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7. 黄田 陽葵の証拠カード

【紫乃菖の母は幸救会の信者で、財産の全てを幸救会に納めた。】


「幸救会…、今話しに上がったばっかりの、真朝君が率いている新興宗教だよね。」


 黄田がそう言うと、紫乃はポーカーフェイスのままにゆっくりと口を開く。


「…二年前に、父が亡くなったんです。それからというもの、母はずっと没頭していた趣味にも全く興味を持たなくなって、まるで抜け殻のようでした。そんな母にとって、幸救会は一筋の光だったようです。日に日にどっぷりと浸かって行き、幸救会にハマってから約一年が経った今も、母は幸救会を盲信しています。」


 重たい事情に、黄田と白河は悲しそうに眉を下げる。


「お母様の趣味って、何だったんですか?」


 白河が尋ねる。意想外の質問に、紫乃は目を丸くした。


「いや、もしかしてアクセサリー作りだったりするのかなって。紫乃さんが付けてる指輪、ハンドメイドアクセサリーでしょう?」


 白河に指摘され、紫乃は右手の中指に着けた指輪を撫でた。存在感の強い大きな紫のビジューが付いたシルバーの指輪だ。


「よく見てますね。…そうです、これは母が作ったアクセサリーです。」

「お母様が作ったアクセサリーを身につけるって、とっても素敵ですね。」


 白河はそう言って紫乃に微笑みかけた。彼女は『家族で蕎麦屋を続けられればそれでいい』と言っていた。とても家族愛の強い人物なのだろう。


 しかし紫乃は、白河の言葉に対して顔を曇らせた。


「ていうかこれ、紫乃サンも真朝に恨みがあるって事じゃない?」


 紫乃が黙り込んで空いた会話の隙間に、莉桜がそう言葉をねじ込んだ。しかし紫乃は、今度は想定内というように穏やかに笑いながら口を開いた。


「むしろ逆です。私は真朝さんに心底感謝しているんですよ。」


 紫乃は、どこか闇を孕ませたようなにたりとした笑顔で視線をこちらに向けた。溺れそうになるようなミッドナイトの瞳が真っ直ぐにこちらを見据える。


「母はどうしようも無い人でした。母が幸救会に心酔した事をきっかけに、私は母と完全に縁を切る事が出来ました。真朝さんのおかげです。…こんな歪な愛情でも、受け止めていただけますか?」


 禍々しいとも言えるような狂気を帯びた彼女の表情に、俺は思わず息を飲んだ。


「お母さんのこと恨んでるくせに、作ってくれたアクセサリーは大事に身につけてるんだね。」

「指輪は男避けのために身につけているだけです。特にアクセサリーに拘りはありませんし、使い心地が良かったのでなんとなく。物に罪はありませんから。」


 莉桜の追求に、紫乃は迷いなく言葉を紡いだ。

 言い訳のようにも聞こえるが、嘘をついている確証もない。判断材料はたくさん出てきたが、あと一歩決め手に欠けるな。





「…さて、これで証拠カードは全部オープンされたね。どう、真朝くん。誰がシロか、推理は進んだ?」


 黄田は優しい笑顔をこちらに向けてそう言った。


「推理は確実に進んだ。でもまだ、核心をついたことは言えねぇな…。」


 俺はそう答えて、親指と人差し指の腹で顎を摘んだ。


「まだあと一時間もあるし、あそこの部屋で一人づつ『密談』の時間を設けるっていうのはどうかな? みんなの前じゃ言いにくい事だってあっただろうしさ。」


 黄田はそう言って、最初に俺が囚われていた部屋へと続く扉を指さした。


「名案じゃん! 莉桜もちょうど、真朝と二人っきりで話したいなって思ってたところだったんだよね~」

「言っておきますけど、二人っきりといえど『二十四時までは手出し禁止』ですからね!」

「分かってるって~」


 白河の指摘に、莉桜がへらへらと笑いながらそう返した。


 二人きりでの密談。全員の前では言いにくい事でも、二人きりでなら何か話してくれるかもしれない。シロは特に。


 どちらにせよ、このまま六人で議論を進めるよりも新しい情報が得られる可能性が高い。やってみる価値はあるか。


「黄田の意見に賛成だ。順番に十分ずつ、二人きりで話す時間を作りたい。」


 俺がそう言うと、実梅以外の四人は笑顔で小さく頷いた。実梅はソファに座ってこちらから顔を背けている。これ以上こちらの議論に参加する気はないという意思表示だろう。


「時間が無い。早速始めよう。順番は…、白河から。」


 白河は少しだけ目を丸くして驚いてから、とびきりの笑顔を見せた。


「一番最初に指名してくれて嬉しいです。それじゃ、行きましょっか。」


 白河は身体を弾ませるようにして扉の方へと歩く。彼女の背中を追うように俺も扉の方へと歩いていく。


「タイムキーパーでもやろっか?」


 後ろから莉桜に声をかけられた。

 残り時間はあと一時間程度。時間を忘れて一人と話し込んでしまったら他の人との時間が取れなくなってしまう。時間の管理は重要だ。


「助かる。十分経ったら声をかけてくれ。」

「りょーかい。んじゃ、行ってらっしゃ~い。」


 莉桜はにっこりと笑って、無邪気にこちらに手を振った。


 白河がドアノブを掴み、扉を開く。その先には最初に見た煌びやかな空間が広がっている。

 俺と白河が部屋に入り、ぱたっとドアを閉じた。


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