冬
「ちょっとアンタ」
篠目の部屋を出て『エレベーター』と呼ばれる箱の乗り物を待っていた白露の背に、可愛くない言葉が投げられた。
振り向けば篠目に娘だと紹介された冬香が仁王立ちをして白露を睨んでいる。白露は面倒くさそうに髪をかき乱し「なんだよ」と同じように冬香を睨みつけた。
「明日朝十時にこの『ビル』の入り口で待ち合わせ。一分一秒でも遅れたら許さないんだからね」
ふんと鼻を鳴らし到着した『エレベーター』に乗り込んだ冬香は、そのまま白露が乗るのも待たず扉を閉めた。『エレベーター』の階数表示が下がっていくのを見ながら白露は「可愛くねーやつ」と悪態を吐く。
そんな白露の肩を鶺鴒は無理矢理組んできた。分厚い筋肉で覆われた体はむさ苦しくて適わない。白露の抵抗をものともしない鶺鴒はお腹が出てきていても、力は現役のままだった。
「女ってのはな、あのくらい強気のほうがいいんだよ」
「それは鶺鴒の趣味だろ」
白露は断然お淑やかな少女のほうが好みだった。少し陰のある寂しそうな笑みに心引かれるのだ。父親の前では猫を被り、白露の前では大暴な態度をとる冬香の性格がいいわけがない。性格の良くない女はごめんだと鶺鴒を振り払った白露に、鶺鴒は大笑いを返した。
「なにはともあれ明日楽しんでこいよ。ここでの出来事はお前にとっていい経験になる」
言い切った鶺鴒にはこの世界がどんな風に映っているのだろうか。出会った当初よりも距離が縮まったが未だに鶺鴒の考えが掴めない。
ただ自分といるようになって、柔らかい笑みを見せてくれるようになったことだけは白露にも分かっていた。




