◎第10話◎ 潤一とデート
朝、携帯電話の鳴る音で目が覚めた
ベッドから出るために身体を起こそうとするが力が入らない
身体もいつもより寒く感じるし、頭もズキズキと痛い
でも、今日は潤一とのデート。
約2カ月ぶりのデートだから頑張って綺麗にして潤一に会いたい
それに潤一は動物が好きで、今日のデートも動物園
昨晩のメールでものすごく楽しみにしているような感じだった
私は無理やり身体を起こして、着ていく服を探す
その間も頭がズキズキするけど、おそらく昨日、仕事をやりすぎたからだろう
今日のために残さないように残業したからまだ頭が疲れているのかもしれない
気合を入れるためにシャワーを浴びようと決め、お風呂場へと向かう
そして、シャワーを浴びていると携帯の鳴る音が聞こえてきたと同時に急に身体が重くなり始めた
「あ、あれ…?」
目の前がくらっとして、思わずしゃがむ
まるでゆっくり地面が揺れているような感覚。
私は力を振り絞ってシャワーを止め、身体を拭き、嫌な予感をしながら体温計で体温を測る
数分後、ピピピと耳に残るような音が鳴り、体温を見ると38℃を超えていた
38℃という数字を見た瞬間、私の中の何かの糸が切れたように身体が更に重くなり始め、寒さが増してくる。頭の痛みもだ
それでも、今日は2カ月ぶりの潤一とのデート
休むわけにはいかない
私は重い身体に鞭を入れ、服を取りに行く
するとまるで電池が切れたように身体が動かなくなり、目の前が暗くなっていった
夢。
まだ私が小さい時の夢。
私は世間ではお金持ちの家庭で育った
だからなのか分からないけど、お金に不自由したことはない。
欲しいおもちゃがあれば買ってもらえたし、服も買ってもらえた
何も不自由しなかった。お父さんやお母さんにも愛されていたし、お手伝いさんも優しかった
だけど、他の皆が持っていて当然なモノを私は手に入れることができなかった
小さかった私はそれが欲しくて欲しくて堪らなかったけど、親に言うことはできなかった
「ん……」
額に冷たい感触を感じる。それが気持ちいい
目を開けるといつの間にかベッドの布団の中にいて、天井を見上げていた
頭がぼーっとする…
身体を寝かせたまま辺りを見回すと私の部屋ってことは分かる。そして、時計の方を見ると12時になっている
12時………あ!!!
大事なことに気が付いて身体を起こそうとすると全然力が入らない
何とか腕に力を入れて、無理やり身体を起こし、もう1度時間を確認する
12時
見間違いでは無い。今日は潤一とのデート。
待ち合わせは10時で動物園の門の前。
もう2時間もオーバーしてる!
私はズキズキする頭で潤一のことを考えた
もう2時間も待っている。根は真面目な潤一の事だから黙って帰ることなんてないだろうし、ずっと待っているだろう
重い身体で近くに置いてある携帯を取り、電話をかけようとするとメールが何件も入っていて、留守電も入っている
「ご、ごめん!美穂さん!えっとえっと~…そのホントにごめん!だか」
潤一が慌てたように電話してきていて、途中で切れてしまっている
でも今はそんなことはどうでもいい。今はとりあえず潤一に謝らないといけない
ハッキリとしない意識の中でアドレス帳から潤一の電話番号を出し掛けた
電話のから聞こえるコール音の他に家のどこかで映画のスタンドバイミーの主題歌が流れる音がする
潤一の着信音もこれだったような…確か前に深夜にやっていたのを一緒に見ていた時に「やっぱりこの映画良いね!俺も昔、冒険とかしたんだよ?さすがに死体探しはしなかったけど」と言っていた
でも、今は潤一に遅れたことを謝るのが最優先だ
いつもならすぐに出てくれる潤一が中々出てくれない…もしかして、怒っちゃった…
ものすごく不安な気持ちが湧きあがってくる
もし、潤一に嫌われたらどうしよう…
まだ決まったわけでもないのに涙が溢れてきて、泣きたくなってくる
流れそうな涙を必死で抑えながら潤一が電話に出てくれるのを祈っていると部屋のドアがバタンと開いた
「あ、美穂さん。起きた?」
「じゅ…ん…いち…?」
「あ、ごめんね。俺の携帯で起きちゃった?…って美穂さんからだ」
潤一は携帯を取って、音を消す
私の携帯からはツーツーツーという音が聞こえてきて、潤一が私のおでこに手を当てた
「ん~…まだ熱あるね。ちゃんと寝とこうよ。ホントびっくりしたよ、部屋入ったら美穂さん下着姿で倒れてるんだもん」
「………」
「んで、身体触ったら熱いし、しんどそうにしてたから慌てちゃったって。あ、ごめん、しんどいよね」
潤一は私を優しく寝かせて布団を首の所まで上げる
そして、私の顔を見た途端びっくりしたような目をした
「ど、どうしたの?美穂さん。もしかして頭痛い?病院行く?あ~でも俺車の免許持ってないし、あっ!救急車!!救急車呼ぼうか?」
潤一が驚いた理由。それは私が涙を流したから
さっきまで我慢して謝ろうと耐えていた糸が潤一を見た瞬間、プチンと切れてしまった
すると自分ではもう抑えられない
潤一はものすごく慌てている様子でこのままじゃ本当に救急車を呼びかねない。私は大丈夫と言おうとしたけど言葉にならず涙が溢れた