◎第30話◎ 海、見に行こう
頭がガンガンする
加奈子と一緒に飲んでしまって、つい加奈子のペースで飲んでしまった
横に加奈子の姿は無く、時計を見るとすでに8時半になっている
確か、加奈子の夫が来る時間が9時前ぐらいだと言っていたはずだ
慌てて、椅子から立ち上がり、加奈子を探そうとするとくらっと世界が揺れる
「っと…美穂、大丈夫?」
「え、ええ。それよりも加奈子、そろそろ」
「あ~勉でしょ?わかってるわかってる、もう怒ってないし美穂が起きる前に一回家に帰ってるから」
あっさりとした顔で普通に言った加奈子に思わず気が抜けてしまって椅子に座り直す
あれだけ離婚離婚って言っておきながら今はこうだ…
加奈子は水の入ったコップを渡してくれる
「まぁなんというかさ、ご迷惑おかけしました」
「もう大丈夫なの?」
「うん。それよりさ、どっか遊びに行かない?今日休みでしょ?」
「そうだけど」
「大丈夫、騒がしい所は行かないからさ。ドライブ行こうよ」
加奈子は車のキーを見せてくる
確かに一度家に帰っているらしい
でも、昨日あれだけお酒を飲んでるから残ってるんじゃないだろうか?
「大丈夫、もうお酒の匂いしないから。ほら」
口を「はぁ~」としてくる
確かにお酒の匂いはしない。これなら大丈夫だろう
それにどこか行きたい気分でもある
「海、見に行こっか」
「海?」
「そ。悩みがある時はさ、海見て小さいことで悩んでたんだなぁ…ってたそがれるのが一番良いのよ」
「…そうね。ちょっと寒いけど」
「決定!それじゃ行こ~」
すでに化粧などを済ませている加奈子を少しだけ待たせて、軽く化粧を直す
そして、防寒対策をしてから加奈子の車で海へと向かう
通勤時間も少し過ぎた所で街の中は比較的スムーズに進んでいく
「そういえば、美穂って車の免許持っていたっけ?」
「一応持ってるけど、自分の車はまだね」
「乗らないの?お金ならあるでしょ」
「今まであまり必要って思ってなかったから」
「まぁ電車が楽だしね。でもさ、痴漢とか居ない?」
「あまり分からないけど居ないんじゃないかしら?」
「ふ~ん」
普段、満員電車などの人の多い車両には乗らないようにしているし、時間帯的にも避けているから遭うことはない
確かに車があれば便利だとは思うけど…
「車は良いよ~。維持費高いけど休みの日とかに自由に遊びにイケるし」
「そうね、でも休みの日は家で過ごすことが多いから」
「何してんの?」
「部屋の掃除とか溜まった映画を見るとかかしら?」
「ふ~ん。なんか美穂らしいね」
「そうね。最近は特にそんな感じだし…」
一瞬、昔の事を思い出してしまって暗い雰囲気を出してしまった
加奈子は返事に困ったような顔をして、CDを入れ替える
入れ替えたCDは昔流行った映画から最近の映画の主題歌を入れているオリジナルのCDだ
「これ懐かしいわね、高校の時に一緒に見てた」
「あ~バック・トゥ・ザ・フィーチャーね」
「そうそう。あの時初めて加奈子の家で見た時は感動したわ」
「そういえばアレが美穂が初めて見た映画だったっけ?」
「ええ。だから映画って凄いなぁって思ったのを今でも覚えてる」
「そっかぁ。私も結構好きだったりするんだよね、これ」
「私も好きな映画ね」
「そういえば勉も好きって言ってたっけ。あ~…あいつはスタンドバイミーか、知ってる?スタンドバイミー」
知ってるも何も潤一が好きだった映画だ
一緒に見ていた時に子供のような目で見ていたのを今でも覚えている
今でも着信音はあのままなんだろうか…もう変えてしまったんだろうか…それすらもう知ることはできない
「美穂?」
「え?あ、えっとなんだっけ?」
「…いや、スタンドバイミー見た事ある?」
「ええ。前に一度」
「そっか。あ、ちょっとコンビニ寄ろう。朝ごはん食べないと事故っちゃう」
加奈子はコンビニの駐車場に入り、コンビニに入るとサンドウィッチなどを入れていく
それにおかし関係も入れていき、ピクニック状態だ
お酒も入れようとしていたけど、それはさすがに止めてジュースに変える
私はペーパードライバーだし帰り道も分からない。加奈子がお酒を飲んだら帰れなくなってしまう
加奈子は「大丈夫だよ、ペーパーでも」と言うけど私が不安だと言うとお酒を諦めてくれた
「よし、これだけ買えばいいでしょ。んじゃ海へレッツゴー」
会計も済み、袋を車の後部座席に乗せて私たちは海へと向かって走りだした。