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入界審査でやらかす

ここから新たな話になります。

「はい、次の方、どうぞ」


--扉を開けて入ると、目の前には木製のカウンターがある。

そこにいた青髪の青年がこちらに手招きをしている。


「あ、はい、よ、よろしくお願いします」


「まずはカードをお出しください」


「か、カード……ですか?」


「案内人が渡したと思いますが?」


そんな苛立った様子で言わなくてもいいじゃないか。

やる気ないのかコイツ。

俺はそう感じつつ背広の胸ポケットに入っていたカードを渡す。


「こ、これですかね?」


「馬車馬商事営業部営業三課能梨安彦……? 何ですかこれ?」


しまった!

俺はついうっかり会社の名刺を差し出してしまっていた。

そうだ。右のポケットに入っていたはず。

右ポケットを探るとようやくカードを取り出して渡した。


「はい、それではしばらくあちらの椅子で掛けてお待ちください」


「あっはい……」






--あれからどのくらい時間が経過しただろうか。

あの青年は何やら書類とにらめっこしているようだけどいつまでやっているんだ?

やはり入界審査とやらはそこまで時間がかかるものなのか。

まぁ時間はたっぷりあるし気長に待ちますかね。






「うーん。こいつはひどいなぁ」


あの青髪の青年が右手で頭を搔きながら何やら悩んでいる様子だった。

もしかして俺のことか?

まさか何かミスでもしたのかな?

ネガティブ思考なものでついついマイナスに物事を捉えてしまう。



「おい、パスカル! ちょっといいか?」


青髪の青年がそう叫ぶと奥から何やら強面の屈強な体をした男が出てきた。

俺はそれを見た瞬間パワハラ上司を思い出して身震いした。



「何だリオネル。お前が俺を呼ぶなんて珍しいじゃねぇか? さては厄介なのがきたか?」

「見てくれよこいつのスキル」

「うわっ! こいつはひでぇなぁ。お前さんもエラいのに当たったな」

「どうしたらいいものか? 追い返すわけにはいかないし」

「賢者もダメ僧侶もダメ魔法使いもダメ商人もダメ農民もダメって……」

「今までここまでの能無しは審査官になって初めてだ」

「俺も長くやってきてるがここまですげぇ奴にお目にかかったのは初めてだわ」

「しかし何もなく受け入れるわけにはいかないし」

「まぁとりあえず商人あたりでいくしかねぇな」


二人のやり取りを聞いていて益々不安になる。

俺はここでも能無しなのか?

何のために全てを捨ててここまでやってきたっていうんだよ。

とにかくここで悩んでも仕方がない。

俺はそう自分に言い聞かせて下を向いて待った。






「お待たせしました。入界審査の手続きが終わりましたのでこちらへ案内します」


青髪の青年リオネルは、左手にあったドアを開けて入るように促す。

そこには何やら見すぼらしい服が用意されている。


「あ、あの……」

「では、あなたはこれからアビティ・アントワーヌ ・シェーンフィルダーという孤児の商人という形で転生して頂きます」

「あ、アビティですか?」

「はい。ちなみにこれは決定ですので異議を唱えることは出来ません」

「いや別に名前に不満はないですけど……」

「とりあえずここを出たら大通りを真っすぐ進んだところにテオドール青果店という店があるのでそちらへ行ってください。そこで住み込みという形で働いていただきます」

「あ、わ、分かりました……」

「では、こちらの書類にサインを頂いたら用意した服に着替えて、今着ている服はここに置いていってください」

「え? 置いていかなくちゃいけないのですか?」

「ええ。その格好で外に出たら異界人として処刑対象になりますよ」


リオネルは澄ました顔でとんでもないことを言う。

せっかく来たのに処刑なんて冗談じゃない。

俺はとにかくサインを終えると一目散に用意された服に着替えた。



「お疲れ様でした。あと、この袋には転生祝い金として100フォル入っています。モノを買うのにはこちらの通貨が必要です。これは働けば毎月支給されます。但し預けたりする場所はないので自分でしっかり管理してくださいね」

「は、はぁ……」

「あとは無闇に街を出ないことです。一歩外に出たら盗賊や魔物が沢山いますので襲われても保障することはできません。転生者で調子に乗って外に出て襲われることが最近多いので念の為」


滅茶苦茶怖いじゃないか。

とりあえず街で大人しく働いていれば問題ないってわけか。

どうにかなるだろう。

しかし、異世界に来たんだからスキルやらチートやらあると思っていたのだが。

まぁ現実はこんなものなのだろう。


「とりあえず以上です。何かご質問はありますか? なければもう行っていいですよ」

「特にないです。あ、ありがとうございました」

「では、お気をつけて……」




こうして俺は能梨安彦からアビティ・アントワーヌ ・シェーンフィルダーという孤児商人となって再出発することになった。

目の前の扉を開けた瞬間にいきなり白く眩しい光が目を襲う。






暫く白い世界しかなかったが、気が付くと中世ヨーロッパの城下町みたいな風景が広がっている。

ここが異世界か。

ふと後ろを振り返るがそこには小さな薬屋があるだけだ。

ワープでもされたのだろうか。

いずれにしろもう現実世界に戻るつもりはない。


覚悟を決めた俺はとりあえず言われた通りにテオドール青果店に向かった。

今日はここまでです。また更新します。

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