◇第31話◇ 青春の叫び。
目の前には広大な海が広がっている
海に来るなんて何年振りだろう?
途切れることなく波がザバ~と流れてきて、その音がなぜか心地よい
横では和志君のお姉さんが携帯で海の写真を取っており、時々「良い写真取れた」と見せてきた
「いやぁ、若い子と一緒に海見れるってなんか良いね」
「お姉さんも若いじゃないですか」
「まぁね。それより元気出た?」
「俺のためだったんですか?」
「まぁね。前の彼女をまだふっきれて無いんでしょ?」
「……はい」
「まぁそんな簡単じゃないもんね。世の中ではさ、前の彼女忘れるなら新しいのっていうのあるけど、本当に好きだった彼女と別れたら次なんて中々見つかんないよね~。もちろん忘れようとはするんだけど、忘れようとすればするほど楽しかった時の思い出が浮かんでくる。潤一君の場合は好きで相手のことを思って別れたから尚更」
確かにそうだ。
お酒を飲んで忘れようとした。だけど忘れられない、むしろ楽しかったことしか思い出せない
お姉さんは突然立ち上がったのかと思うと「あ~」と叫んだ
「やってみれば?気持ちいいよ」
「いや、俺は良いです」
「あそ。あ~~~~~」
お姉さんは大きな声で叫びまくっていて、俺はその横で波を見る
しかし、ふと疑問に思ったことが出てきた
「あの、俺が美…彼女のために別れたって言いましたっけ?」
「ああああ~~~…あ?…あ、あ~…な、なんとなくそんな感じかなぁって思ってね」
「なるほど。まぁ彼女のためとか言いながらも自分が逃げたかったからなのかもしれないですけど」
「逃げたかったって?」
「………ものすごい大人な女性だったから一緒にいると自分が子供だって思い知らされて、追いつきたくても追いつけないし…ものすごいスピードで進んでいくし…子供な俺より一緒に進んでくれる人の方が良いと思ったから……」
「………そっか。潤一君さ、十分大人だと思うよ。相手のことを考えられるし自分にも責任あるって思ってるんだし。でもさ、彼女を信じるってことはできなかった?自分を信じることはできなかった?」
「………」
「ほら、もう叫んじゃえ。今まで溜まった物をぜーんぶ」
お姉さんは俺を立たせると「さぁ行ってみよう!」と海を指差す
周りにはだれも居ないけどさすがに恥ずかしい。
しかし、横ではお姉さんがニコニコしながら「さぁさぁ」と言ってきて、勇気を振り絞り海に向かって叫んでみた
「まだ好きだぁぁぁぁぁぁ」
思いっきり腹の底から叫ぶ
これが本当の気持ち。俺はまだ美穂さんの事が好きだ
諦めるなんてことはできないし、他の女性を好きになるとは思えない。
俺の中で美穂さんが一番なんだ。これは変わらない
叫んだことで心のどこかにあった物の欠片がころっと外れたような気がする
「はぁ~…なんか青春しちゃったね」
「そうですね。でもなんかちょっとだけスッキリしました」
「よかった。それじゃそろそろ帰ろっか」
「はい」
俺とお姉さんは車へと戻ろうとする
しかし、少し歩いた所で自分の携帯が無いことに気が付き、お姉さんに言ってから取りに行く
携帯はさっき座っていた所にポツンと落ちていて、それを拾う。
少し、いや、かなりお姉さん感謝しないといけない
海に向かって叫んだことで気持ちの整理は付いた。
だけど、それで何かが変わるってことはない。でも、前には進めるような気がした