中編
前編、後編の2話で終わる予定でしたが長くなりそうなので前編、中編、後編の3話にしました。すみません。
「よろしくお願いしますね、ヴァルツ様。」
ルナと婚約破棄して早々、ヴァルツは新たな婚約を結ばれてしまった。エリカを愛しているヴァルツは新しい婚約者を迎える事に否定的だった。しかし立場上エリカとは婚約出来ない。そして両親に相談なくルナとの婚約を解消すると宣言したヴァルツの態度に両親は憤っており、ヴァルツには断る資格が1ミリも存在しなかった。新たな婚約者補ローザ・ベルヒニウム公爵令嬢だ。ベルヒニウム公爵家はローザの兄が継ぐ為、ローザはバナドルナ侯爵家に嫁ぐ形の婚約となった。
「…あぁ、宜しく頼む。」
地味なルナとは反対にローザは妖艶な魅力があった。思わず見惚れそうになったヴァルツだが、ヴァルツの心はエリカにある。どうやってエリカと結ばれれば良いのかと今も考え続けているヴァルツに、ローザは微笑んだ。
「ヴァルツ様、先にお話ししますが私は貴方を愛するつもりはありません。私には想い人がおります。」
「…はぁ?」
思わぬ発言に、ヴァルツは一瞬固まった後に苛立った声を出した。
「ヴァルツ様もエリカ・ミンド男爵令嬢をお慕いしているのでしょう? ふふっ、公にはしていないようですが、お二人が仲睦まじい様子を見せていたのは知っておりますよ。」
「っ!」
ローザの言葉にヴァルツは押し黙った。全て本当の事である為反論できなかったのだ。
「大丈夫です。私はヴァルツ様とミンド男爵令嬢が仲睦まじいと思ったからこそこの婚約を提案したのですから。私達が幸せになれる道を探しましょう。」
微笑むローザにヴァルツはただ困惑するしかなかった…。
◇◆◇
「…冗談じゃないわ、どうして私が男爵家なんかに…。」
エリカは不満しかなかった。折角ルナを陥れてヴァルツと婚約できると思っていたのに、その目論見は外れて願い通りにならなかった。ルナはヴァルツとの婚約解消に不満の様子を見せなかったし、エリカの事なんて相手にしなかった様子も癇に障った。そして今回の事で両親からエリカがこれ以上問題を起こす前にと婚約者を勝手に決められてしまったのだ。
「もう、それがどうして男爵家なのよっ!?」
同じ家柄同士の婚約は珍しくはなく、妥当であるとも言えた。しかしエリカは上の地位にいきたいという欲があった。ヴァルツを愛していない訳ではないが、侯爵令息である事がエリカにとってとても魅力的なのだ。このまま同じ地位の男爵令息と結婚するなんて冗談ではなかった。何とかしてヴァルツと結ばれる方法を考えなくてはならない。エリカはそう思いながら婚約者と顔合わせをする事になってしまった。
「初めまして、ミンド令嬢。」
「っ…!!」
エリカの婚約者となった男爵令息はテノール・ファークト。ファークト男爵家の長男だ。エリカはテノールの顔を見た瞬間、魅入られたように呆けてしまった。中性的でとても美しい、そして声も柔らかかった。外見だけならヴァルツと比べものにならないほど魅力的であり、そんなテノールと結婚出来るのであれば地位なんてどうでも良いと思えてしまった。
「先にお話ししておきますが、僕は貴女を愛するつもりはありません。」
「…へ?」
しかしいきなりテノールからそう言われてしまい、エリカは表情を一瞬歪めた。
「っ、な、何を仰るのですか! テノール様酷いですっ!!」
エリカは歪めた表情をすぐに庇護欲をそそるような泣き顔に変化させた。しかし内心は困惑しており冷静ではいられなかった。どうしてそんな非常識な事をこんなにも素敵な婚約者から言われなくてはいけないのかと苛立ちも感じていた。そんなエリカに狼狽える様子を見せずにテノールは微笑んだ。
「ヴァルツ・バナドルナ侯爵令息と両想いなのですよね?」
「っ、そ、それは…。」
「大丈夫ですよ。」
エリカはテノールに、ヴァルツとの関係を知られていた事に焦る。何と言えばいいのか考えがまとまらないが、それでも何とかしなくてはならないと口を開こうとした。しかしその前にテノールが口を開いた。
「ミンド令嬢がバナドルナ侯爵令息と両想いだと知っているからこそ、この婚約を持ちかけたのですから。」
「…えっ?」
訳が分からずに戸惑うエリカにテノールは微笑んだ。
「これで僕達は幸せになれます。ミンド令嬢、この後時間はありますか?」
「えっ…は、はい。」
「良かった、では行きましょう。」
エリカは戸惑いながらも何とか頷く。テノールはエリカを先導するように歩きだした。エリカは自身の手をとって欲しかったなと思いながらテノールの後をついて行った…。
◆◇◆
「あぁテノール、私達はやっぱり運命で結ばれているのね!」
「その通りですね、ローザ。」
とある貴族が使用する個室のレストランで4人の貴族が向かい合って座っている。ヴァルツ、ローザ、エリカ、テノールの4人だ。ローザとテノールは嬉しそうに微笑みながら隣で座っており、ヴァルツとエリカはテーブルを挟んでローザ達の向かい側で隣同士で座っている。ヴァルツとエリカはローザとテノールのやり取りを何とも言えない顔で見つめていた。
「私達もお二人と同じです。公爵家と男爵家の身分の差で婚約を認めて貰えないのですよ。本当に理不尽ですわよね。」
「どうしようか悩んでいた時に、バナドルナ侯爵令息がルナ・ピーリン侯爵令嬢と婚約解消したと聞いたのです。そして、ミンド令嬢との関係は噂になっておりましたのでお互いにとって利がある婚約を結べると思ったのですよ。」
この場に呼ばれた時点で、ヴァルツもエリカもローザとテノールの関係には薄々気付いていた。この婚約の目的は身分のせいで結婚出来ない者達が愛する人の傍にいる為の結婚、ローザとテノールによって仕組まれたモノなのだ。
「…。」
正直ヴァルツは面白くはなかった。しかしヴァルツが愛しているのはローザではなくエリカである。形はどうであれ、本来であれば結婚できずに疎遠になるかもしれなかったエリカの傍にいられるのだから悪くはないとも思い直した。エリカだってヴァルツと今後も愛し合えるのならば頷くだろうと思い、笑みを浮かべて隣に座るエリカを見た。
「エリカ…っ?」
しかしエリカはヴァルツの視線に気が付かず、視線は向かい側に座る2人に…いや、テノールから外れなかった。同じ男であるヴァルツから見てもテノールは美しい顔立ちの整った美青年だとは思う。しかし、エリカが愛しているのはヴァルツなのに、他の男を見るだなんて不愉快だった。
「エリカ、どうしたんだ?」
「っ、いえ、何でもないです。」
ヴァルツに言われてエリカはハッとしたようにヴァルツを見たが、すぐに視線はテノールに向いてしまった。
「もう、テノールは相変わらずなのよね。」
「ふふっ。」
ローザとテノールはヴァルツ達を見ずに笑い合っている。ローザの笑みはとても柔らかい。ローザは一応形だけとはいえヴァルツの婚約者であるというのに全くヴァルツを相手にしない。
「…。」
そしてエリカもヴァルツを見ない。2人の視線はテノールが独占していた。そんな状況にヴァルツは胸の中にモヤモヤとした黒い感情が膨れ上がっていくのを感じるのであった。
◆◇◆
「赦せない…テノール様は私の婚約者なのにっ!」
ミンド男爵家に戻ったエリカは苛立ちを隠せなかった。婚約者のエリカの名前を呼ばないのに、ローザの事を名前で呼ぶ。そしてローザには気安く触れるのにエリカの身体には全く触ろうとしない。テノールの愛を独占するローザが赦せなかった。
「今に見てなさい…テノール様は私のモノになるわ。」
ルナを陥れた時のように、エリカが涙ぐんで嫌がらせをされたと言えば何とでもなるとエリカは黒い笑みを浮かべた。エリカの頭の中にはもう、ヴァルツの事など欠片もなかった…。
ここまで読んで下さり有難うございました! 次回で終わります。




