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魔術屋カルマの巡り逢い  作者: アズキ
消える公女
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4.裏庭の片隅に咲く

リリアとの接触できたものの拒まれてしまったカルマ達は、手がかりを求めて屋敷の裏庭へと忍び込む。そこで見たものは…

 カルマとヴァレは屋敷に入ることさえ出来ず、元居た空き家へ向かってトボトボと屋敷の柵を辿って歩いた。日が落ちかけて辺りは夕日で赤く色づいている。


「はぁ……ごめんなさいカルマさん。魔術師が来てくれたらリリア様のためになると思ってたんだけど……」


 しょんぼりと肩を落としたヴァレがぽつりと呟いた。


「ああいう扱いはそこそこ慣れているから気にするな。それより、婆や殿はいつもああなのか?」

「ううん。僕たちがいたずらしたり、リリア様が帰る時間にいつまでも遊ぼうとしたら怒って雷を落としたりするけど……。でも、最近はあんまりかな? 元気そうに見えるけど病気もしがちだし。」

「そうか……」


 ヴァレの話を聞きながらカルマはこの後のことについて考えていた。

 何の収穫もなしに子供たちの期待を裏切ってこのまま二時間かけてヤマブキ山に帰るのか。はたまたまだリリアについて調査を続けるのか。考えつつも、内心は後者に傾いている。何の手ごたえも無いならば身を引くが、明らかにリリア達は何かを隠している。それを知る前に引き上げるのはあまりにも時期尚早である。


「………」


 カルマは柵越しに屋敷を見た。屋敷の正面から見て裏手側、ヴァレ達が入り込んでリリアとよく遊んでいるという裏庭がある。せめて何かヒントがないかと目を凝らした。正面の整然とした庭園とは違って、草っ原に野花や木々が植わっている素朴な庭である。きっとそこで子供たちが駆け回ったり、野花を摘んで冠を作ったり、大きな木の木陰で語らったりしたのだろう。しかし遠目から見るだけではそれくらいのことしか分からなかった。やはり、調べるならばもっと近くが良い。


「裏庭にはいつもどうやって入っている?」

「え? えっと、むこうまで行くと柵が途切れてて、特に入っても怒られないからいつもそこから……って、カルマさんっ? 行くの?」

「ああ。特に警備も居ないようなら出来るだけ近くへ行きたい」

「さすがに知らない人が庭に入ってきたら怒られるよぉっ! なんかこう、猫に変身するとか、姿を消すとか、そういう魔術屋っぽいこと出来ないの?」

「色々あって俺は変装魔法を使えん。このまま行くしかない。怖いなら待ってて構わんぞ。」

「~~~~っい、行くよ、もう! ここまで来ちゃったしリリア様のためだもん!」


 カルマ達は柵沿いにずんずんと進んだ。ヴァレの言葉の通り、屋敷の庭園を囲んでいた柵は裏手の森のあたりで途切れていた。カルマは躊躇なく裏庭に入ってゆく。


「リリアはよくここで過ごすのか?」

「うん。執事さんや婆やも一緒だけど、よくここで一緒に遊ぶよ。それで何かわかるの?」

「魔法というのは一度使うと暫く何かしらの痕跡が残るものだ。痕跡が新しければ術者の感情を読み取れる場合もある。もし今なおリリアが魔法をかけ続けられているならば何か感じられるかと思ったのだが……」

「ど、どうなの?」

「すまん。あてが外れた。魔法を使った痕跡も、魔法を受けた痕跡も感じられない。」

「そっかぁ……」


 ヴァレは悲しそうに俯いた。カルマは少しバツが悪そうに庭を見渡した。今のところ気づかれていないがあまり長いするのはよくない。手がかりがなければ一旦撤退すべきだろう。カルマもそう思い始めたとき、ふと庭の片隅に目が留まった。


「ん? あれは……墓か?」

「うん。名前は書いてないけれど、たぶん昔お屋敷で亡くなった人のじゃないかな? あんまり気にしたことないけど」

「…………」


 カルマはゆっくりと墓に近づいた。磨かれた石碑には名前こそ刻まれていないものの、丸とそこから下に向かって3本の三又の線というこの国で一般的な宗教シンボルが刻まれていた。何の変哲もない墓だった。何かの確信があったわけではない。が、何かに呼ばれるようになんとなく傍まで行って、その名もなき墓を眺めた。


(………なんだ、この違和感は)


 カルマは違和感の元を手繰ろうと墓の前に屈みこんだ。墓には最近手向けられたと思われる花が添えられている。


(名前がない、忘れ去られた墓……? 違う。妙に綺麗だ。ヴァレが言うように昔屋敷で死んだ使用人のものか…? いや、昔というほど古くない。比較的新しいんだ。そうだな……この様子ならば10年も経っていないような……)


 そこまで考えてカルマははっとした。

 魔法攻撃の痕跡が無く、しかし消えてゆくリリアの身体。齢百歳を超えるお抱えの魔術師。リリアと外部の魔法使いの接触を徹底的に避けようとする町人達。そして、名の刻まれていない手入れの行き届いた墓。

 カルマの脳裏でそれらが一つに繋がった。

 

「……カルマさん?」

「すまない。俺はこの仕事を降りる。」

「え!? なんで! やっぱりお金が足りなかったの? なら僕たちでもっと貯めるから、なんとかしてよ!」

「ヴァレ、俺はリリア殿を……」


 カルマがそう言いかけた、正にその瞬間。


「きゃあああああああああああああっ!!」


 屋敷から大きな悲鳴が上がった。


「婆や殿っ! 婆や殿ーッ!!」

「医者を呼べ! 早くっ!!」

「急いで! 誰かお薬を!!」

「きゃあっ!! リリア様のお身体がッ!!」

「そんな…リリア様、姫様ぁ!!」


 それから屋敷が俄かに騒がしくなった。医者を求める声やパニックになったメイドの悲鳴。バタバタと屋敷中を使用人たちが走り回る。

 カルマは、その様子を見るなり脱兎のごとく屋敷へと駆け出した。

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