前編
全3話で終わる予定です。前編だけで取り敢えず方が付きます 笑
「ルナ、お前との婚約は破棄させてもらう! お前は俺が何度忠告してもエリカに嫌がらせをする事をやめなかった。俺はお前を許せない!!」
ルナ・ピーリン侯爵令嬢の婚約者、ヴァルツ・バナドルナ侯爵令息はエリカ・ミンド男爵令嬢の肩を引き寄せながらルナを睨み付けた。
「何度も言っておりますが私はミンド令嬢に嫌がらせなどしておりません。証拠はあるのですか?」
「ひ、酷いですわピーリン侯爵令嬢っ! 嘘をつかないで下さいっ!!」
エリカは涙目になってヴァルツに縋り付いた。ルナとヴァルツが政略結婚の為に婚約者になってから数ヶ月後。ヴァルツとエリカが一緒に居る所を目撃する回数が多くなっていった。ルナはヴァルツにエリカと浮気をしているのか確認すると、エリカとは仲の良い友人だと言い張るだけだった。しかしエリカはある日から、ルナに嫌がらせをされているとヴァルツに言うようになり、ヴァルツはルナに嫌がらせをやめろと言ってくるようになった。
「いいかルナ、醜い嫉妬をして嫌がらせをするな!」
「ヴァルツ様、私は嫌がらせなんてしておりません。」
ルナは嫌がらせなんてしておらず、何ならエリカに話しかけた事すらなかった。しかし、
「黙れっ! エリカが嘘を言う訳ないだろう!!」
そう言って、ヴァルツは何時もルナの話を聞かずにエリカの言う事だけを信じた。そんなヴァルツに呆れてしまったルナは、もうどうでも良いという呆れと諦めが勝っており、何とも言えない顔をした。
「ふんっ、醜い嫉妬をしてエリカを傷付けるだなんて最低な女だな!!」
ヴァルツの言葉に、ルナはふと疑問に思い思わず口を開いた。
「あの、ところで醜い嫉妬とは何ですか?」
「…はぁ?」
思わぬルナの質問に、ヴァルツは固まった。
「嫉妬には醜くない嫉妬があるのですか? 嫉妬って良い感情とは言えませんよね? それとも綺麗な嫉妬もあるのですか?」
「っ…。」
さらにルナが質問したが、ヴァルツは黙ったまま何も言わない。そしてエリカも間抜けな顔をしてルナを見返すだけだ。
「う、五月蝿いっ!! どうでも良いだろうそんな事っ!! お前は俺に関心を向けられない事を腹いせに、俺と仲が良いエリカに嫉妬して嫌がらせをしたんだっ!! この行為は醜いだろうがっ!!」
ヴァルツが再び怒りをルナに向けると、エリカも雰囲気に合わせるように涙ぐみながらルナを見た。
「…私は嫌がらせなんてしておりませんが。つまり、嫌がらせをしたから醜いのだと?」
「…っ、ああそうだ!!」
しかしそんな2人の様子に動じないルナに、苛立ったヴァルツは投げやりのような言い方で返事をする。
「つまり、“想うだけならただの嫉妬。相手に不快感を与える行動をしたら醜い嫉妬である”というのがヴァルツ様の定義なのですね?」
「〜〜っ、五月蝿いっ! とにかくお前とは婚約破棄させて貰う!! そして、エリカに今までの事を謝れっ!!」
激昂するヴァルツだが、ルナは醜い嫉妬の定義を理解した事に満足した様子を見せるだけだった。そんなルナにエリカが面白くなさそうな顔をした後、再び涙ぐんだ。
「ピーリン侯爵令嬢っ! 勿論私が悪いのは分かっております。婚約者の貴女様よりも、友人でしかない私の方がヴァルツ様と仲が良いから…でもだからといって嫌がらせをするなんて酷いですっ!! そんな事をしたって、ヴァルツ様がピーリン侯爵令嬢を愛してくれる訳では…。」
「婚約の解消に私は同意します。まぁ、後は両家の当主に話をして決めて頂きましょう。」
エリカの話を最後まで聞かずにルナは返事をした。エリカも、そしてヴァルツも呆気にとられた顔をする。
「では、私はこれで失礼しますね。」
「っ、いや待てっ! エリカに謝罪しろっ!!」
話は終わったとばかりにその場を去ろうとするルナをヴァルツは慌てて呼び止めた。しかしルナは呆れた顔をするだけだった。
「ですから、私はミンド男爵令嬢に嫌がらせなどしておりません。」
「どうあっても謝罪しないつもりか!? いいかルナ! お前との婚約破棄後、俺とエリカは婚約者になる!! この場で謝罪しないとバナドルナ侯爵家を敵に回す事になるぞ!!」
ヴァルツの言葉に、エリカは嬉しそうな顔をしてルナを嘲笑うように見返してきた。しかしルナは先ほどのヴァルツ達のように呆けた顔をした。
「…ヴァルツ様とミンド男爵令嬢が婚約者になるなんて無理ですよね?」
「はっ、何だ負け惜しみか?」
ルナの言葉にヴァルツは何処か愉悦を感じるような笑みを浮かべながらルナを見下すが、ルナはそんなヴァルツの様子に何も分かっていないというように呆れた顔をした。
「あのですねヴァルツ様。私とヴァルツ様は政略結婚の為に婚約者になりました。私達が侯爵家という同じ地位の家柄だったからです。私が貴方を、貴方が私を愛しているだなんて感情で結ばれた訳ではないのです。」
「…それが何だ。」
「ミンド男爵令嬢は下位貴族である男爵家の者です。どんなにお二人が愛し合っていたとしても感情を理由に結婚出来ませんよ。違いますか?」
「っ!?」
ルナの言葉にヴァルツは忘れていたのか、それとも考えもしなかったのか驚いた表情をした。
「い、いやしかしエリカはお前に嫌がらせを受けた被害者であって…。」
「それが何だと言うのです。私がミンド男爵令嬢を虐めていたとしても、何故それが理由でヴァルツ様がミンド男爵令嬢と結婚するのですか? “醜い嫉妬心から令嬢を虐めた婚約者に嫌気がさして婚約破棄した”、それで終わりですよね?」
「なっ…!?」
「えっ…私は、ヴァルツ様と結婚出来ないの…?」
不穏な状況に、エリカは思わず不安を口に出した。
「っ、いや、そんな事はないっ!! 何か方法はある筈だ!!」
「あの、ヴァルツ様もミンド男爵令嬢も気付いておりますか? お互いを友人だと言っていたお二人は結婚しようと思っていたなんて…どう考えても浮気しておりましたよね? つまりそれって、私が嫌がらせをしたとしてもその理由はヴァルツ様の浮気が原因という事になりますよね。ヴァルツ様に何の罪もないとでも思っているのですか? それに、婚約者がいる令息の側に居続けたミンド男爵令嬢、貴女もですよ。」
「え、あっ…!」
「っ…ち、違います、それはっ…!!」
婚約破棄を突きつけても謝罪も焦りもしないルナの態度に隠しきれなかったのか、ヴァルツもエリカも自爆して墓穴を掘っていた。そしてその事にルナが指摘するまで気付かなかった事を、ルナは滑稽に思った。
「い、いや、俺達は身体の関係を持った訳ではないし浮気だなんて言われる筋合いはない!!」
「えっ? でもヴァルツ様は愛するミンド男爵令嬢を傷付けられたから私を許せないのですよね? それに、結婚したいと思うほど愛しているのですよね?」
「っ、い、いやだから、それはっ…。」
ようやく状況を理解したヴァルツは顔色を悪くして黙り込んだ。バナドルナ侯爵はヴァルツの婚約者の選定に家柄を重視している。伯爵家までなら問題ないだろうが男爵家は認められない。それにエリカと婚約者になればヴァルツとエリカが浮気をしていたと世間に公表する事になる。そんな2人の結婚はどうあっても認められる筈がなかった。
「…まぁ、お二人が今後どうされるのかは私にはもう関係ありません。ではヴァルツ様、最後に良いですか?」
「…何だ。」
ルナを罰し、エリカとの明るい未来を想像していたであろうヴァルツはその未来が叶わないと知って意気消沈している。そんなヴァルツにルナは笑みを浮かべた。
「ヴァルツ様、もしミンド令嬢に婚約者が出来ても、醜い嫉妬で相手の令息に嫌がらせなんてしては駄目ですよ?」
ルナはそう言うとヴァルツ達に背を向けてその場を離れた。背後からヴァルツとエリカが何かを言ってきたがルナは無視した。
その後、ルナとヴァルツの婚約は解消された。ヴァルツはルナがエリカに嫌がらせをする最低な女だからと主張したが、エリカの証言以外の証拠はなく両家の当主は信じなかった。逆にヴァルツとエリカの仲を疑われてヴァルツは追い詰められた。しかしルナはその事を追及せず、ただ価値観や考えが合わなかった。家柄を重視するだけならまだ他の家もあると話し、その場を収めた。しかしヴァルツ個人との関わりはもう持ちたくないとルナが言うと、バナドルナ侯爵は謝罪しながら受け入れた。
ルナとヴァルツは両家同意の平和的な婚約解消となった。ピーリン侯爵家とバナドルナ侯爵家は今後も表向き良好な関係を続ける。その代わりにヴァルツとルナの個人的な接触を禁じるという事で方が付いた。そうなるように取り計らったルナを、ヴァルツは複雑そうに見つめていた…。
「醜い嫉妬をするな」というセリフをよく見ますが、醜い嫉妬心って何だ…と思って書いてみました。嫉妬は嫉妬、綺麗も醜いもないですよね? アホな婚約者と婚約解消したヒロインですが、ヒロインの感情薄すぎたかなと思いました 笑 中編、後編はアホな婚約達の末路を書く予定です。
ここまで読んで下さり有難うございました! もし宜しければ評価して頂けると嬉しいです(*^^*)




