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番外編1-4

「あれ!陸じゃん」


美鈴の少し先を歩いていた陸を呼び止めたのは、陸と同じ年頃の女性であった。寒い時期にもかかわらず短パンにロングブーツを履きピンク色の可愛いセーターの上にコートを羽織っていた。化粧も濃すぎるのではないかと思うくらいバッチリとしている。


「ああ」


陸は面倒臭そうに返事をした。

陸に声を掛けた女性の他に二人の女性がおり陸の方を見て嬉しそうに話しているのが見えた。


「何?陸変わったね。カッコよくなったじゃん。今一人なの?遊ばない?」


女性は、美鈴には気がつかずに笑って声を掛けてきた。

陸は舌打ちして振り返ったが、そこにいると思った美鈴は居らず離れた場所に戸惑った表情で立っている。陸の様子に女性も気がつき『ああ』と言う表情をした。


「これからお楽しみか。相変わらずなんだ」


女性の一言で陸の表情は不快にと変わり女性を見る目が鋭く尖った。

女性の顔から笑顔は消え怯えたようにこわばる。


「な、何よ。本当の事じゃない!あんたってば、体だけの関係ばっかじゃん」

「それはお互い了解済みだろ。お前にとやかく言われる筋合いはないね」


陸はそう言うと美鈴の方へ来ると手をつかみ早足で女性たちの前を通り過ぎた。女性たちは黙ったまま二人を見送った。


陸は美鈴の手を引いたまま駐車場まで来ると足を止め振り返った。先ほどのような鋭い視線ではなかったが不機嫌な顔だ。


「何で離れて歩ってたの?」


美鈴が口を開こうとする前に、陸の視線は下がり首の辺りを掻く。


「昔の女にも会うしなんか今日最悪」

「……ごめん」


下げていた視線を陸は上げると美鈴を見つめた。


「何で美鈴が謝る訳?」


陸の苛立ちを感じながらついつい謝ってしまった理由を自分でも考える。


「発端を作ったのは私だったから…」

「ふーん。じゃあ、発端を作った美鈴に責任取ってもらいたいんだけど」


いつもと違う調子に返してきた陸の言葉に美鈴は目を丸くした。

陸は首を傾げて美鈴の顔を覗き込みすました顔で言った。


「じゃあ、俺の機嫌直しにここでキスして」


突然何を言い出すのかと思いきや陸の表情はいつの間にか意地悪な顔になっていた。人通りのない場所と時間帯ではあったが照明のライトが明るく2人を照らしている。


「…じゃあ目をつぶって」


美鈴の様子を伺っていた陸は驚いたようであったが素直に目をつむった。


「陸は、お姫様なんだなあ」


突然の声に陸は驚いて目を開けたが、声の主は関係なく軽いキスをした。

陸は慌てて後ろに後退した。


「キスしたよ。次は何をして欲しいのかな?」


目の前にいたのは加納俊であった。

いつもの穏やかな空気とは少し違い、すました顔に悪戯っ子のような笑みを口許に浮かべ陸を見ている。


「な、な、何んで、俊さんなの?えっ??」


陸は顔を赤くして車にへばり付く。


「何でって言われてもなぁ。急にスイッチ入ってチェンジしてしまったんで、ちょっと陸をいじめてるんだけど」

「え?何? それって美鈴が俺のこと拒否したってこと?」


陸の動揺に俊は笑う。


「まあ逃げたのかもね」

「えっ!」


陸のショックな顔に俊は笑いながら手を振る。


「いやいや、意地悪で外チューは無理って事。美鈴も思っていることをハッキリ言えばいいんだよな。まったく自分の事ながら参っちまうが、まあそれは置いといて、陸もそんなに尖らなくてもいんじゃない?」

「え…何。 それってさっきの女の事言ってるの?」

「あーーそっちも尖ってたね。あの子も口が悪いけど焼きもちだよな。スルーしちゃえば…ってうーん、まあできないか」


陸の表情はムッとする。


「できないよ。それに美鈴だってあんなの聞いたら面白くないし嫌な気持ちになっただろう。本当なら俺の方が謝らないといけないのに美鈴は俺に気を使って謝ってきたんだろう」


陸の言葉に俊は笑う。


「陸も美鈴も俺を挟むと素直なんだな」


陸は照れたように口を尖らした。


「でも最悪だよな。やきもち焼くし優しくないし我がまま言うし」


俊は吹き出すように笑う。


「いや。お店の手伝いは仕方がないかな。男性ばかりのスタッフの店だし時間も遅いからね。そこは美鈴も反省している。でももうちょっと優しくはして欲しいかな」


陸は口を尖らしたまま頷く。そして下を向いたまま言った。


「分かってるんだけど不安になるんだよ」


俊は陸を見つめる。


「いなくなっちまったらって…。

俺の手をすり抜けて行ったら俺はどしたら良いのか分からなくなっちまうよ。だからイラついちまうのかもしれない」


下を向いていた陸はふわりと抱きしめてきた柔らかい感触に顔を上げる。


「いなくならないよ」


自分の事を見つめる瞳。


「陸を置いていなくならないよ」


笑って言う美鈴。陸は自分の手を伸ばし掴む。


「まあ、たまに寄り道したり俊になったりしちゃうけど」

「俊さんになるのはいいけど俺すげぇ焼きもち焼くから寄り道はして欲しくないんだけど」

「分かった。考慮しとく」


美鈴の笑顔なのだが俊の気配も感じる。二人のふわりとした空気を感じながら陸は拗ねる。


「考慮かよ。やっぱ俺の方が片想いなんだよな。いつもすり抜けちまってさ」


陸の手が力なく落ちていく。

そんな言葉に美鈴はぎゅっと陸の体を抱きしめた。


「そんな事ないよ。大丈夫。私も抱きしめてる。掴んで離さない」


トクン…


陸の胸が鼓動する。美鈴の瞳には自分が映っている。自分だけが今映っている。


「愛してる…」


自然と口から溢れでた言葉を言い直す。


「美鈴を愛してる…今も、これからも、ずっと…」


自分を映した瞳は優しく細まる。


「ありがとう。私も愛してる」


陸は瞳を閉じると美鈴を抱きしめた。


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