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一丁目のほとり ー悪魔との対話形式による日常記ー  作者: 蘭鍾馗


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6/8

【日常の5】串原ヘボ祭り

「おはよ。天気あんまり良くないわね。」

 11月3日午前4時。車を出そうと駐車場へ行くと、悪魔がいる。


 ◇


「串原ヘボ祭り、行くんでしょ?」

 行くけど‥‥今日は呼んでなかったよね。

「助手席空いてるよね?」

 ‥‥空いてるけどさ。

「あと、うっかり財布忘れてきちゃったから、ご飯は奢ってね。」

 ‥‥はいはい。


 ◇


「車で行くのね?」

 会場のあたりは鉄道不便だから。webサイトの交通案内も、道路の案内しか書いてないよ。

「どれくらいかかるの?」

 ナビによれば5時間10分。ま、それよりは多少早く着くと思うけど。でも片道5時間平気?

「平気平気。若いから」

 うそつけ何歳だよ。


 ◇


 道中のことは省略。出発が超早朝だったので、途中のSAで朝飯を奢らされる。


 ◇


「着いたね!」

 町長のあいさつとか、もう終わったみたいだね。会場は思ったより人で一杯。ヘボ五平餅の売店はもう長い行列が出来てる。


挿絵(By みてみん)


「あれ食べたい。」

 ‥‥うん、もちろん後で買うよ。


挿絵(By みてみん)


「美味しい。タレにこくがある。‥‥で、何処にヘボ入ってるの?」

 タレの中に幼虫を練りこんであるらしいよ。

「そうなんだ。それでこのコクが出るのね。」

 虫は平気?

「割と。」


 ◇


「ところで、ヘボって何?」

 クロスズメバチのこと。こんなやつね。体の大きさはオオスズメバチの半分くらいで、色も地味な白黒。スズメバチの中ではおとなしい種類だから、止まられても振り払ったりしなければ刺さないよ。


<ヘボ(クロスズメバチ)はこんなやつ>

挿絵(By みてみん)


 この辺の人たちは、春にこのクロスズメバチの若い巣を取ってきて、巣箱に入れて飼うんだよ。

「飼ってどうするの?」

 餌を与えて巣を大きくして、一番大きくなる今頃に巣を取り出して、幼虫や蛹を食べるんだよ。

「五平餅にして?」

 いや全部五平餅の訳ないだろ。炊き込みご飯とか佃煮とか。

「へえ。」

 成虫も素揚げにすると酒のつまみになるらしい。

「美味しいの?」

 美味しいよ。だから後で買って帰るつもり。


 ◇


 巣の取り出しが始まったね。

「あのビニールハウスの中で巣を取り出すのね。」

 野外でやると、蜂が大量に飛び出すからね。だからビニールハウスの中でやるんだけど、それでも幾らか蜂が外に出てくる。

「ほんとだ。飛んできた。」

 

<巣の取り出し>

挿絵(By みてみん)


 で、取り出した巣は重さを量って、その重さを競うのがこの「ヘボ祭り」のメインイベント。

「なるほど。で、取り出して計量が終わった巣はどうするの?」

 そこの即売コーナーで即売されるんだ。今年はキロ1万円だって。

「高っ。」

 高級食材なんだよ。

「買うんでしょ?」

 いや、巣は買わない。あれを買ったら、袋の中に煙幕を放り込んで成虫を気絶させてから、巣の中の幼虫や蛹を取り出すんだけど、そんなこと街中のアパートの部屋で出来ないでしょ。

「火災報知器が鳴るわね。」

 あと、失敗したら蜂がわんさか出てきて、近所の家の中に侵入して大騒ぎになる。

「‥‥そりゃあ無理だわ。」

 だから、取り出して売ってるやつか佃煮を買うつもり。


 ◇


「買ったのね。」

 佃煮はなかったけど、蜂の子がパックに入って売ってたから。

「大きなパックだけど、それで幾ら?」

 7,500円。

「高っ。」

 帰ったら冷凍すれば、これでしばらくヘボご飯が食べられる。


<蜂の子>

挿絵(By みてみん)


 ◇


 帰りは、首都高の工事の影響で、高井戸のあたりで大渋滞になる。


「いやー、帰りは長かったわね。」

 お疲れ様。

「運転お疲れ様。でさ、ひとつ気になったんだけど。」

 何?

「このエッセイは日常がテーマよね。」

 うん。

「これ日常?」

 仕方ないじゃん。最初は「あてどない植物記」の方で載せようと思ったんだけど、よく考えたら植物がひとつも登場しない。

「そうか。」

 っていうか、ダンタリオンに朝待ち伏せされた時点で、「一丁目のほとり」のエピソードになることが確定したんだけど。

「あ、あたしのせいか。」



 おあとがよろしいようで。



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