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あの、醜い嫉妬って何ですか?  作者: 徒然草


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3/3

後編

 これで完結です。


「きゃあっ!!」


 紅茶をかけられて悲鳴をあげたのはエリカ、紅茶をかけたのはローザだ。ローザは凍てつくような無表情でエリカを見ていた。


「っ…。」


 エリカは恐怖のあまり身体を震わせた…。



◆◇◆




「ローザっ! 一体エリカに何をしたんだっ!?」


 ヴァルツはベルヒニウム公爵家でローザに詰め寄った。ローザはテノールと2人で談笑していて、その姿にヴァルツはさらに憤りをみせた。


「あら、どうしたのですかヴァルツ様。ミンド令嬢が何か?」

 

「惚けるなっ! エリカが貴女に嫌がらせをされたのだと怯えた様子で訴えてきたのだぞ!!」


 憤るヴァルツはエリカの様子を思い出す。エリカは青白い顔で、震える手でヴァルツの服を掴み泣きながら助けて欲しいと懇願してきた。その様子はルナの時とは比べものにならない程弱々しかった…。


「エリカに醜い嫉妬をして手を出したのだろう!! しかも、他の令嬢達も利用するだなんて最低だっ!!」


 ヴァルツがエリカから聞いた話では、ローザがエリカを睨み付けていきなり紅茶をかけてきたそうだ。そしてその後、周りの令嬢達から無視されるようになり、社交場から孤立させられて辛い思いをしていると言う。全てはローザがエリカに醜い嫉妬をした事が理由で…。


「醜い嫉妬? …何故私がミンド令嬢に醜い嫉妬なんてするのですか?」


「そんなもの、エリカが貴女の想い人であるファークト令息の婚約者だからに決まっているだろう!」


 ヴァルツがそう言うと、ローザはおかしそうに笑った。


「ええそれは勿論、テノールの婚約者の立場になれた事についてはずっと嫉妬しておりますよ。でもテノールの愛は私だけのモノです。それに私だって、ミンド令嬢の想い人であるヴァルツ様の婚約者という立場になっているのですからお互い様であると理解しております。それに私は今後もテノールの傍にいる為の手段として、テノールとミンド令嬢の婚約を望んでいるのですよ。それなのに何故私が彼女に手を出すのですか?」


「っ、…それは、そうだが…そ、それでも貴女は我慢できなかったんだ!」


 ローザもエリカも互いの想い人の婚約者となっている対等な立場だ。そしてこの方法を思いついたのはローザである。しかし感情は理屈だけで抑えられるものではない。そう思ったヴァルツは言葉を詰まらせながらも反論した。


「それにファークト男爵令息! お前はエリカの婚約者であるというのにエリカの味方をしなかったそうだな? エリカがローザに虐められたと言ったのに信じなかったと聞いたぞ! 仮にも婚約者であるという自覚はないのか?!」


 さらにヴァルツは怒りの矛先をローザの傍らには佇むテノールに向けるが、テノールは呆れたような顔をした。


「婚約者であったピーリン侯爵令嬢を非難したバナドルナ令息が言うのですか? 貴方はミンド令嬢の言葉だけを信じて、ピーリン侯爵令嬢を非難して婚約解消したのですよね?」


「っ…!」


 かつてヴァルツがした事を出され、お前に言われたくないと言わんばかりの言葉を発したテノールに、ヴァルツは言葉を詰まらせる。


「バナドルナ令息がミンド令嬢に何と言われたのかは知りませんが、先にミンド令嬢が僕に嘘を吹き込んだのですよ。ローザに嫌がらせをされている、とね。」


「っ、な、何だと!?」


 ヴァルツが信じられないとばかりに目を見開いた。


「勿論僕は信じませんでした。でもあまりにもしつこいし、僕の身体にベタベタ触れてくるのが嫌だったのでミンド令嬢に言ったのです。仮にローザがミンド令嬢に嫌がらせをしているのが本当だったとしても、僕にとってはとても嬉しい、可愛らしい嫉妬でしかないとね。」

 

「…か、可愛らしい嫉妬だと?」


「そうですよ。バナドルナ侯爵令息だって、仮にミンド令嬢がローザに貴方様の事で嫉妬して何かしたら、醜い嫉妬だと思うのですか?」


「っ、そ、それは…。」


 ヴァルツはかつてルナに、“想うだけならただの嫉妬。相手に不快感を与える行動をしたら醜い嫉妬である”と定義してルナの行いを非難した。しかし誰が誰に嫉妬したかによって印象は変わる。少なくともエリカがヴァルツへの愛故に過ちを犯したとしても、ヴァルツは醜い嫉妬とは思えなかった。


「…その次の日です。ミンド令嬢がローザに会いに行って嘘を吹き込んだそうです。僕が本当はローザから離れたいと思っている、とね。」


「そ、そんな馬鹿な…そんな訳ないだろう…っ!」


 テノールの言葉は、エリカがテノールを自分のモノにする為。テノールに愛されるローザに嫉妬したが故の言動としか思えず、ヴァルツはショックを受けた。


「本当ですわ。勿論私はそんな嘘を信じませんでした。でも私に対して醜い嫉妬から喧嘩を売ってきたミンド令嬢に我慢出来ませんでしたので、お仕置きしようと思いましたの。紅茶は火傷する温度ではありませんでしたし、友人達には悪口を言ったり危害を加えないようにはお願いしましたのでそれなりの配慮はしたつもりですよ。」


「っ…い、いやしかし。」


「それにピーリン侯爵令嬢にされた嫌がらせよりはマシなのではないですか? ピーリン侯爵令嬢は度々ミンド令嬢に悪口を言って、危害を加えていたと聞きましたけど、具体的にはどんな事をされていたのですか?」


「それは…。」


 ヴァルツは黙り込んだ。ルナに嫌がらせをされた時のエリカは具体的に何をされたのかは言っていなかった。“悪口を言われた”、“嫌がらせをされた”と涙ぐみながら言っていただけだ。今回のローザとの事は紅茶をかけられ、令嬢達から無視されたと具体的な説明があった。


「っ!?」


 考え出したヴァルツはあってはならない想像をしてしまった。ルナに嫌がらせをされていた時と比べると今のエリカは本当に辛そうで、ルナの時にはまだ余裕があったように思えてしまう。それにエリカはテノールの婚約者になってからヴァルツに会いに来ようとしなかったし、テノールばかりを見ていた。今回の事はローザとテノールの言う事が正しいだけではなく、ルナに嫌がらせをされていたというのはエリカの嘘だったのではないか。そう思えてきてヴァルツの顔色は悪くなっていった。


「ふふっ、やはりミンド男爵令嬢の嘘だったようですね。でも、好きな男を手に入れる為に汚い手段を使いたくなるのは当然ですわ。これでヴァルツ様一筋であったなら、仲良くなれたと思いますのにね。」


 そんなヴァルツを嘲笑うように見るローザに、テノールは笑いかけた。


「本当に残念だよ。ローザの為とはいえ、そんな女の婚約者になった僕自身も不幸だ。でも、ローザの為なら我慢するさ。」


「ふふっ、有難うテノール。」


 ヴァルツなんか存在しないかのように、2人は微笑み会話をする。エリカの気持ちを奪っておきながら、エリカを全く相手にしない。そしてローザの愛をずっと独占し続けるテノールに、ヴァルツは憎しみを募らせていく。今すぐテノールに殴り掛かりたくなり、ギュウッと拳に力を込めた。


「でもねローザ、一つだけどうしても我慢出来ない事があるんだ。醜い嫉妬を出してしまう事を赦して欲しい。」


『ヴァルツ様、もしミンド令嬢に婚約者が出来ても、醜い嫉妬で相手の令息に嫌がらせなんてしては駄目ですよ?』


 醜い嫉妬という言葉を聞いて、かつてルナに言われた言葉が脳内で蘇り、ヴァルツはハッとして握っていた拳を開いた。


「あら、テノールの嫉妬は全て可愛らしい嫉妬でしかないわ。言って頂戴?」


 ローザの言葉に頷いたテノールは、無表情でヴァルツを見た。


「婚約者とはいえ、僕のローザを呼び捨てで呼ばないで欲しい。公の場で取り繕うだけならともかく、それ以外は我慢出来ない。」


「っ!?」


「まぁ、うふふっ!」


 本来なら格下である男爵令息から出るとは思えない生意気な醜い嫉妬からの言葉。だがヴァルツの婚約者である公爵令嬢(ローザ)は嬉しそうに笑うだけだった。ヴァルツがどんなに不快に思っても、醜い嫉妬だなんて反論出来なかった…。





◇◆◇



 ベルヒニウム公爵家を出た帰りの馬車の中、ヴァルツの表情はとても暗かった。婚約者が他の男と浮気している。本来であれば両親に相談すれば何らかの対処を期待できたかもしれない。しかしヴァルツも人の事は言えず、さらにルナの時にエリカの言葉を鵜呑みにして婚約解消をしたヴァルツを両親が庇う筈がなかった。何なら両親はローザとテノールの事を承知で婚約を結ばせた可能性も大いにある。


「…エリカはどうなるかな。」


 無意識にエリカの事を口にしたが、ヴァルツはもうエリカを庇うつもりは全くなかった。エリカが仮に婚約解消を望んだとしてもテノールはローザの為に婚約解消するつもりはないのだろう。エリカがテノールとローザの事を誰かに話しても、公爵家の力で捻じ伏せられて終わるに違いない。何よりこの現状を招いたのはエリカ自身であり自業自得だ。それにエリカを愛していたヴァルツを裏切ったのだ。正直、いい気味だとヴァルツは思っている。不幸になったのがヴァルツだけではない事が、せめてもの救いなのかもしれない。


「……っ、あれはルナ!?」


 馬車の窓からルナが見えた。ルナは男と一緒に歩いていた。仲睦まじい様子でルナはとても楽しそうに笑っていた。ルナの隣にいる男はルナばかりを見ており、ヴァルツからは後ろ姿しか見えない。だがルナがその男に向ける笑みはヴァルツと一緒にいた時に一度も見せた事がなかった。


「っ、なんだよ、その顔は…。」


 ルナを愛した事などないのに、隣の男に苛立ってしまう。苛立ったところでもうルナとは関われないし、男の正体も分からないまま何もする事など出来ない。そもそもルナに笑いかけられているというだけで、何故男に何かをしなくてはならないのかと訳の分からない考えに、ヴァルツはさらに苛立った。馬車がルナ達を追い越し、姿が見えなくなるとヴァルツは深くため息を吐いて項垂れた。


「…あの時、ルナと婚約解消しなければ。」


 ヴァルツが不幸になり、ルナだけが楽しそうに笑う事にはならなかった。エリカはヴァルツを愛し続けたかもしれないし、ローザとテノールに関わる事などなかった。醜い嫉妬と言ってルナを非難し、婚約解消した過去の自分の行動を後悔する事しか出来なかった…。



 

 最後まで読んで下さり有難うございました! 前編でしかヒロインは喋らない。いつの間にか主人公はヴァルツで、中編からの登場人物は碌でもないというよく分からない話となってしまいました。醜い嫉妬かどうかは人によって感じ方が違う。誰か醜い嫉妬と言っても、誰かにとっては醜くなく、可愛らしい嫉妬にもなるのかもと作者は思いました。流石に綺麗な嫉妬はないと思いますが 笑

 最後まで読んで下さり本当に有難うございました!! もし宜しければ評価して頂けると嬉しいです(*^^*)

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― 新着の感想 ―
そういえば「カワイイ嫉妬」引き出すために試し行動するおバカさんってざまぁ作品でよく出ますもんね。 「糞」と「汚い糞」みたいに単なる強調表現だと思ってだ自分にとって「カワイイ嫉妬」は目から鱗でした。
自らの愚かさにより雁字搦めになる滑稽な男ヴァルツ。「滑稽」という言葉は彼の為にあるといっても過言ではないよね。他人事として眺める分には非常に面白いです。自分の欲の為に、せっせと墓穴掘りまくるエリカも。…
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