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◎第3話◎ 潤一と私。

美穂視点です。

 

「はぁ…」


 ちょっと大人げなかったかもしれない…

 今朝は潤一を起こしてあげたのに「お母さんみたい」とか言われてついカッとなってしまった

 25歳。社会じゃまだまだ若いかもしれないけど、潤一はまだ19歳。6歳も差がある

 それに25歳なんて四捨五入したら30歳だ…考えたくないけど……


 私はいつも通り、女性車両に乗って仕事の資料を見る

 でも、頭の中には潤一のことでいっぱいだ




 潤一との出会いは1年前。潤一は痴漢から助けてくれたのは高校生だった

 いつもより仕事が長引いてしまって、満員電車に乗る羽目になった時、運悪く痴漢に遭ってしまった


 痴漢なんてされたことがなかった私は怖くて何されるかとビクビクしていた所に携帯電話の画面が見えた

 -大丈夫ですか?-

 たった7文字の言葉

 見た瞬間はビックリして、恥ずかしさで堪らなかったけどすぐに新しい文字へと変わる

 -あと少しで駅に付くからそこまで耐えてもらってもいいですか?-

 携帯の画面を見せてきているのはどこにでもいそうな高校生の男の子

 だけど、救世主のように見えた

 この子が助けてくれる。それだけでさっきまで怖かったのが少し和らぐ

 男の子は少し考えた後、再び画面を見せてきた

 -証拠のために動画取りますけど良いですか?-

 男の子は申し訳なさそうな顔で見てきて、私は映像として残されるのは恥ずかしかったけど小さく頷く

 そこからは短い文ながら励ましてくれて恥ずかしさも怖さも少しだけど和らいでいくのを感じていた


 そして、電車が駅に着く前に私に下りるように文字を打って見せてきて、駅に着くと30代後半ぐらいの男性の手を掴んで引っ張りだす

 男性は抵抗していたけど、男の子はがっちり絞め技らしいことをして逃げ出さないように頑張り、駆け付けた駅員さんに渡した

 私はその時、痴漢された女だと周りから見られるのが本当に怖くてその場から逃げだしたいと思っていたが、男の子は「スリ!」と叫び痴漢されたことを隠してくれた


「お姉ちゃん、ついてきてよ」


 男の子は優しい笑みでそう言うと、駅員さんは私が男の子のお姉さんだと勘違いしたのか一緒に来てほしいと言う

 すると周りの人は「なんだスリか…痴漢じゃないのね…」と小さく小言を言って散らばって行く


 私たちは駅員さんに案内された駅の中にある一室に入り、事情を話す

 恥ずかしさのあまり話が耳に入ってこなかったけど、ほとんどは男の子が説明してくれた


 そして、男の子と私は帰っても良いと言われ、外に出た時に住所を聞く

 助けてもらった上にほとんどのことをしてくれた男の子にお礼がしたかったからだ

 男の子は仕方なくと言った感じに住所を書いて、丁寧に頭を下げて改札を通って行った



 紙を受け取った私はすぐにお礼をしたかったけど、どんなお礼をすればいいか分からず、高校の友達だった加奈子に電話すると散々「うわぁ電車男だねぇ」と分からないことを言って茶化されたが、最後には「高校生ならゲームで良いんじゃない?エルメスのカップ貰っても困るでしょ」と言ってくれた


 それを聞いた私は仕事が早めに終わった日、生まれて初めてのゲーム屋さんへ入り、店員さんに「高校生がもらって嬉しいゲームってなんですか?」と質問してから、おすすめだと教えられた今一番売れているゲームとそれを起動させるゲーム機を買い、紙に書かれた住所へと送った



 すると、送ってから2日ぐらい経った9時頃に助けてくれた男の子から電話が来た

 最初は丁寧に話していて、大人びた子だなぁと思いながら話していると急に嬉しそうな声で「ゲームありがとうございました」と言う

 あの贈り物でよかった。そう安堵しながら男の子と会話をしているといつの間にか10時ごろになっていた

 本当はもう少し話したかったけど、電話の向こう側でお風呂に入りなさいというお母さんらしい声がして、これ以上電話を続けることはできなかった

 男の子は何度も「ありがとうございました」と言ってから電話を切ると自然に笑みが零れる

 また…助けられちゃったかも…


 最近、仕事仕事で忙しい毎日だったから身体的にも精神的にもしんどかった。

 だけど、男の子との会話で少し重みが取れたような気がする

 私は着信履歴に残っている男の子の電話番号を見ながら小さく「ありがとう」と言って携帯を閉じた




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