◎第4話◎ 私と潤一。
男の子との電話から1週間後
忙しい毎日の中、頑張って働いて帰りの電車の中、席に座って一息をついていた
普段乗らない各駅電車に乗った私はたまにはこういうのもいいなぁと思いながら席に座って、うとうとしているとドアが開く
冬の肌寒い風がビュっと入ってくるとウトウトしていた私は寒さのあまり目が覚めてしまった
今どの駅にいるのか確認しようと辺りを見回すと私の横に痴漢を助けてくれた男の子がゲーム機を持ちながらカチカチと操作をしていた
あまりの急なことにビックリして息が止まってしまったけど、男の子はゲームに夢中なのか私のことに気が付いていない
もしかすると忘れちゃったのかなぁ…と小さくため息を吐く
あれ?なんで落ち込んでるんだろ…私…
自分でも分からない。だけど一瞬落ち込んでしまった
少し仕事のしすぎなのかもしれない、と結論付けて男の子を見るのを止めようとすると男の子が急に顔を上げてこっちを見た
「…あっ!?」
車両の全体に聞こえるような声の大きさ
男の子は思わず出てしまったと言った感じで口に手を当てて、周りにペコペコと頭を下げる
周りの人もクスクス笑う人やすぐに自分の世界に入る人もいたけど、すぐに収まった
男の子は散々頭を下げたあと、私の方を見て頭を下げ、小さな声で話かけてきた
「ど、どうも」
気まずそうに頭を下げて苦笑いする男の子
私は思わず可愛いと思ってしまった
「あの時はありがとうございました」
「いや、こっちこそ。これハマりまくっちゃってます」
「それはよかったです。本当に何をお礼にすればいいか分からなかったので」
「でも、本当にいいんですか?こんな高いの」
「はい、どうぞ。本当に助かりましたから」
「ん~…それじゃありがたく」
男の子は本当に嬉しそうに笑う
それから男の子は私の横の席が空くとそこに座って互いに改めて自己紹介しあう
男の子の名前は斉藤潤一くん。高校3年生でもう大学に決まっているらしい
大学生になったら1人暮らしをしたいらしいが大学が近いため、実家通いになる。と苦笑いしながら答えた
「潤一君はいつもこの電車に乗っているの?」
「そうですね」
「でも、高校の最寄り駅からだと確か急行が出てたような」
「あ~はい。でも人多いしこっちの方が席座れるんで」
「なるほど」
「谷川さんはいつもこれですか?」
「ううん、今日は特別よ。気分が各駅だったから」
「あはは。なんか分かります、それ」
潤一くんは笑いながら、カバンの中から飴を取り出して渡してくれた。潤一くん曰くお勧めの飴らしい
ほんのりと甘さが広がっていく
今の私の気持ちはちょうどこんな感じだろうか、潤一くんと話していると落ち着く
「あ、次俺の下りる駅なんで」
「そっか…」
「これ本当にありがとうございました。こんなに話せて楽しかったです」
「もっと話したいな…」
私は何を言っているんだろう…
席を立った潤一君を見ながら思わず口に出してしまった言葉
もちろん、潤一くんは?が出ている
でも、私の心の中はスッキリした
私は潤一君に恋をした。
私は無理にお姉さんのような笑顔で「じゃあね、また明日」と言って潤一君を送る
また明日。
この時から私は帰る電車はどんな時も各駅に変わり、潤一君が乗る時間帯にできるだけ合わせ、話せる15分間がどんなものよりも楽しみになり、潤一君とアドレス交換もして、仲良くなっていった。
潤一君の卒業式当日
もう会えないと思っていた私はいつも通り、潤一君はもう来ない各駅電車に乗り、家へと向かっているとニコニコした潤一君が電車の中に入ってきた
「え?今日は卒業式だったんじゃないの?」
「そうですよ。でも遊んでたらこんな時間になっちゃいました」
苦笑いしながら私の横に座る
「…すみません、嘘です。実は美穂さんの事待ってました」
「え?」
「あの……その…ガキな俺だけど…美穂さんのこと、好きになっちゃいました」
「え?え?」
「付き合ってくれませんか?美穂さん」
顔を真っ赤にしながら真剣な目で見てくる
その眼には恥ずかしさと不安はあるけど偽りはない。
私の心はドキドキと激しく動き、嬉しさが爆発しそうなぐらいだったけど、電車の中だと自分に言い聞かせ、潤一くんにしか聞こえないような声で「はい」と答えた
アレからもう1年
懐かしいようで今のことのように思いだせる
可愛かった潤一も男の子から男になったけど、時々まだ男の子に戻る所が可愛い
潤一のことを思い出すと自然と笑みが湧いてくる
今朝の事は私から謝ろう。
私は携帯を開いて、メールで今朝の事を謝ってから仕事場へと向かった