◎第26話◎ 加奈子と私。
ある日の事。
私が加藤さんに相談してからしばらく経った
「み~ほ。今日一緒に飲まない?」
仕事が終わったちょうど加奈子から電話がかかってきた
加奈子は少し酔っているのか、呂律が少し回っていない感じ
「加奈子、もう飲んでるの?」
「えぇ~?飲んでないよ~」
お酒の強い加奈子がここまで酔っているとなると結構前から飲んでいるら良い
急いで加奈子が言っていたバーへと向かう
「あ~、美穂ぉ」
「ちょ、ちょっと加奈子」
パッと見ただけで酔っているのが分かる
バーの店員さんも困ったような顔をしながら、私の方を見てちょっとだけホッとしたような顔をした
「この人におすすめなの入れてあげて~。あと私にさっきと同じの」
「あ、すみません。私は良いです、それよりこの子にお冷お願いします」
「はい」
加奈子は「なんでよぉ」と怒りながらもフラフラしていて見ているこっちが怖い
店員さんから貰ったお冷を半無理やりに加奈子に飲ませて、お会計を済ませる
「加奈子、行くわよ」
「えぇ~なんでよぉ」
「私の家で話聞くから、ね」
「はぁ~い」
椅子から降りた途端、フラッと体制を崩すぐらい酔ってしまっている加奈子なんて初めて見るかもしれない
何があったのか分からないけどよっぽどのことが起きたんだろう
私はバーから出るとタクシーを止める
そして、加奈子を乗せて一緒に私の家へと向かった
「もうちょっと…だから」
「み…みほ…気持ち悪ぃ…」
「もうちょっと、もうちょっと」
加奈子は家に入った途端、一目散にトイレへと向かって「お、おぇぇ~…」としんどそうな声が聞こえてくる
「みぃほぉ~…」
「もう大丈夫?」
「吐いたら酔い冷めちゃった。ビールない?」
「もう飲んじゃダメよ」
勝手に冷蔵庫からビールを取り出して飲もうとする加奈子からビールを取り上げてお水を渡す
「なんでお水なんですかぁ?」
「どうしてこんなに飲んだの?何かあったの?」
「私も飲みたくなる時あるわよ…だって、あの人浮気してたんだよ!!」
「あの人?勉さん」
「そう!!私の夫!なのに…もう離婚よ!!!」
加奈子は水を一気飲みして、私に「水!!」とコップを突き出してきた
そのコップを受け取り、冷蔵庫からペットボトルを取り入れる
勉さんはそんな人じゃないし、何かの見間違いじゃないんだろうか…
でも、加奈子は水を飲みながらどうして勉さんが浮気しているのかを話し始めた
加奈子が1人で洋服を買いに行っている時、勉さんが1人の女性と一緒に楽しそうに歩いていたという
そして、その夜に何も記念日でも無いのにプレゼントを貰った
だから、浮気をしているということらしい
「えっと…それは昨日?」
「そう、おかしいでしょ!なんの記念日でも無いのに普通ネックレスなんてプレゼントしないでしょ」
「え、でも昨日って…」
「ほんっと信じられない!!絶対離婚してやるんだから!!」
私の記憶が正しければ、確か昨日は加奈子と勉さんの結婚が許された日だったはずのような気がする
加奈子が勉さんと付き合った日の夜に耳にタコができるぐらい「この日は記念日なんだ!」って聞かされたから覚えている
コップに水を入れながらそれを言おうとすると、ちょうど加奈子の携帯が鳴った
「出ないの?」
「絶対出てやんない!美穂出てよ」
「え?私?」
「ガツンと言ってやって!私が怒ってるって」
加奈子から携帯を受け取り、耳に当てる
「あ、加奈子!」
「あ、すみません。美穂です、加奈子の友達の」
「え?あ、美穂さん…もしかして…その加奈子は」
「えっと…私の家に」
「はぁぁ~…ほんっとごめんなさい。今すぐ引き取りに行くんで」
「美穂!!!言ってやって!!!もう離婚だからねって!!」
「だそうです…」
「あぁ~……やっぱり似合わないことするんじゃなかった」
「えっと…その、昨日って確か加奈子との結婚を…」
「うん、そうなんだけど…加奈子忘れちゃってたみたいで」
「それじゃ一緒に居た女性って言うのは…あ、すみません」
他人が入ってはいけない所まで入ってしまったかもしれない
私は慌てて謝って別の話をしようかと思うと勉さんは苦笑いした
「あはは…あの子は僕の姪ッ子で、加奈子にプレゼントは何が良いのか聞いてたんだ」
「どうしますか?私から言いましょうか?」
「ん~…ごめん。悪いんだけど今日は加奈子お世話になって良いかな?明日の朝、引き取りに行くから」
「はい。それじゃそれまでに加奈子を冷静にさせておきますね」
「あはは、ごめんね」
勉さんとの話を終え、携帯を閉じて加奈子の方を見るとムッとした顔で私の方を見てきていた
「ずいぶん楽しそーに話してましたねー」
「うふふ、嫉妬?」
「ふん!いいよあげるよ!でも美穂の潤一君貰っちゃうもんね!!」
「…そうね」
「あ、あれ?………も、もしかして言っちゃいけないこと言っちゃった?」
出来る限り、顔に出さないように微笑んでみたけどやっぱり無理だったみたい
私はさっきまでのテンションのまま答えることができず、加奈子はすぐに悟った
そして、さっきまで「離婚!離婚!」と言っていたのがウソみたいに私にギュっと抱きついた
「ごめんね、なんか私」
「ううん…」
「話、聞こうか?」
「ううん、もう私は大丈夫だから…」
「大丈夫だったらそんなに悲しい顔しないよ。……ほら、今日はもう飲もう!女同士でさ!」
加奈子は笑って冷蔵庫の中からビールを取り出す
そして、私にビールを注ぐと「かんぱーい」と言って飲み始めた