◇第2話◇ 俺と美穂さん。
電車のドアが開く瞬間
俺は横にいる女性のお尻を触っていた手をガシッと掴み、引きずるように電車から降ろす
もちろん女性も一緒に下りてもらった
そして、抵抗してくるおじさんを絶対離さないように友達と遊びでしかやったことがない腕を後ろに回す絞め技をする
「おっさん、いい歳して何してんだ」
見た感じは30後半だろうか
立派なスーツを着ていて、どこにでもいる普通の人だ
だけど、確実に痴漢はやっていた
周りは何事かという騒ぎが起き始め、それに気が付いた駅員がすぐに駆け寄ってくる
「ど、どうかなされましたか?」
「あ、ちか…じゃなくて…えっと~…財布、財布取られちゃって。そう!スリです!」
「え?あ、はい。それじゃこちらへ」
「姉ちゃん、ついてきて」
痴漢したおっさんを駅員に渡してから手を振って女性を呼ぶ
すると、俺の考えを分かってくれたのか駅員さんが女性の方を見て「お姉さんですか?すみませんが一緒によろしいですか?」と言ってくれた
駅員さんと痴漢男、俺、女性は取調室みたいな部屋に入れられ、俺はさっきの電車の中のことを話す
最初は駅員さんも疑い気味だったが、女性のお尻を触っている携帯の動画を見せると信じてくれた。もちろん許可は貰っている
痴漢した男もまさか動画まで取られてるとは思ってなかったのか、動画を見た瞬間に抵抗を止め自分がやったと自白した
そこからは色々あり、思ったより時間を食われ、俺と女性は帰っても良いと言われた
「ふぅ~…長かった…」
背伸びをして解放された喜びを精一杯表現していると後ろにいる女性に声を掛けられた
「あ、あの…本当にありがとう」
「え、でもすぐに助けられなかったですから」
改めて女性を見ると本当に綺麗な人だ
顔の1つ1つのパーツが綺麗で上手く配置されてる。もう作られたみたいな感じだ
見惚れていると女性がカバンの中から紙とペンを取り出した
「お礼がしたいので住所と名前を」
「いや、いいですよ」
「でも、本当に助かったので…」
「ん~…わかりました」
住所を教えても、それを悪く使う人には見えないし、断りきれないと悟ったので紙に住所を書く
書いている途中にどっかで重なる絵が出てくる。そして、それが何かを思い出して思わず笑ってしまった
「どうかしましたか?」
「あ、ごめんなさい。なんかこの展開って電車男みたいな感じだなぁって」
確かこの後エルメスのカップをもらえるはずだ
もちろんそんなの貰っても困るだけなんだけど
女性はキョトンとした顔でこっちを見ていて、電車男の事を知らないらしい
「よしっと。本当にお礼なんて良いですよ?書いてから言うのもアレですけど」
「斉藤潤一くんですね。今日は本当にありがとうございました」
「いえ、それじゃ俺は」
「あ」
「はい?」
「私は谷川美穂です」
「あ~はい。それじゃ」
そこで俺と美穂さんは別れた
それから約1週間ちょっと経ったぐらいに俺宛てに中ぐらいの箱が送られてきた
中身はまさかのエルメスのカップ。では無く、最近出た新型のPSPと最新作の狩りをするゲームが入っていた
ちょうど俺のPSPが雨によって潰れてがっかりしている所で、一番欲しいと思っていたゲームだったのでものすごく舞い上がってしまったのは覚えている
もちろん、こんな2万を超えるようなお礼をあんな痴漢を捕まえた程度でされたから冷静になってビビってしまったけど、高価なプレゼントをしてくれたからお礼の電話をする
「これってまさに電車男みたいだ」
自分で言って吹いてしまったけど、そのまま包装されていた紙に貼ってある電話番号にかける
「あ、夜分遅くにすみません。えっと~…斉藤なんですけどぉ…」
「斉藤さん?……あ!!」
思いだしてくれたみたいだ
「あの今日届きました」
「あ、そうでしたか。すみません、なにが良いのかよく分からなくて」
「いやホントに嬉しかったです!ありがとうございました!」
「いえ。本当にあの時は助かりましたので」
「でもこんな高いのもらうなんて」
「そのぐらい感謝しているので大丈夫ですよ。喜んでもらえてよかったです」
「本当にありがとうございました」
電話越しなのにペコペコ頭を下げるほど嬉しくてついテンションが高くなってしまう
俺はいつの間にかお礼以外にも普通の話をしてしまって、時間が思ったよりも長い時間話していたことに母さんが「お風呂に入りなさい!」って言うまで気が付かなかった
「あ、すみません。なんか長いこと話しちゃって」
「いえ、楽しかったから大丈夫ですよ」
「それじゃ本当にPSPとゲームありがとうございました」
「いえ、こちらこそありがとうございました」
もう1回頭を下げて電話を切ってからお風呂に入り、出てきてすぐに貰ったゲームを起動させる
それからはいつもどこでも電車の中でもゲームをやるようになった