第4話 探索開始
現在、生徒たちは朝礼が行われるため校舎の外に居た。
「皆さん、担任の先生方から既にお聞きしたと思いますが、本日よりこの樹海を探索していきます。校長先生が不在の為、職員を代表して教頭である私が、今回皆さんにお話しをさせていただきます」
教頭はそう告げると、一度全体の様子を伺ってから再び話し始める。
「まず初めにお伝えさせていただくのは、ここが何処かということです。既に気づいてる方も居ると思いますが、ここは日本ではありません。また、海外なのかも定かではありません。故に、私たちが幾らここで待っていたとしても、救助がやってくる可能性は限りなく低いと思われます」
その言葉に、一部の生徒達は動揺を見せ、周りの者と小さく言葉を交わす生徒たちが出始めた。
「それを踏まえた上で職員会議を行った結果。これから我々一同は、自力での樹海脱出を目標に、生徒教師一丸となって行動していくことに決定しました。皆の力を合わせ、この危機的状況を乗り越えていきましょう」
教頭は声高々にそう告げると、一礼して拡声器を他の教師へと渡す。
それを受け取った教師が後を引き継ぎ、話を進めていく。
「それでは、これより各班ごとに樹海探索を行ってもらう。先生たちの指示をよく聞いて、しっかり班行動を心掛けるように。探索中は数名の教職員を除き、先生たちも探索に出るので、何かあったら直ぐに校舎へと引き返し待機している先生方に報告するように。以上で、朝礼を終了する。後のことは担任の先生に従って行動するように」
その後、先生の指示に従い大輝たちのクラスは移動を開始する。
言われるがままに移動を続け、大輝たちは班ごとに分かれて指定された持ち場で次の指示を待っていた。
「それでは、これより午後三時まで樹海の自由探索を行います。時間は、班員の誰か一人が代表として、スマホを使用して確認するようにしてください。充電等に関しては、学園側で対処するので安心して使用してください。それでは各班行動開始!」
拡声器越しに先生の声が辺りに響き渡る。
それを合図に、生徒たちは各々行動を開始した。
大輝達は探索が始まってから、一定の間隔で木に印をつけて歩いていた。
進んでは印をつける作業を幾度となく繰り返しながら、大輝達はどんどん奥へと進んで行く。
道中、一枚の紙を片手に星来が大輝の元へと駆け寄っていく。
手に持った紙を大輝へ渡すと、星来は不安そうな表情で尋ねる。
「大輝君、マッピングってこんな感じで大丈夫かな?」
「ん? まあ、俺や火ノ国が書くより断然見やすいから大丈夫だろ」
「んー、それは素直に喜んでいいのかな……」
大輝の言葉に星来は困ったように笑いながらも数十分前の事を思い出す。
樹海探索が始まる少し前、大輝の提案により探索中は通った道を各自マッピングすることに決まり、その事に関して星来も火ノ国も納得していた。
だが、探索が始まって直ぐに各自のマッピングを一度見比べることになり、星来は二人のマッピングした紙を見て理解する。
――二人ともノートとか取るの、多分苦手なんだろうな。
そんな事を思ったつい数十分前の出来事を思い出し、星来は楽しそうに笑みを浮かべる。
「あれは酷かったなー」
「悪かったな」
そんな会話をしながらも、大輝達は慎重に樹海を進んでいく。
樹海の探索を始めて一時間が過ぎた頃、大輝達は休憩を取っていた。
「お前ら、何か食料になりそうなモノとか見つけたか?」
「特に何も見つからなかったよー」
「俺の方もだ」
「だったら、何か生き物を見たりとかしなかったか? 足跡とか、糞とか、争った形跡とか」
「ごめんね、大輝君」
「悪い、黒金」
「いや、気にすんな。俺だって、何も見つけられてねぇからな。とりあえず、何か見つけたら直ぐに報告してくれ。見つけたからといって、むやみやたらに手を出すなよ。特に夕凪、お前が一番気を付けろよ」
「それくらい分かってるよ! 大輝君、私のこと何だと思ってるの!?」
「え、子供?」
「即答!? ていうか、どのへんが子供!? 私、そんなに子供っぽくないよ……ないよね?」
徐々に不安になってきた星来は同意を求め、火ノ国と大輝を交互に見る。
大輝と火ノ国は、慌てふためき右往左往する星来の姿を見て思わず吹き出してしまう。
「もぉー! 二人して笑うなー!!」
暫くして、漸く落ち着きを取り戻した大輝は、先程までとは打って変わって真剣な表情で話し始める。
「とりあえず、ここから三手に別れて各自で探索するか」
「黒金、三人で固まって動かないのか?」
「三人一緒じゃ、纏まった範囲しか探索できないだろうが。可能な限り食料と水は早い段階で確保できた方がいい。だから、別れて効率良く探す」
「なるほどな」
「でも、大輝君。それって危険なんじゃ……」
「確かに、夕凪の言う通り一人で行動するのは今以上に危険だ。万が一の事態が起きた場合は、一人で対応しなければならないからな。だけど、チンタラ探索してても危険なことに変わりはない」
「でも、今無茶する必要はないんじゃ……」
「まあ、夕凪の言ってることは確かに正論だと思う。だけどな、夕凪。体力のある今だからこそ、少しでも早く、少しでも遠くへ行き、より多くの情報を集めておくべきだと、俺は思う。確かに危険かもしれないが、ここで時間をかけてたら俺達は生き残れない。その代わり、危険だと思ったら全力で俺達に助けを求めろ。俺達はお前を見捨てたりしない」
「黒金……お前が日頃からそれくらい優しければ」
「黙ってろ、火ノ国」
「いや、マジな話だって」
火ノ国は苦笑しながらも真剣に大輝を見据えてる。
その視線に大輝も流石にバツが悪くなったのか、視線を火ノ国へと移し口を開く。
「俺は別に聖人君子でも仏でもないからな。誰にでも優しくはなれない。それに、多数の友より一人の親友。例え友人の数が人より少なかろうが、心の底から信じ合える人が一人でも居るなら、俺はそれで十分だと思う」
「そうか。あんがとよ」
「……うるせぇ」
照れたように顔を背ける大輝の姿を見て、火ノ国は思わず笑みを浮かべた。
すると、大輝と火ノ国の隣から、唸るような声が聞こえてくる。
二人がそちらを向くと――――。
「うぅー」
涙を浮かべながら頬を膨らませ拗ねた様子で大輝と火ノ国を見る、星来の姿があった。
「お、おい……どうしたんだよ、夕凪?」
「だ、だって!! 大輝君が、親友は一人居ればそれで良いっていうんだもん!」
今にも泣き出しそうな声で話す星来を見て、大輝は口角を上げニヤリと笑う。
「ああ、そうだな。つまり、それ以外は俺にとってはゴミや雑草、世界に存在する数多の有象無象、つまり他人でしかないってことだ。夕凪は、どっちだろうな?」
「そ、そんなぁぁぁぁ」
星来は、その言葉で完全に泣き始める。
目の前で泣き崩れる星来を見て、火ノ国は信じられないとばかりに目を見開き、大輝を見つめていた。
――こいつ、最悪だな。
目の前で悪魔の様に笑う大輝を見て、割りと本気で火ノ国はそう思った。
「ゆ、夕凪。さっき黒金が言ったのは、あくまで例え話であって。実際、黒金は夕凪の事を大切な友達だと思ってるって!」
「ほんと?」
「おう! ほんとほんと! な! 黒金?」
「さあな」
「やっぱり私の事なんて、どうでもいいんだー! 世界に蔓延る有象無象の塵芥と同じなんだー!」
「黒金ェェェェ!? 何で、火の油を注ぐような行動を取るんだよ!?」
「強いて言えば、面白そうだったからだな?」
「もう止めてやれって! 流石に夕凪が可哀想過ぎて、見てられん!」
「お前の発言も、だいぶ火に油を注ぐ行為だと思うけどな」
「ひ~の~く~に~君!!」
「な、なんで俺!? この場合だと、普通怒るべきは黒金だろ!?」
「大輝君のあれは一周回って愛情表現だもん! 火ノ国から受けたのは憐れみだからだよ!」
「しょうがねぇだろ!? 扱いが悲惨過ぎて、本気で可哀想に思ったんだから!! それとメンタル強すぎねぇか!? どう考えても、あれは愛情表現では無いだろ!?」
「むぅ! 私が愛情表現と思えば愛情表現なの!! そもそも、自分の方が大輝君と仲が良いとでも言いたげだね! 実際のところ、はたから見てても、全然そんなことないから! 寧ろ、さっきの話で一言も親友が火ノ国君とか明言されてないし! お礼まで言って、ちょっと自意識過剰なんじゃないかな!!」
「なっ!? 好き放題言いやがって!! 例え夕凪であろうと、もう許さねぇ!」
「それはこっちのセリフだよ!!」
互いに睨み合ったかと思えば、口論から取っ組み合いへと発展する。
二人は互いの頬を抓ったかと思えば、縦横無尽に引っ張り合い始めた。
「お、おい」
――夕凪が涙目で済んでるってことは、火ノ国も全力で抓ってる訳ではなさそうだな。流石に、その辺の分別はついてるか。なら、ほっといても大丈夫か。
暫くすると、互いに相手の頬から手を離すと無言で見つめ合い頷き合うと、大きく欠伸をしている大輝の元へと詰め寄っていく。
「ん? いざこざは、もう終わったのか?」
「「大輝君(黒金)!!!!」」
怒り心頭といった様子の二人に機関銃の如く責め立てられ、大輝が二人から解放されたのは今から更に10分後だった。
頭と耳を押さえながら、大輝は二人へと話しかける。
「えー、どこまで話したっけ? ああー……思い出した。三手に別れる話だ。確かに危険かもしれないが、俺はお前たち二人とならやれると思っている。だけど、無理強いするつもりはない。お前らが嫌なら、俺は二人の意思を尊重するつもりだ」
「俺は賛成だ」
「私も!」
「そうか。なら、今まで以上に周囲を警戒して探索するようにな。非常時や異変を感じたら無理せず直ぐに誰かへ知らせるように。いいな?」
そう告げる大輝の声は、優しく子供に言い聞せるようなもので、そんな大輝を見て、二人は安心したのか、表情を緩ませながらも黙って頷き返す。
「それじゃあ! 円陣でも組むか!」
「いいね! それ!」
「いや、別にいらねぇだろ」
「別に円陣くらい良いじゃねぇか! ほら、俺と夕凪のやる気も上がるしさ」
「そうそう!」
「うぜぇー」
「そんなこと言わずにやろ~よ~!」
「やろうぜ~」
「あー! うぜぇ!! 腕を引っ張るな! 肩を組むな! 駄々をこねるな!!」
「「えぇぇぇぇ~」」
「っ……はぁ……今回だけだからな」
「「イエーイ!」」
円の様に三人は肩を組むと、二人の視線は再び大輝へと向かう。
まるで、何かを期待するかのような視線に大輝は溜息をついた。
――俺、こういうの苦手なんだけど。
「集合は午後二時にこの場所だからな。えー……だから、まあ、頑張るぞ。おー」
「「おー!」」
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【プロフィール】
名 前:夕凪 星来
性 別:女性
年 齢:17歳
血液型:O型
誕生日:7月7日
身 長:152cm
体 重:45kg
特 技:家庭料理、お菓子作り、手芸
趣 味:カラオケ