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ジュピターの妻は振り向けばそこに居る

 


 流星の騎士、ジュピター・スカイが第二部隊に再配属されて幾日。

 配属直後からの出張に次ぐ出張……そんな夫が居ない間も妻のマリーゴールドは愛する人の無事を祈り、町外れの小さな白い家で大人しく待っていた。

 どんな試練もラブラブな二人の心を引き裂く事など出来ないのだ……



 ――とか、そんな事は無く。

 実は妻のマリーは結構な頻度で夫について行こうとしてはいた。



 ○月×日


 皇帝は何度目か分からない第二部隊の遠征を窓から見送った。

 遠方に行けぬ自分の代わりに目となり手足となる彼等を信じているのだ。


(私だって行きたい……が、済まない)


 自身に剣を捧げた騎士たちに地方の事を任せ、執務に戻ろうとした皇帝だったが――最後に視界の影に違和感を感じてもう一度窓を見返した。


 ぞろぞろと隊列を成し馬に乗る騎士たち……その間に混じろうと、不恰好な甲冑が近づいているのだ。


「……」


 皇帝は無言でスタスタと執務室を出てそちらへ向かい、その首根っこを掴んだ。


「君……ジュピターの妻だよね……?」


「ああっ、何故見つかったのですか!!」


「いや、混ざってもすぐバレるんだから夫にバレる前にやめなさい! というか、騎士になるならジュピターに勝ってから私を倒す事が出来たら考えるって言ったよね?」


「えーん、そんなの絶対無理じゃないですかー!」


「分かっているなら諦めなさい!!」


 その後、正座させられ皇帝に説教されたマリーゴールドはとぼとぼと家に帰った。



 ○月△日


「今日も……いる……」


 またしても遠征に出る第二部隊の後にコソコソと付いて行こうとしている怪しい動きを、皇帝が窓から発見していた。

 前回の反省を生かしたのだろうか? 今回は不恰好な甲冑ではなく……馬に扮していた。


「馬……?」


 手作りであろう着ぐるみのような馬の被り物をしているが、どう考えてもどう見てもジュピターの妻、マリーゴールドだった。先日のガチャガチャしたどんくさい甲冑の動きと全く一緒だったから。

 皇帝はスタスタと執務室を出て、その中綿が柔らかそうな馬を後から縄でとっ捕まえた。


「ああっ、何をするのですか!」


「マリーゴールド、君は諦めが悪いね!」


「ま、マリーゴールド? 誰ですか?? 私は第二部隊の騎士の馬です、どこをどう見てもただの馬じゃないですか」


「ほほーう、ただの馬が喋るとは思わなかったね。喋る馬とは珍しいからじっくり話を聞こうじゃないか」


「ああー……」


 馬らしくずるずると縄で引きずられて城に戻されたマリーゴールドは皇帝に説教をされ家に帰った。



 ○月□日


「今日は普通に出て行ったな……」


 執務室の窓から第二部隊を見送る皇帝は、その後ろに怪しい動きが無い事を確認してホッと胸を撫で下ろした。


「陛下はいつも第二部隊が出るときは窓から見送りますね。そんなに心配ですか?」


「……ああ、まぁ」


 皇帝が心配だったのは第二部隊の出立だけではなかった。余分な物が引っ付いていないかと、毎回見張っているのである。


「心配なさらずとも、ジュピターが戻ってから運行もスムーズに行くようになり、部隊長不在の穴も埋められているかと思いますが」


「そうだな。ジュピターには申し訳ないが、やはり彼が居て非常に助かっている」


 他の騎士たちが無能という訳ではないのだが、それでも神出鬼没で行動の読めない第二部隊の部隊長の跡を探り後始末や後処理を行うのは昔から彼のことを知っているジュピターが適任だった。むしろ、他に行動の真意が読める者がなかなか居ないのだ……


「……ところで陛下、何か景色がおかしくありません?」


 窓の外を見て、目が疲れているのではないかと目を擦りながら宰相が呟いた。皇帝もそちらをじっと見てみる。

 皇帝も同じように違和感を感じた。それは、間違い探しのような……その前に見た景色とどこか違うような気がするのだ。


「あーっ! 分かった分かった!!! あの木の位置が違う!! アハ体験!」


「アハ……何だそれは……」


 言われて皇帝も注視すると、確かに瞬きの隙間に木の一部が動いていたのだ。


「……」


「あれ? 陛下、どちらへ?」


「ちょっと伐採に行って来る」


 そう言うと皇帝はスタスタと執務室を出て窓の下に向かった。

 第二部隊を見送る城門……その街路樹の一部、不自然に動く木を皇帝は取り押さえた。


「……マリーゴールド……何をしている」


「ええ?! 何故私だと分かったのですか?! 今回は完璧だと思ったのに!!!」


「ああ、変装は完璧すぎて間違い探し並に分からなかったよ」


 そんな不自然な尾行を第二部隊にするのはマリーゴールドしか居ないのだ。皇帝は完璧な木に扮したマリーゴールドを引きずった。


「ああっ、お説教は嫌です!! もうしません、もうしませんからぁ!!」


「反省の色を行動に表して欲しいね君は。全く、いい加減に――」


「ルーカス様?」


 皇帝が木を引っこ抜き城に連れて行こうとすると、後から声をかける女性が居た。

 それは、皇帝の恋人であった。さらりと長い髪をなびかせ、木に扮したを引っこ抜こうとしているその様子を凝視していた。


「何をしていらっしゃるの……? というかその方、女性……」


「ええと……何をっていうか、ああ、誤解しないでくれ。彼女は人妻だから……」


「すみません、夫が居ない間の寂しさに耐え切れず……もうしませんから!!!」


 必死で謝るマリーゴールドの様子にその女性は青い顔をして持っていた本を落とした。


「ねっ……NTR……?」


「いや、何それ……というか何の本を見てたの?」


 最近帝国で流行っている本を嗜んでしまった恋人にあらぬ勘違いをされそうになり、皇帝はがっくりと肩を落とした。



 以来、第二部隊が出立する際の見送りは皇帝ではなく他の騎士たちで細部まで慎重に見守る事になったのだが、日に日にレベルの上がっていくマリーゴールドの変装に困惑するかと思いきや『マリーちゃんを探せレベル50』などと名前をつけて楽しむ者まで現れたという。

 ここ最近の高難易度マリーちゃんを探せは『歩道がマリーちゃん』という歩道にペイントされたマリーちゃんを見つけた時であった。

 そのマリーちゃんを見つけるゲームは、見つけられると何かスッキリする、何か嬉しい、記憶力やひらめき力が上がった……などと謎の効果をもたらすとされた。

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