◎第12話◎ ぬくもり
急に潤一が私の入っている布団の中に入ってきた
どうしてなのか分からないけど、潤一は私をギュッと抱きしめる
潤一の胸からはトクントクンと一定のペースで心臓の音で鳴っていて、抑えたはずの涙が流れ始める
言葉なんていらない。潤一の優しい気持ちが私の心を満たしていく
「…潤一、ありがとう」
「ん?何?」
「ううん、何でも無い」
小さい時、欲しかったのは人のぬくもり
いっぱいおもちゃや服を買ってもらっても、やっぱり機械が作ったモノ
どれだけ愛情を込めて送られたものでも嬉しい反面、小さかった私にはそのモノにぬくもりを感じることはできなかった
だけど、潤一は違う。なんでもお見通しかのようにぬくもりをくれる
目を瞑って潤一のぬくもりを感じていると、潤一のお腹からぐぅ~っと鳴った
「あ~………ごめん」
「あはは、お腹減っちゃったね」
「カップ麺とか雑炊とかあるけど、食べられる?」
「うん」
「んじゃ作ってくるよ」
布団の中から潤一が出て、寝室を出る
私の横にはまだ潤一のぬくもりが残っていて、潤一の匂いも残っている
あの子は時々私より大人になる。普段は子供みたいでニコニコしているけど、真剣な時は男の子から男性に変わる。その男性になった潤一がカッコよく見えて嬉しくなる反面、心配になる
いつか私より若い子に行っちゃうんじゃないかって…
「できたよ~ってあれ?どうしたの?美穂さん」
まただ…
風邪を引くと何故か涙もろくなるらしい
潤一は心配そうな目で私を見てきて、どうすればいいのか分からないという顔をする
「…大丈夫よ」
「でも…」
「ごめんね、心配させて」
「…ううん。はい、これ」
「ありがとう」
これ以上、潤一に心配をさせてはいけない
流れそうな涙を押さえて、笑顔でカップを受け取る
そして、ゆっくりと食べた
「あ、美穂さん。別に食べられなかったら残していいからね」
少し食欲がないってことを気付いたんだろうか…
潤一の方を見ると「ん?」と子供みたいな目でこっちを見てニコッと笑う
もし、もしも潤一に同じ歳の彼女ができた時、私はこの子を手放すことができるんだろうか…
付き合ってからもう1年近く
最初こそは潤一の周りには男の子が多かったけど、今は違う
合コンに行ったりするし、女の子とだって会う機会はたくさんある
だから、私以外の子に気持ちが行く可能性は無いとは言い切れない。だって6つも歳が離れてるんだから…
もし、潤一と別れた時、私はどうなるんだろう?
潤一がいない生活が見えない。…いや、見たくないだけなのかもしれない
だって、それだけ私は潤一のいない世界が怖いんだから。