表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ストリートピアノ

作者: 雉白書屋

 おれが住む町、その駅近くに最近、ストリートピアノが設置された。誰でも触れていいみんなのピアノ。……見た瞬間、おれはため息が出た。

 これで匂いを嗅ぎつけた蠅の如く自己顕示欲の塊が自分のマスターベーション動画を撮影しネットに投稿。感動しました演奏者さん素敵感動が止まらない次に弾く人かわいそう私も生で聴きたい居合わせた人羨ましい! などと、称賛を浴びドクドクドクドク承認欲求満たしついでに金を稼ぎクソオブクソのキモイナルシスト野郎が始めは普通の会社員が下手な振りして実は超絶上手いんですとかカスみてーな演出しやがって……と思っていたら、どうも様子が違う。


「アン、アン、アンパンマ――」


 と、ピアノの前で子供が演奏に合わせて楽しげに歌っているのだが、あれはそう、無人ピアノだ。

 恐らくセンサーか何か内蔵しており、人が近づくと自動で演奏しだすのだ。と、さらに驚くべきことにどうやら年代や人柄、その人に合った演奏をしてくれるようだ。AI搭載なのだろう。恐らく、企業の技術力の喧伝。しかし、中々に凄いなあれは。


 と、囲みができ、賑わう中。一瞬、ピアノに近寄る人の流れが途絶え、せっかくなので、おれも一曲弾いてもらうことにした。

 ……が、妙だ。演奏は心打つような見事なものなのだが、こうして近づいてよく見るとアンティーク調というか古くてボロい。最新鋭というならもっと電飾とかピカピカ光ってもいい気がするのだが、なんて素人考えか。と、あれは……。

 

 演奏が終わり、どこかモヤモヤした気持ちのまま、おれはピアノから離れた。

 家に帰るその前に一つ気になることがあった。ピアノを取り囲む人々。そこから少し離れた位置で浮かない顔で男がピアノを眺めていることに気づいたのだ。


「あの」


「え、あ……」


 普段は見知らぬ人に声をかけたりしないおれだが、どこかシンパシーを感じ、声をかけた。

 すると、その男は酷くオドオドし、そして迷った挙句言った。


「あなた、気づきましたか……?」


「え? 何を……あ、ピアノですか? いや、まあ妙なピアノだなと思いましたけど」


「その……私が設置したんです……あの、呪いのピアノを……」


「ああ、え、呪い……? え、じゃ、じゃあ自動で演奏というのは……」


「はい……。ピアノ自体は古くて価値がある物なんですけど呪われておりまして……それでちょっとまあ、人によっては危ないかもしれないんですけど、あ、でもああして、明るい人と触れ合いその温かさで呪いが解けたらいいなぁ、と……」


 なるほど、そういうわけだったのか。おれが死にたくなったのは。帰ったら首を吊ろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ