都へ向かって
ウワ大陸、ホノオ王国のどこか。夜明けが近づき、雲の多い空が白み始めていた。空気はひんやりしている。近くに大きな街はなく、あたりには静かな孤独が漂っていた。ダイケとダンには、二週間の旅が待っている。
「ふあぁ……また一日が始まったな。昨日より少し体が軽い。ひどい目にあったけど、無駄じゃなかったと思いたいな」
ダイケはあくびを噛み殺しながら、そう呟いた。
ダンはまだ眠っている。
(先に狩りに行こう。一緒に朝飯を食べたいし)
そう考え、ダイケは立ち上がった。
辺りは静まり返っている。足音を殺し、草原へ向かう。狙いは鹿だ。気配を悟らせるわけにはいかない。
しばらくして、獲物を見つけた。ダイケはタルモを極力抑え込む。鹿が反応する前に、脚を強化し、一気に距離を詰めた。刹那、首が落ちる。
「……ありがとう。俺の糧になってくれて」
祈るように、そう口にした。
(生きるために狩る。もう何年もやってきた。でも、慣れることはないな)
鼓動の速さを感じながら、ダイケはそう思った。
小さな野営地に戻り、火を起こす。鹿の脚を炙り始める。
「ん……いい匂いだ」
半分眠ったまま、ダンが呟いた。
「早起きですね、ダイケ。それに、朝から豪勢じゃないですか」
ダンは驚いた顔をする。
しばらくして、二人はしっかりとした朝食を取っていた。そこでダンが切り出す。
「なあ、あの山賊にどうやって傷を負わせたんだ? 本当に驚いたよ」
「あはは。まさかそんなことを聞かれるとは。戦いの話に興味があるとは思いませんでした」
ダイケは少し照れたように答える。
「何でも学ぶのは好きでね」
ダンは笑った。
「じゃあ話します。まず、動きをわざと単調に見せました。次に腕を強化して、すぐタルモを隠したんです。まだ上手くできないので、不安定に見えたはず。それで、相手は俺が消耗していると思った。その一瞬の迷いを突いた。それだけです」
「そこまで考えていたとはな。君くらいの歳で、そこまで戦術を練る子は珍しい」
ダンは感心した様子で言った。
「師匠に教わりました。頭を使って戦え、って」
ダイケは微笑んだ。
「旅の途中で、もっと聞かせてくれないか」
ダンが言う。
「ええ。じゃあ、行きましょう」
ダイケは頷いた。
日々が過ぎ、二人の距離は縮まっていった。短い旅の中で、確かな親しさが生まれていた。ダイケが時折つっけんどんでも、ダンは気にしなかった。気づけば、旅は最終日を迎えていた。
「ダイケ。タルモの強化は、そろそろ控えたほうがいい。入学試験前に、これ以上無理をすると本番で力が出せなくなる」
ダンは真剣に言う。
「分かってます。でも、少しでも限界を上げたいんです。緊張していて……この機会は逃せない」
ダイケは強く答えた。
「心配しすぎだ。君は精鋭の山賊を、ほんの一瞬とはいえ欺いた。それは事実だ。きっと大丈夫さ」
ダンは断言した。
ダイケは深く息を吸う。
「言いたいことは分かります。でも……運が良かっただけかもしれない。自分の力を信じきれないんです。もう、この話はやめましょう」
ダンは小さくため息をつき、黙った。
空気が少し張り詰める。それでも、旅はもう終わりに近い。すぐに別れの時が来る。
しばらくして、ダンが提案する。
「都に着いたら、特別な短剣を買ってやろうか。市場を見て回ろう」
(短剣……? さっきのことで気にしてるのか。俺、言い方がきつかったな)
ダイケは内心で考える。
(謝るべきだ。でも……ダンは本当にいい人だ。緊張をほぐそうとしてくれて、都まで連れてきてくれた。なのに、どうしてここまで親切なんだ? 俺は、それに値するのか……)
やがて、二人は都に到着した。
「今夜は宿を取るよ。馬車も置かなきゃ。君はどうする、ダイケ?」
ダンが尋ねる。
「俺も宿です。ご一緒しても?」
「もちろん」
ダンは少し嬉しそうに答えた。
宿に入った後、ダイケは決心した。
「ダン……ごめんなさい。俺、時々冷たかった。あなたほど優しくできていなかった。それでも、ずっと良くしてくれて……ありがとうございます。本当に。ごめんなさい」
「はいはい、気にするな。さあ、短剣を見に行こう」
ダンは軽く笑った。
(ダンはもう友だ。誰かと一緒にいるのは、やっぱりいい)
ダイケは思う。
(楽しい。でも……怖くもある。彼は年上だ。きっと、もう会えない。分かってる。でも、今は……)
(別れの前まで、この時間を大切にしよう)




