【日常の19】小舟
「先週、具合悪かったそうじゃない。」
うん、ちょっとね。
◇
「具合悪かったのって、心臓?」
うんそれ。なんか久々だったな。
「どんな感じだったの?」
朝から血圧が上がらなくてね。血圧測ったら、上が2ケタしかなかった。
「2ケタって?」
1回目85、2回目98、平均91。
「……上よね?」
そう。ちなみに下は平均67で、一応正常値。ただ脈拍数が96まで行ってて、不整脈の表示が出てた。
「どんな感じだったの?」
血圧低いとねえ、なんか息苦しい感じがするんですよ。
「心臓で?息苦しい?」
多分、酸素が足りなくなるからじゃないかな。
「今は大丈夫なの?」
今は大丈夫。血圧も今朝は上が125だったし。
「そう。」
◇
なんかねえ、病気の話から離れらんないね。
「まあ仕方ないわよね。」
新しい日常だと思うしかないか。
「それね。でも気をつけてね、ほんと。」
ありがと。でも最近はすっかり長生きする自信が無くなっちゃったな。
「薬も飲んでるんだし、何とかなるわよ。」
なると良いけどね。まあでも、ダンタリオンほど長生き出来るわけでもないしね。
「……。」
◇
「ショウキ。」
何?
「人生の長さって、本当はどれくらいだと思う?」
本当は?
「そう。本当の人生の長さ。」
人生の長さに嘘も本当も無いでしょうよ。
「それがあるのよ。」
◇
「人は、過去や未来じゃなくて、『今』を生きてるでしょ?」
そうだね。
「過去はもう無い。未来はまだ無い。存在するのは現在だけ。」
確かにね。
「でも、『現在』って一瞬だから、実は大きさが無いの。」
……そうだね。
「それでも、ひとは人生を生きてるって言う実感がちゃんとある。」
あるね。
「ひとが生きてる『今』には大きさがあるの。」
『今』の大きさ?それはどれくらいなの?
「ちょっと前の過去から始まって、すぐ先の未来まで。時間にしたら1〜2分くらいじゃないかしら。」
短いような、長いような。
「それが、本当の人生の長さ。」
いや待って短いって。 Σ( ̄。 ̄ノ)ノ
「でも、それ以外の部分って、ただの記憶と予測でしかないわ。」
まあねえ。
「どんなに長生きしたって、その時々で生きてる『今』しか実在する人生は無いの。100歳まで生きたとして、最期の時が来れば、その最期の1〜2分だけが実在する人生。」
なるほどね。
「私もショウキも、時間という川に浮かんだ小舟に乗っていて、その小舟の中だけが『実在する人生』なのよ。だから、ショウキの人生も、私の人生も、『実在する人生』の大きさは同じなの。」
そうか。
「だからさ。」
だから?
「弱気になってんじゃねーわよ。」
そだね。
「長生きなんか出来なくたっていいんだから。」
結論そっちかーい。
◇
「久しぶりに語りまくったから、お腹すいた。」
作り置きの煮物しかないけど。
「それでいいわ。」
じゃあ、ごはん炊かないとね。
「炊いて。」
◇
……ピーッ、ピーッ、ピーッ……
炊けた。
◇
「ショウキの煮物って、意外と悪くないのよね。」
それは良かった。
「こないだ作り方聞いたら妙に簡単だったけど、何かコツとかないの?」
特にないけど、強いて言うなら、大根と人参を下茹でする時、強火にすることかな。
「それで何か変わるの?」
大根と人参が柔らかくなる。特に人参。
「中火でじっくり、とかじゃダメなんだ。」
それやると、人参がなかなか柔らかくならない。
「へー。」
早く柔らかくなれば、味も染みるしね。
「なるほど。」
◇
「なんか結局、病気と食べ物から離れらんないわね。」
なんかね。もう解禁にするか。
「賛成。」
「じゃ、またね。ご馳走様。」
またね。




