見ててくれるから行くぞ」
「あ、ああ」
そういうもんなんだろうか…
価格の高い旅館なんかに泊まったことがないからよくわからないけど、慣れていそうな豊臣が言っているし、旅館の方も「どうぞ」と笑顔で言っているからそうなんだろう
俺達3人は桶と温泉セットを持って案内された温泉へと向かう
ここの旅館のイチオシは露天風呂らしい
しかし、露天風呂は予約が優先らしく、夜のみ営業されているという。
「しっかし…なんというか潤一君はこれから大変だよね~」
「え?なんで?」
「ん?あ~、だってこれから大変でしょ?色々と」
「まぁ忙しいと言えば忙しいかなぁ。講義の内容も難しくなったし」
「そりゃあんだけ寝てれば難しいだろ」
「優等生は何でもできて羨ましいな」
「ちゃんと勉強しているからな。和志もちゃんとやってるだろ?」
「え?あ…う、うん!もちろん!」
「ほら見ろ」
「いや…正直になろうよ…」
もう苦笑いしながら温泉に入っている和志君が可哀そうになってくる
バイトの時に行くのがダルイとか言っていたからあまり大学に行ってないんだろう。昼間にバイト入れているみたいだし…
「そ、それにしてもさ!本当に頑張ろうね!これから」
状況が悪いと判断したのか和志君は急に話を変えるように楽しげな話を話し始める
それもその話は最近、新しい彼女をゲットしたとかいう話だから豊臣が食い付かないわけがない
そして、話が盛り上がってくると俺へと火の粉が飛んでくる
「潤一もさっさと彼女できると良いな」
「うんうん。潤一君なら良い彼女できるよ!」
「…まぁそうだと良いね」
「できるできる。絶対!」
和志君がニコニコしながら言うとなんでか分からないけど本当にできるような気がする
もちろん、可能性としては低いかもしれない。会ってくれるかも分からない
だけど、和志君や豊臣の言葉を信じてみるもの良いかもしれない
俺は笑顔で「そうだね」と返事し、心の中ではこの旅行が終わったら美穂さんに玉砕覚悟の再告白をすることを心に誓った