15-F. スピーカーの裏の声の主を指名する
「俺は…、お前を指名する。」
『……お前、って…?』
「スピーカー越しに話してるお前の事だよ。」
俺がそう言うと、スピーカーからの音声がしばし止まった。顔が見えずとも、困惑した様子が伝わってくる。
『…面白い回答だ。理由を聞かせてよ。』
「ずっと気になってたんだ。『ここにいる誰かひとりが俺のことが好きで、それ以外の全員が恨んでる。』人数を明言していないことに。ここにいる人、の中には裏方で話しているお前も入ってるんじゃないか? 五人の女性陣には、全員に俺を殺す動機があった。消去法でシロはお前しかいない。」
『《この中に正解はいません!》って? なるほど…、そう来たか。面白い推理だ。』
スピーカー越しの声の主は、くぐもった笑い声を時折零しながらそう言った。
『指名されたなら仕方ない。直々に赴いてあげるよ。』
そう返答が聞こえたその瞬間、シューッという音が部屋に響き渡った。音と共に、天井から細かいミストが降ってきた。ミストを吸い込むと独特の臭いがして、俺はごほごほと咳込んだ。
「なんだっ、これ…!?」
『ただの筋弛緩剤だ』
スピーカー越しの声が簡潔に一言だけそう答えた。
言われて俺は、全身に力が入りにくくなっている事に気がついた。指先は辛うじてゆっくり動かせるものの、全身は寝返りをうつのがやっとで、身体を起こす事は難しそうだ。
もしシロを外してしまったなら最悪返り討ちにすればいいと思っていたが、どうやらそれは難しそうだ。
しばらくすると、ミストが止まる。それからカラカラと換気扇の回る音がしばらく続いた。
十分くらい経っただろうか。力の入らない身体をぐったりとベッドに預けてぼーっと天井を眺めていると、ガチャリと扉の開く音が聞こえた。
開いた扉の合間から、一人の人影が見えた。
さあ、誰が来る? 俺のことを好きな女性。幸救会の信者か? エンジェルパーク時代のファン? それとも、高校生の時にフッたあの子だろうか。そんなことを思いながら、俺はその人の姿が見えるのを息を呑んで待った。たった数秒の出来事が、とても長い時間に感じた。
開ききった扉から、人が部屋に入ってくる。
そこに、鏡でもあるのかと思った。
現れたのは、自分と瓜二つの顔を持つ男。――黒名 真夜だった。
「真夜…!? なんで、お前が…!」
俺がそう叫ぶと、真夜はにっこりとこちらに微笑んだ。
「僕の企画した最高のエンターテインメント、楽しんでもらえた? 天才マジシャンの最期があっさりした処刑だなんてつまらないでしょ? 兄さんには最期まで華々しくあってほしいと思ってさ。粋な計らいに感謝してほしいね。」
真夜はそう意味不明な言葉を発しながら、俺が横たわるベッドの脇にしゃがみこんだ。
「確かに、女性の人数を明言していなかったね。面白い着眼点だ。…でも、一つ読み違えたね。ゲームの登場人物の中に僕が含まれているとしても、僕は真朝を恨んでいる。お前を助けることはないよ。」
真夜は薄らと浮かべていた笑顔を消し、冷たい視線をこちらに向けた。
「なんで…、」
「『なんで』? せっかく僕が『自らの罪から目を背けるな』って忠告してあげたのに。なーんにも聞いてなかったんだね。」
真夜はそう言うと、どこからか取り出した注射器を構えた。カバーを取り外し、針の先端を俺の首筋に宛てがった。
「まさか僕の手でお前を殺すことができるなんて。これでもう、毎日無慈悲にやってくる朝に怯える必要がなくなる。永遠の夜が手に入るんだ。ははっ、最高の気分だ!」
ちくりと針の刺さる感触がして、ゆっくりとピストンが押されていく。抵抗しようと試みても、弛緩剤の影響で、身体は全く自由に動かせない。
やがて針が引き抜かれると、すぐに目の前がかすみ始めた。
「ばいばい、真朝。来世は他人になれるといいね。」
【BAD END5 永遠の夜】




