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第七編「名残りだらけの、この部屋で」
ソファを掃除していると、隙間に詰められていた何かを発見した。
……ボールだ。噛むと音が鳴る、おもちゃのボール。
掃除の手を止め、ソファに座る。
そうして手の中のボールを見ていると、うっかり涙が溢れ出した。
そうだ。キミはボールが好きだったね。
そして、このソファも。
私がここでくつろいでいると、このボールを持ってきて、遊ぼう、と誘ってきた。
けれど、君はもういない。
十六年生きた末、眠るように逝ってしまった。
犬としては大往生だろう。
だけど私の胸には、大きな穴が開いてしまった。
君という犬の形をした、大きな、大きな穴が。
ペットを喪ったら、その穴はペットでしか埋められない、とか言った、誰かの言葉を思い出す。
確かにそうなのだろう。
でもまだ、今は無理だ。
この部屋には、君の名残が多すぎる。
未だ掃除中に出てくる、君の毛。髭。おもちゃのボール。
今はまだ、それらに浸って泣いていよう。
君の名残だらけの、この部屋で。