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◇第1話◇ 美穂さんと俺。

はじめましての方ははじめまして。

前の作品から来てくださっている方は、ありがとうございます。

「美穂さんと俺、潤一と私。」の方、これからも温かい目で見守ってください。


それではよろしくお願いします。

「潤…………潤一…起きなさいってば!」

「ったぁ!?もぉ…なにさ…美穂さん」


 顔の上にボスッと枕を叩き付けられて嫌々起きると前には背中まで綺麗に伸びた髪をゴムでまとめているスーツを着た女性が立っている。これが俺の彼女、谷川美穂たにがわ みほさん

 美穂さんは腰に手を当てながら大きくため息を付く


「はぁ~…潤一、1限からって言ってたから起こしてあげたんでしょ!ホントサボりすぎてるんだからちゃんと行きなさい!授業料誰が払ってると思ってるのよ!」

「俺の母さん」

「わかってるならちゃっちゃと起きなさい!」

「もぉ…美穂さん、なんか母さんみたい」

「私はまだ25よ!!!」


 頭を掻きながらめんどくさそうに言うと美穂さんはカーッと怒ったように叫ぶと、そのまま椅子に座って朝ごはんを食べ始める

 やってしまった……

 地雷を踏んでしまったことに後悔しながら身体を起こし、美穂さんの前に座る


 俺は斉藤潤一さいとうじゅんいち

 今はぴっかぴかの大学1年生で自分で言うのもアレだけど顔も悪くない。いわば普通だ

 言ってて悲しくなるけど…


 美穂さんは黙々とパンを食べていて、俺となんか目も合わしてくれない

 やっぱり年齢関係は地雷だ…


「今日もホント綺麗だしカッコいいね」

「そう」

「いや、ほんっともう可愛いし、会社でもモテモテでしょ?俺だったらもう仕事にならないもん」

「………」


 おだて作戦は失敗……次の作戦はアレにしよう…


「このパンおいしいね。やっぱり美穂さんが焼いてくれたパンはおいしいなぁ」

「…それコンビニで買ってきたパンなんだけど」

「あ……え~っと~…」


 地雷を踏んだ上に爆発させてしまったみたいだ…

 美穂さんは完全に怒ったみたいで俺のことなんか無視してカバンを持ち、そのまま外に出ていった


「はぁぁぁぁ……」


 頭の毛が無くなるぐらい掻きまくって、朝食を食べ終わり、皿も洗う

 この家は美穂さんの家だ

 高級マンションの上から数えた方が早い階にある家

 つまりお金持ち、お嬢様だ。それも外国の超1流大学を卒業して超1流企業に就職し、すぐに大きな仕事を任せられる人。

 まさしくエリートってのが似合う人だ。




 そんな人と普通の俺がなんで付き合っているかって言うと今から1年前になる

 俺がまだ高校生で大学受験も終わり、放課後も遊び呆けて遅くなってしまったある日


 ドアが閉まるギリギリの所で乗れた満員電車の中で俺は音楽を聴きながら、家に帰ったらゲームをしようと考えていた

 その時、俺の周りにはサラリーマンの人達に囲まれていて、横に綺麗な、如何にもキャリアウーマン!って言う感じの女性が立っていた。それが美穂さん

 普段、タバコ臭いおっさんの横とかが多い分、こういう綺麗な女性が横にいて良い匂いがしていると「生きていてよかった、今日は本当にラッキーだ」と思ってしまう


 電車が走り出してから10分

 聴いていた曲を聴き終え、別のアーティストの音楽を選んでいる間に「…っ」というものすごく小さな声が聞こえた

 最初は特に気も止めなかったけど、少ししてまた聞こえる

 風邪の人でもいるんだろうか…と思いながら一瞬周りをキョロキョロすると横にいる綺麗な女性の動きが何かおかしい

 俺は一瞬で状況を妄想…というか想像して、「俺自重しろ…」と自己嫌悪していると、電車がガタンッと揺れた


「っとと…あ、すみません」

「い、いえ…」


 急のことで変な妄想をしていた俺はつり革を持っていなかったため、横の女性にぶつかってしまった

 すぐに謝ったが、内心は「本当に超ラッキーだ」とガッツポーズを取る

 この超ラッキーな出来事は呟こうと思い、文章を打つため携帯を開き、打とうとすると言葉にできないような違和感を感じた

 何かがおかしい…そう思った俺は耳からイヤホンを取って、耳を澄ます

 これは自慢だけど俺は耳が良い。目を瞑って集中すると電車の走っている音、誰かと話している声、イヤホンから音楽が漏れる音、など普段通りの音が聞こえる

 だけど、その普段通りの音とは違う何かが擦れる音が聞こえた

 その音は思ったよりも近くて目を開けて音のする方を見ると、正直興奮……じゃなくて、妄想通りのことが行われていた


 横の女性のお尻を触っている手があり、女性が恐怖で少し震えている

 こんな状況は生まれて初めてだ。頭の中では「おいおい、どんなAVだよ…」って突っ込んでしまうけど、女性の震えを見ると本気マジ

 俺はすぐに携帯の文章を消して、-大丈夫ですか?-と打ってから女性にしか見えないように見せる

 するとビクっと震えて俺の方を泣きそうな目で見てきた

 これは肯定と取っていい。そう思った俺は文章を消して-あと少しで駅に付くからそこまで耐えてもらってもいいですか?-と打つ

 今ここで痴漢だって捕まえても所詮高校生の力だ。この痴漢している奴が力任せに逃げようとしたら抑えられない

 生きてきた中で一番1秒が長く感じただろうってぐらい長く感じ、横で苦しんでいる人も救えないと自分自身にムカついてくる

 しかし、それでも俺はそのムカつきに堪えて絶対にこの痴漢を捕まえてやると思いながら今できることをした



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