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一丁目のほとり ー悪魔との対話形式による日常記ー  作者: 蘭鍾馗


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20/26

【日常の19】小舟

「先週、具合悪かったそうじゃない。」

 うん、ちょっとね。


 ◇


「具合悪かったのって、心臓?」

 うんそれ。なんか久々だったな。

「どんな感じだったの?」

 朝から血圧が上がらなくてね。血圧測ったら、上が2ケタしかなかった。

「2ケタって?」

 1回目85、2回目98、平均91。

「……上よね?」

 そう。ちなみに下は平均67で、一応正常値。ただ脈拍数が96まで行ってて、不整脈の表示が出てた。

「どんな感じだったの?」

 血圧低いとねえ、なんか息苦しい感じがするんですよ。

「心臓で?息苦しい?」

 多分、酸素が足りなくなるからじゃないかな。

「今は大丈夫なの?」

 今は大丈夫。血圧も今朝は上が125だったし。

「そう。」


 ◇


 なんかねえ、病気の話から離れらんないね。

「まあ仕方ないわよね。」

 新しい日常だと思うしかないか。

「それね。でも気をつけてね、ほんと。」

 ありがと。でも最近はすっかり長生きする自信が無くなっちゃったな。

「薬も飲んでるんだし、何とかなるわよ。」

 なると良いけどね。まあでも、ダンタリオンほど長生き出来るわけでもないしね。

「……。」


 ◇


「ショウキ。」

 何?

「人生の長さって、本当はどれくらいだと思う?」

 本当は?

「そう。本当の人生の長さ。」

 人生の長さに嘘も本当も無いでしょうよ。

「それがあるのよ。」


 ◇


「人は、過去や未来じゃなくて、『今』を生きてるでしょ?」

 そうだね。

「過去はもう無い。未来はまだ無い。存在するのは現在だけ。」

 確かにね。

「でも、『現在』って一瞬だから、実は大きさが無いの。」

 ……そうだね。

「それでも、ひとは人生を生きてるって言う実感がちゃんとある。」

 あるね。

「ひとが生きてる『今』には大きさがあるの。」

『今』の大きさ?それはどれくらいなの?

「ちょっと前の過去から始まって、すぐ先の未来まで。時間にしたら1〜2分くらいじゃないかしら。」

 短いような、長いような。

「それが、本当の人生の長さ。」

 いや待って短いって。 Σ( ̄。 ̄ノ)ノ

「でも、それ以外の部分って、ただの記憶と予測でしかないわ。」

 まあねえ。

「どんなに長生きしたって、その時々で生きてる『今』しか実在する人生は無いの。100歳まで生きたとして、最期の時が来れば、その最期の1〜2分だけが実在する人生。」

 なるほどね。

「私もショウキも、時間という川に浮かんだ小舟に乗っていて、その小舟の中だけが『実在する人生』なのよ。だから、ショウキの人生も、私の人生も、『実在する人生』の大きさは同じなの。」

 そうか。

「だからさ。」

 だから?

「弱気になってんじゃねーわよ。」

 そだね。

「長生きなんか出来なくたっていいんだから。」

 結論そっちかーい。



 ◇



「久しぶりに語りまくったから、お腹すいた。」


 作り置きの煮物しかないけど。

「それでいいわ。」

 じゃあ、ごはん炊かないとね。

「炊いて。」


 ◇


 ……ピーッ、ピーッ、ピーッ……


 炊けた。


 ◇


「ショウキの煮物って、意外と悪くないのよね。」

 それは良かった。

「こないだ作り方聞いたら妙に簡単だったけど、何かコツとかないの?」

 特にないけど、強いて言うなら、大根と人参を下茹でする時、強火にすることかな。

「それで何か変わるの?」

 大根と人参が柔らかくなる。特に人参。

「中火でじっくり、とかじゃダメなんだ。」

 それやると、人参がなかなか柔らかくならない。

「へー。」

 早く柔らかくなれば、味も染みるしね。

「なるほど。」


 ◇


「なんか結局、病気と食べ物から離れらんないわね。」

 なんかね。もう解禁にするか。

「賛成。」


「じゃ、またね。ご馳走様。」

 またね。


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