◇第21話◇ その後…
**** 以降は豊臣視点になります。
「ほら、潤一!俺がお前のために合コン企画してやったんだからしっかり楽しめよ~」
豊臣のめがねの向こうにある目がキラキラしている
別に俺は頼んでないし、合コンなんてやってられない…逆に悲しくなる
美穂さんと別れて数日
去年の高校最後の春休み並みに長い長い春休みが訪れている
去年はあっという間だったのに…今年は本当に長い…
それに大学生の春休みはどうしてこんなに長いんだろう…俺は実家暮らしだけど高校の友達はほとんど都会へ行ったため、暇だ
だから、こうして豊臣の合コンのメンバーに召集される
「今回のは年上だぞ。お前年上好きだろ?」
「……飯だけ食うから別に誰でもいい」
「はぁぁ…本当にそれでいいのか?お前、彼女さんと別れたとか言ってから全く生気を感じないんだけど」
「こうして喋ってるだろ」
「いや、喋る人形みたいな感じ。ただ時間が過ぎるの待ってるなぁって」
豊臣の言う通りだ
俺は結局美穂さんのことなんて忘れることはできない。
美穂さんと一緒にいると落ち着くし安心できる。あの気持ちよさを知ってしまった
「別にそんなこと無いよ」
「…まっ、女の人とご飯食べるだけでも行こう。ちょっとは元気になるだろ」
豊臣は先に歩いて行き、それに付いていく
俺が美穂さんと別れてからこれで2回目の合コン。
たぶん、豊臣なりに俺の事を心配してくれてるんだろう。もちろん自分自身のこともあるだろうけど
俺と豊臣は10分ぐらい歩いて、駅前に付くと適当に時間を潰す
すると、豊臣の知り合いの男が2人来て、軽く自己紹介をしてから女性を待った
10分ぐらいだろうか?
遠くの方から「豊臣く~ん」という声がして男たちは声のする方を見る
相手は見た感じ25~6歳ぐらいだろうか。
今時の可愛らしい服を着ている
「ごめんね、仕事がちょっと長引いちゃって」
「ううん、大丈夫。んじゃ行こっか」
「うん。いこいこ~」
25~6歳だとちょうど美穂さんと同じぐらいか…
全然雰囲気が違う…美穂さんはもっと落ち着いた感じで優しい雰囲気を纏っていた
その雰囲気が俺に心地よかった。でももう…
「潤一、さっさと行くぞ」
「ああ」
今日はもう酔うぐらい飲もう
そうじゃないと落ち込んでばっかりになってしまう
居酒屋に入るなり自己紹介的な雰囲気の中、俺は雰囲気を壊さないようにお酒を飲んだ
****
「ひっく…うっ!?」
「おぃぃ…まじ勘弁してくれよ…潤一…」
最近潤一の様子がおかしいと思っていたけど、これは異常すぎる…
これは相当前の彼女のことで参っている証拠だ
潤一は電信柱に手を付きながら、吐きそうで吐けないって感じに苦しんでいる
いつも潤一を合コンに呼んだりしているけど、ここまで酔っ払ったのは初めて見るかもしれない
「おい!豊臣!!もう一件いくぞ!!」
「行くわけないだろ…最悪だよホント…せっかく人が集めてきた女の子がドン引きするほど飲むなよ…」
「ああ?早く行くぞ!」
「あ~わかった。わかったから!叫ぶなって近所迷惑だ」
「もーやってらんねぇーよ!!!」
こんなの居酒屋に連れていけるわけがない
俺の家へと潤一を連れていく
「ふぁぁぁ~…こっちって豊臣の家じゃないのかぁぁ」
「家で飲もうな。酒なら買ってあるから」
「さすが!さすが豊臣くんだ!秀吉の血が流れてるだけある!!!」
「いや、流れてないから」
「ああ?」
絶対聞いてない…
潤一は俺の部屋に入るなり、玄関にベタぁと寝転び、手足をバタバタし始めた
「あ~…気持ちいぃ~…豊臣もしてみろ」
「しない。ってか、そこで寝んなよ!風邪引くぞ」
「あぁ?…ふぁぁぁ~」
「あ~~もう!ほら、起きろよ!」
「静かにしろよぉ…頭に響く」
潤一は身体中の力を抜いていくような感じで顔を廊下に付けて目を瞑り始めた
俺は急いで潤一を起こし、自分のベッドに寝かす
「おぉぉ、ふかふかだ~」
「はぁぁ…」
「んじゃおやすみぃ」
「さっさと寝ろ…うっさい…」
潤一をここまでさせる人ってのはどんな人だったんだろう…
潤一は気持ちよさそうに俺のベッドで寝はじめる
昔、俺と潤一が出会った時にはもう彼女がいると言ってた
あいつはそのたびに良い顔をしながら、どんな所に行ったとかどんなことをしたとか色んな事を話していた
でも、数日前に出会った時にはもう潤一の目から生気っぽい物を感じられないほど落ち込んでいた
俺の場合、彼女なんて別れても次がいるから切り替えられるけどこいつは違うんだろうか?
それとも、1人の彼女を愛し続けて、別れた時こんな風になるんだろうか?
女なんて星の数ほどいるのに…
「みほさん……」
潤一は寂しそうに呟いて寝がえりを打つ
みほ。って人は潤一にとってどんな存在なんだろう
俺は冷蔵庫の中からビールを取り出す
そして、飲もうとすると潤一の携帯が目に入った
この携帯の中にみほって人が潤一にとってどれほどの存在なのかが入っている
悪いとは思いつつも俺は潤一の携帯を開いた