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魔術屋カルマの巡り逢い  作者: アズキ
消える公女
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2.リリア=リーゼロッテ=マルクス

依頼人の少年に連れられて子供たちにリリアの話を聞くカルマ。

消えてゆく公女の謎に触れる。

 少年たちに連れられて、カルマは町外れにある空き家に案内された。子供の字で依頼の手紙を受けた時点で、身の回りの大人に頼れないなんらかの事情があるのは察していた。

 案内された空き家は、住むものが居なくなった家は子どもたちの秘密基地にでもなっていたのだろうか、捨てられた家具やおもちゃ等が持ち込まれており意外と快適そうだった。

 カルマは促されるまま穴の開いたソファに座った。


「では……依頼について詳しく聞かせてくれ。君らの言う『リリア様』というのは……」

「リリア様はね、ほんっとうに優しいの!」

「昔から姫様って呼ばれててねぇ、私たちも時々そう呼んでるんだよ!」

「でね、それでね……」

「ちょっと待ってくれ! ゆっくり、一人ずつ話してくれ」


 子どもたちが口々に話す言葉をなんとかまとめると、つまりこういうことだった。


 マルクス家の一人娘であるリリア=リーゼロッテ=マルクスは、幼い頃から城下町に遊びに出ては人々に「姫様」と呼ばれて可愛がられた。ベルガルは国家ではないため、当然リリアは姫ではない。が、皆がそう呼ばずにはいられないほど彼女は愛らしかった。素直で可憐で誰からも愛される存在だった。

 そんな彼女は7歳の頃に流行り病で両親を亡くし、若くして家督を継いだ。領主の突然の死に家督を親戚筋に譲る話も浮上した。しかしながらマルクス家は古くからこの地に住まう人々に慕われてきた歴史があり、リリアの父である前領主もそのご多分に漏れず人々に慕われ、そして彼自身も街を愛してきた。故にマルクス家以外がこの地を治めることなど誰もが想像できず、幼いリリアに家督を継がせて彼女が立派な領主になれるよう皆で支える道を選んだのだ。

 現在14歳となったリリアは、しとやかで誰にでも優しく、そして凛とした公女となっていた。


「……なるほど。街の皆から愛されているんだな」

「うん!だけど最近手紙に書いた通り……」

「消えている、か」

「……うん。」

「どんな風にだ?」

「最初に騒ぎになったのは半年前くらい。指先が消えてなくなったんだ! リリア様が突然指輪を落としたことで周りが気づいて……。それからは、ときどき全身が薄くなって向こうが透けて見えたり、片足が消えて歩けなくなったり、ひどい時には首から上が無くなって口もきけないんだ!」

「いつも少し休んだら治るんだけど、最近どんどん多くなってってきて……」

「このまま姫様が消えちゃうんじゃないかって思うと、すごく怖いよ……」


 子供たちの話を聴くかぎり何らかの魔法が関係しているのは間違いなさそうである。しかしそれはそれで疑問が湧く。


「解せんな。あれだけの屋敷ならばお抱えの魔術師くらいいるだろう」


 カルマの言う通り名家ならば普通は魔術師を召し抱えている。メイドや料理人等のように屋敷専属の魔術師を雇うのだ。そうすれば簡単な傷を癒したり、灯をともしたり、時には忍び込んだ盗人や下賤な輩を懲らしめる警備員のような働きをする。つまるところ、屋敷限定のなんでも屋である。主人がよほど魔法嫌いでなければ居ないはずがないのだ。


「うん。いるんだけど、でも……」

「お婆ちゃんなんだよ! ものすっごくお婆ちゃん! 戦争前に生まれたんだってさ。」

「ひ、百歳を過ぎているのか」

「婆やいつも姫様と一緒にいるんだけど、姫様が消えちゃう魔法をなんとかできないみたい」

「この町は魔法使いが全然いないから、きっと他の人に頼めないんだよ」

「だから僕たち、お小遣い貯めて外から魔術屋を呼ぶことにしたんだ!」

「うん。大人はあてにならない。」

「わたしたちでリリア様を助けるの!」


 そう言うと子供たちの一人が壺を持ってきて中身を机の上にぶちまけた。ジャラジャラと小銭が流れ落ち、みるみるうちに硬貨の小山が出来た。


「こ、これは……! 子供からの依頼だから覚悟はしていたがまさかこれ程までとは……」

「え!? 足りない?」

「いや小銭が多いと持って帰るのが大変なんだ」


 机の上に投げ出された硬貨を見つめながらカルマは内心げんなりとした。ところで、彼は感情をあまり表に出さない。今も水がめいっぱいの小銭を2時間かけて持ち帰ることを想像して辟易しているのだが表情一つ変えずにいる。


「足りているから安心してくれ。この金に見合った働きをしよう。まずはリリア殿の様子を見に行きたい。依頼人の……君、名前は?」

「ヴァレです」

「ではヴァレ。一緒に屋敷まで来てくれ」

「はい!」


 カルマは子供たちに見送られながら、ヴァレと共にマルクスの屋敷を目指した。例のごとく表情には出さないが、カルマの心中は今一つ晴れなかった。おそらくこの依頼は一筋縄ではいかない。そんな予感がしていた。


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