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ワタリドリ  作者: 梔子依織
第三章
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陰陽師

 ブツリと映像が途切れ白露と鶺鴒は元の暗い部屋に佇んでいた。カラカラと乾いた喉を鳴らし震える拳を片手で包み込む。今すぐにでもあの屋敷に乗り込み大旦那を切り刻んでやりたかった。土蜘蛛に件を殺された時の怒りが蘇ったような気さえする。

 懐にいつもしまわれた小刀に手を這わせた白露は、唐突に差し込んだ明かりに目を細めた。

「いかがだったでしょうか? 最高の悲劇だったでしょう?」

 店主は青白い顔を歪め戸口から二人を見ていた。戸口から差し込む明かりで白露は部屋の中央にずぶ濡れの人形が横たえてあることに気づいた。そっと近づき優しく抱き上げる白露の背をみながら鶺鴒は「ああ、そうだな」と頷いた。

「最高の胸糞の悪さだったよ」


「これ本当に貰ってきちゃってよかったのか?」

「いいんだよ。店主には勿体ない代物だ」

 人々で賑わう夜の通りを見下ろしながら鶺鴒は紫煙を吐き出した。吸い口が金色の煙管は宿の受付に置いてあったものだ。白露は自分の布団に寝かせられた人形の隣に寝っ転がった。

 白露が手ぬぐいで人形を丁寧に拭いたおかげか人形は店でみた時よりも輝いてみえる。胡桃のような大きな瞳はきちんと白露の顔を映していて安心した。店主よりもこの人形の方がよっぽど人間らしい。

 うとうとと瞬きを繰り返す白露に、鶺鴒は煙管を置き布団をかけてやった。

「よく寝ろ。夢の彼女によろしくな」

 眠気に勝てず意識を手放した白露には、鶺鴒の言葉の意味がよく分からなかった。


「ここは……」

「また来たのですか? ここに来てはいけないとあれほど言っているのに」

 困ったように笑う少女は、前回よりも少し嬉しそうな表情を見せた。その顔はどこかで見たことがある気がする。

「ところで手に持っているのって人形ですか?」

 少女の言葉に慌てて腕の中を見るとそこには一緒に寝た美しい人形が抱かれていた。その人形の顔と少女の顔が瓜二つなのだ。白露は何度も人形と少女を見比べそして確信した。 

 彼女は大旦那に殺されたあの少女だ。そして大旦那の依頼である幽霊退治の幽霊に違いない。白露は興味深そうに人形を覗き込む少女から慌てて人形を遠ざけ、背に隠した。なぜだか見られてはいけない気がしたのだ。

「見せてくれたっていいじゃないですか」

 少し怒ったように頬を膨らます少女に白露は曖昧な笑みを浮かべ「そうだ」と手を叩いた。

「占いは好き?」

「占い? ええ、まあ」

「僕、占いが得意なんだ」

 人形を橋の手前に置き、面影橋に立つ少女の手を掴んだ白露は一緒に橋の上から水面を覗き込む。水面には嬉々とした白露と怯えたような少女の表情が映った。

「みてて」

 濃霧をものともせず橋から身を乗り出し水面を片手で撫でた白露は波紋に映る情景を口に出した。

「誰か……大きなカラスの翼を広げた男が木の根元であなたを待っている」

「どうしてそれを!」

「出会うべくして出会った二人の再会は近い」

 そう締めくくった白露がよろめき、橋の上から落ちそうになるのを少女は慌てて抑えた。

「本当に占えるの?」

「当たってた?」

「……最後以外はね」

 勿論占いなんて嘘っぱちだ。水占をするためには目的にあった花弁が必要になる。水面に波紋をおこしただけで占いをすることは今の白露には不可能だった。

「まるで陰陽師みたいね」

「陰陽師?」

 聞き覚えのない単語に首を傾げる白露に、少女はクスクスと笑い「占いの専門家よ」と教えてくれた。

「僕はその陰陽師なんて立派なものじゃないよ」

「あら、でもまるで過去を見てきたみたいにピッタリ当ててみせたじゃない」

 実際に過去をみたなんて言えるわけもなく苦笑し頷いた白露は「それで」と表情を引き締めた。

「どうして再会できないの?」

「……合わせる顔がないからよ」

「どうして――」

「お得意の占いに教えてもらいなさい。小さな陰陽師さん」

 ふと少女はいつものように白露の目を掌で覆う。まだ聞きたいことがあった白露は「待って」と言葉を溢すが少女は聞き入れてはくれなかった。

「おやすみなさい」

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