5. 白河 蘭の証拠カード
【三月、相澤組の資金総額一億円が何者かによって盗まれている。】
「『相澤組』って、さっきも名前が出てきましたよね。反社会的組織の名前でしたっけ?」
全員がカードの内容を確認し終えると、紫乃がそう切り出した。
相澤組。先ほど白河が、更科組から守ってもらうためにみかじめ料を支払っていたと言っていた組織の名前だ。
「まさか、この中の誰かが盗んだ犯人って事でしょうか…?」
「やくざの資金を盗むって…。随分とヤバイ奴が紛れ込んでるのね。」
白河と実梅は、ドン引きの顔でそう呟いた。
今年の三月に相澤組から資金を盗んだ犯人。
――――これは、俺だ。
確か証拠カードは、"所持している本人以外"の情報が書かれていると言っていた。もちろん、"俺も対象に入っている"。まさか自分の情報が書かれているとは思っていなくて、完全に油断していた。
ここに捕らわれた時、俺は真っ先に『相澤組の連中に拉致された』と思った。金を盗んだんだ、もちろん捜され、見つかれば殺されると思っていた。
スピーカー越しの音声が最初に言っていた『罪を認めろ』という言葉を聞いて、真っ先に思いついた出来事がこれだ。
何故わざわざこれを『証拠カード』として用意したんだ? 『全て知っているぞ』という脅しのつもりか? それとも、まだ確証が掴めていなくて自白するのを待っている?
そしてもう一つ気になることがある。俺が相澤組から盗んだのは五千万円。金額が二倍に盛られている。組員たちの伝言ゲームの途中で話が大きくなったのか? それとも、金額が違うことを指摘させることで自白を誘う高度な罠?
まぁなんであろうと、ここにいる五人は俺が資金を盗んだ犯人であることは知らないみたいだ。五枚ある証拠カードの一つが、まさか俺のことを指しているだなんて考えもしないだろう。
不用意に弱みを晒したくはない。このことを彼女たちに打ち明けるメリットはないだろう。
「…ま、これもこの情報だけじゃ誰のことを表してるのかわからねぇな。次の証拠カードに移ろう。」
俺がそう言うと、特に誰も何も言うことなく全員が頷いた。他のカードに対して議論の内容が薄すぎるが、これ以上議論しても新たな情報が出なさそうなことは事実だ。
「それじゃ、次は私がオープンしましょうか。」
落ち着いた様子で紫乃が名乗りを上げ、証拠カードを差し出した。