◎第43話◎ 旅行。
今日は1泊2日の旅行の日
泊まりがけの旅行なんていつ振りだろう?
去年の夏以来かもしれない…もちろん、相手は潤一だったんだけど…
「谷口さん、新車なのに本当に良いんですか?」
後ろの座席から身を乗り出して、椅子と椅子の間から加藤さんが顔を出す
そう、今乗っている車は私が一昨日買った車。
加奈子と一緒にドライブをした時から、なんとなく車が欲しくなってきてようやく決心が付いた。
それにもし潤一と仲直りできた時には一緒にどこか行ける。もちろん仲直りできなかった時にも1人でどこか行けるけど……
でも、今はそんなことよりもペーパードライバーな私は運転に集中しないといけない
「紗代さん、今の美穂に話しかけたら事故ります」
「え?あ~…ですね。あ、どうぞ~加奈子さん」
「ありがとうございます。それにしても紗代さんはよく時間作れましたね。お仕事忙しいのに」
「あははは、無理に作っちゃいました。って言っても私そんなに売れてる声優じゃないので暇はあるんですよね」
「え?でも和志が言ってたけど、かなり売れてる声優さんって言ってましたよ?」
「そんな…照れちゃう」
バックミラーを少し見ると少し顔を赤くしている三橋さんが見える
なんて可愛いんだろう…私より2つも上なのに若く見える
「あ、なんか前に初心者マーク付けた車ありますよ」
恥ずかしさを紛らわそうとしたのか三橋さんが前を指差す
確かに前には初心者マークを貼ったアルファードが見える。それも法定速度50キロを守って。
「うわぁ…すごいわね…50キロキープ…」
「行け行け~谷口さん抜いちゃえ~」
「ごーごー」
後ろでは加藤さんと三橋さんが「抜け」と煽る
もちろんペーパードライバーな私はそんな危険なこと出来ない
「ゆっくり行きましょう。時間はまだまだあるんですから」
そう今回の旅行は1泊2日。
それにこのペースで向かっても夕方前には着く
前のアルファードのペースに合わせ、車間距離も十分に取りながら旅館へと向かった
「あ~~~、やっと着いた~」
加奈子が車から下りると大きく背伸びをする
相当運転できなかったのが辛かったらしい
結局、前に居た初心者マークを貼った車は途中でコンビニに入り、思っていたよりも早く着いてしまった。と言っても、当初の予定よりは遅いんだけど…
車から降りた加藤さんは旅館のパンフレットを見ているのか、三橋さんと盛り上がる
「紗代さん、紗代さん、露天ありますよ、ここ」
「おぉー、いっちゃいます?」
「谷口さん、加奈子ちゃん、どうですか?露天」
「私はOKですよ~、先輩。まぁ美穂が良いならですけど」
「露天ってその…混浴ですよね?」
「そうですね。でも、予約とかできるんで大丈夫ですよ?」
「あ、それなら大丈夫です」
知らない人に裸を見られるのは怖いけど、予約ができるなら安心だ
それに露天風呂なんて気持ちいいに決まっている
でも露天風呂は夜限定らしく、今から時間がかかるらしい
「ん~んじゃとりあえず露天は置いておいて温泉行きましょうよ。皆で」
「行きましょー。私たちは温泉しか楽しみじゃないから!」
「ですね~。加奈子ちゃん、谷口さん行きましょ~」
加藤さんも三橋さんも子供に戻ったように嬉しそうに車から荷物を下ろすと旅館の中へと入っていった