異世界から来た殺し屋、の秘書(義理)は「ガソリン高いんだよ! クソがっ」と叫ぶ。
ガソリン高い、殺人、コーヒー。
「また、一緒になりましたね、お嬢様」
「…お嬢様はやめて。殺し屋に最も似合わない呼び方よ」
「ははは。
しかし、お嬢さんも大変ですね。わざわざ、異世界で殺人をするのですから。異世界なんかで」
僕はそう口にして、笑いかける。
「仕方ないじゃん。
異世界、つまり私たちの世界に来て、世界を変える可能性を持つ人がいるんだから」
「異世界系、という創作が原因で」
「そ、異世界系」
想像は現実に変わる。
意識していなくても、想いは必ず現実になり、そして、世界も変わる。
もっとも、今から僕たちが行く異世界に住む人たちは、それに気付いていないけど。
異世界系は、異世界に行ける現実を作ろうとしている。
それを阻止するため、このお嬢様、お嬢さんのような『異世界専門の殺し屋』は、殺す。
「おっ。
そろそろ出ますよ、外に」
長い長い、『異世界』へ向かうトンネル。
秘書(この少女専属ではない)の僕は運転をしている。
「来ました、異世界。やっぱ異世界は違いますね、魔法も、この異世界にはないし」
返事はない。
そして、目的地へと、車を走らせる。
今回は、日本の田舎。
遠くを見れば、緑の山がある。
店も、本屋くらいしかなさそうだ。それも、1つしか。
僕は、目的地しか知らない。まだ17歳だけど、この異世界は小さいから、地図を見なくてもなんとなく分かる。
途中、
「…ガソリン高っ」
「うん?」
「独り言です」
「でしょうね」
「…ここでいい」
「え? いえ、まだ着いていませんが」
「ここで大丈夫。私は殺し屋だから」
可愛いどや顔。
「では、また」
「うん」
お嬢さんは、軽くうなずき、車から出る。
「ガソリン入れよ。半分しかない」
秘書として、いつでも長距離を走れるようにしておきたい。失敗はしないだろうけど、もしものときのために。
「地震なんてのもあるし。本当、異世界って発展途上世界だよね」
ため息を吐き、首を横に振る。
ガソリンガソリン。
「高いなあ。203円か。パス」
「うわっ。こっちも高い。198円」
何だ? どうした日本。
「…186円。まだ高い」
てか、ガソリンスタンド、いっぱいあるなー。田舎のくせに。発展途上世界の発展途上な田舎のくせに。
そして、
「ガソリン高いんだよーっ、クソがっ!」
ついクラクションを鳴らしてしまう。
「前は148円くらいだっただろうが! なに高くなってんだよ! 俺らの世界よりも劣ってるくせによっ!」
鳴らしまくってしまう。
…。
「叫んでスッキリした。
よし、どこも高いし、空いてる所で入れよう。
お楽しみは、100円のままだろうし」
笑顔で僕は言う。
なんか、つい俺って言ってしまったような気がするが、気のせいだろう。そこまでキレてないはずだ。
カッとなってちょっと怒鳴っちゃってクラクションを何回かだけ鳴らしちゃっただけだし、うん。キレてないキレてない。
「お待たせしました、お嬢さん」
「うん」
スマホにメッセージが入ったから、指定された場所、さっき、この子をおろした場所へ来た。
「お疲れ様です」
僕は微笑んで言う。
軽いうなずきを返される。
「血は付いていませんね、流石です」
「…殺し屋だから」
口調だけ、どや顔。
お嬢さんは車に乗るとすぐに、
「適当に本屋に寄って」
「本屋…。
あー、はいはい。本屋。オモチャですね。あそこの本屋、オモチャもありますからね」
「オモチャじゃない、ゲーム」
「ゲームですね、ゲームゲーム」
じゃあ、
「うん。いっか」
「コーヒー?」
「な、なぜそれを」
「それなりに、あなたと付き合いがあるから。また、自動販売機のコーヒー、100円の。
たまには150円のコーヒーも買ったら? 美味しいんじゃない?」
「庶民ですので」
この異世界は、劣っている。
魔法もないし、ガソリンも高いし。
だが、ゲームと、コーヒーは、素晴らしい。
まあ、それは、それだけは褒めてやるよ。
特に、日本。日本のゲームとコーヒーは、特にいい。
ゲームは、したことないから、僕にはよく分かんないけど。この静かなお嬢さんが夢中になるくらいだし、すごいんじゃない? それなりに、ね。
「早く」
「分かりました」
「あと、ゆっくり走って。40くらいの速さ」
「遅すぎません?」
「楽しみたいから。この異世界を」
そんなにいいかな? この異世界の景色。僕は興味ないけど。
ありがとうございました!




