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第三編「出会えない織姫」
酒涙雨、という言葉を聞いたことがある。
七夕の日に降る雨のことだそうだ。
一年に一度しか会えない織姫と彦星が、再会出来なかったため、互いを思って流す涙なのだと。
でも、と私は思う。
一年に一度会えなかったとしても、また来年、再会できるのならいいじゃない。
降り始めた酒涙雨、そのせいで私の体は濡れ始めている。
ううん、濡れてるのは体だけじゃなく、持ってきた花束もだ。
私は屈み込んで、目の前の墓石に花を供えた。
供える相手は、もう二度と会えない、私の彦星様。
……あれ。目の前が上手く見えないや。
ごしごしと、いつの間にか溢れ出していた涙を拭う。
彼が亡くなってから、もう何年も経つのに。
酒涙雨で出会えない、かわいそうな織姫と彦星。
ああ。なんて憎らしい、贅沢な二人。
そして、ここにはもうひとり、織姫がいる。
酒涙雨に泣き濡れる、ひとりぼっちの織姫が。
ひとりきりの織姫である私は、もう二度と、自分の彦星様と出会うことが出来ないのだから。