◇第17話◇ 紗代さん
最近、美穂さんからメールが来なくなった
試験中なのを考えてくれてるのかもしれないけど何か嫌な予感がする
試験の見直しも終わり、あとは出られる時間になるまで待つ
その間ずっと美穂さんの事を考える
もう1週間はメールも電話もしていない
美穂さんとは付き合ってから2日に1回は必ずメールをしていたからどこか物足りない
でも、俺からメールをしたら美穂さんに迷惑がかかる
美穂さんは社会人なんだから、俺みたいに四六時中暇ではない
「それでは出来た人は退出してもいいですよ」
前で先生がマイクで言う
すると数人が立って教室を出ていく。俺も席を立ってテスト用紙を置いて、廊下に出る
今日の授業はこれで終わりだ。携帯を開いてメールが来てないことを確認してから家へと向かう
美穂さんにメールしたい。でも、邪魔はできない
夜にしてみるか?…もし、誰かと飲んでたりしたら邪魔になるんじゃないか?
それじゃ家に行くか?…美穂さんも疲れているんだろうから可哀そうだ。それにいつも1人とは限らない。あの、タクシーに乗っていた男性といるかもしれない。
もし、その現場にはち合わせたら俺はどうするんだろう…耐えれるだろうか…いや、耐えられない
それこそ、立ち直れない。それだけ美穂さんの存在が大きいってことだ。
だけど、美穂さんの幸せを考えたらどうだ?俺とよりあの男性との方が良いんじゃないだろうか…いや、きっと良い。俺みたいな子供と付き合うより現実的だ…
電車に乗って、ドアにもたれながら何度もアドレス帳の中にある美穂さんのアドレスを見る
メールしたいけどしたらイケない気がする
美穂さんと付き合ってもう少しで1年。初めての出会いは電車の中。
もし、あの時会わなかったら……
「あ、潤一くんだぁ~」
「げっ…紗代さん…」
「こんなところで会うなんて運命だぁ」
アニメチックな声が耳に入ってくる
めんどくさい人に会ってしまった…
俺より頭1つ2つ小さい背の女性、紗代さん。小さい時に家が近かったため遊んだりと幼馴染と言えば幼馴染の位置にいるが俺的には8歳も上なためお姉さんみたいな存在だ。外見は別にして。
紗代さんはスーツに身を纏いながら如何にも働いてますって感じの服装で俺の前に立つ
だけど、正直周りから見ればこのスーツを着た女性は就活をしている大学生にしか見えないし、スーツじゃなかったら高校生にも見えるだろう
「今日も就職活動ですか?」
「あはは、相変わらず面白いギャグだねぇ」
「…どうかしたんですか?こんな時間に」
今は15時
仕事が終わるには早い時間帯だ
「いやぁ…ちょっとあってね~。で?潤一君は学校頑張ってる?」
「まぁなんとか単位は」
「そっかぁ」
「紗代さんはどうなんですか?確か……えっと~…なんでしたっけ?仕事」
「声優だよ」
「あ~そうだそうだ。どうですか?」
「アニメ見てないの?私、主役なんだよ」
「へぇ、興味無いです」
アニメとかは夕方系のは見るけど深夜のは見ない
見てみたい気持ちもあるけど、眠くて起きてられないから
俺は携帯を開いてもう1回美穂さんにメールを送ろうか悩もうとすると、ニョキっと紗代さんの顔が伸びてきた
「聞いてよ、私の仕事あと2時間後なんだけどそれまで暇なのね」
「だから?」
「一緒にご飯食べない?」
「…奢ってくれるなら行きます」
「相変わらずだねぇ…まぁお姉さんが奢ってあげよう」
紗代さんは胸をポンッと叩いてお姉さんの顔をするけど、俺と身長差がある上に見上げてくるから歳上に見えない
でも、ここでそれを言ったら奢ってもらえないかもしれないので口を閉じて笑顔で返す
それからは紗代さんの仕事状況を聞きたくもないのに聞かされる
最近は声優ブームとか言うやつで自分も有名になったとか、サインの練習をしているとか、歌を作ってるとか…色々聞かされる
そして、それはファミレスでご飯を食べている間も聞かされて笑顔で返すしかなかった