表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

第五編「しずかに、ふりつもる」

 母は、男の子が欲しかったという。


 だがあいにく、生まれた私は女の子だった。

 ……それも、出来の悪い。


 物心ついたときから、そんなことばかり言われ続けてたから、いつの間にか何も感じなくなってた。

 私の出来が悪いってことは、本当のことなんだし。

 

 ──けれど、今は。


「ただいま。これ、テスト」

 そう言って、プリントをテーブルに置いたが、母は見向きもしなかった。


 今や母は、やっと生まれた待望(たいぼう)の我が子──もちろん男の子だ──の世話で、手一杯らしい。

 その弟はというと、通園カバンから、何やら出してみせた。


「あのね、ボクもママに見せるものがあったんだった。ほら。ママの顔!」

 そう言って、折りたたんだ絵を母に手渡す弟。

 その絵は決して、上手いとは言えなかった。


 けれど母は、

「すごーい! よく描けたね! でもママ、こんな美人じゃないよ?」

弟を抱きしめ、そう言った。

「そんなことないよ! 友だちのママより、ボクのママのほうがずっと──」


 二人の会話を背に、私は自分の部屋に向かった。

 部屋に入り、ベッドに横になる。

 頭の中では、さっきの二人の会話が頭の中でリフレインしていた。


 私は()めてもらったことなんて、一度もなかった。

 ううん。それでも良かった。

 (しか)られても、母が私のことを見てくれるのなら。


 なのに今は、叱責(しっせき)どころか、目にも入ってないらしい。

 その事実は私の体と心に、ゆっくり、静かに降り積もる。


 まるで私を(おか)す、毒のように。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ