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クロスウィル 渇望のディエンド  作者: 雨乃さつき
失われし楽園
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第2話 空模様

【人物紹介】

黒金大輝(くろがねだいき)

白夢 空(しらゆめそら)

 大輝が目を覚ますと、そこは真っ白い空間だった。

 すると世界は暗転し、見たことも無い光景が次々と映画のコマ送りのように映し出される。


 広大な森、飢えた獣、澄んだ色をした小川、木々に覆われた小さな家、差し込む木漏れ日。


 様々な光景が映し出されては消えていく。


 映し出されるものは、どれも見覚えのない光景だった。

 にもかかわらず、今朝の夢同様、映し出されるもの全てに大輝は懐かしさを覚える。


 まるで、自分が自分でないかのような感覚に、大輝は言い知れぬ恐怖を感じた。

 その瞬間、まるで浮き上がるような感覚に襲われたかと思うと、大輝の意識は再び闇へと沈んだ。



 目を覚ました時、真っ先に目に飛び込んできたのは無数の星々が輝く幻想的な夜空だった。


 身体には大きな布が掛けられており、頭の下には綺麗に折りたたまれたブレザーが敷かれている。


 ――夜……ってことは、半日も寝てたのか。早く帰らねぇと、白夢に怒られちまう!? とりあえず、適当に連絡でも入れて誤魔化す必要があるな。


「大輝? 良かった! 目が覚めたんですね……」


「っ!? お、おう、おはよう……って、そんな深刻そうな顔して、どうかしたのか?」


「っっっ! どうかしたのかじゃありません!! どれだけ心配したと思って……」


 声を荒げたかと思えば、白夢は安堵した様子でその場にへたり込んだ。

 そんな彼女の姿を見て、大輝は胸の奥に言いようのない痛みを覚え顔をしかめる。


「本当に、無事で良かった」


 そう呟く彼女の弱々しい姿を見ていられなくて、大輝は逃げるように周囲へと視線を移した。


 そして、目の前に広がる《《ありえない》》光景を前に言葉が詰まる。


「こ……ここ、何処だよ」


 間違いなく校舎の屋上にいるにもかかわらず、大輝の目前に広がる光景は、正しく樹海そのもの。


「も、もしかして、富士の樹海か?」


「違います」


「なら、海外のジャングルとか」


「無いとも言い切れませんが、可能性は低いと思います」


 的確に言葉を返してくる白夢に、大輝は怪訝な眼差しを向ける。

 そんな大輝に優しく微笑み返すと、白夢はポケットからスマホを取り出した。


「そんな顔しないでください。別に答えを知ってるわけではありませんから。これを見てください」


 白夢は取り出したスマホの画面を操作し大輝へと見せる。

 見せられた画面では、アンテナが一本も立っておらず、現在地が表示されていない。


「スマホの現在地情報だけだと、何とも言えないだろ」


「その通りです。なので、周囲を簡単にですが調べてみました」


「結果は?」


「周囲の草木ですが、私の知っているものは何一つありませんでした」


「マジかよ……」


「マジです」


「なら……もしかして――――異世界、とか?」

 

 半分冗談で呟いた言葉。


 普段なら一蹴して笑い飛ばしてしまう答えに、二人は思わず言葉を詰まらせた。


 沈黙が嫌に重たい空気を作り出し、その空気感に段々気まずさを覚え始める。


 そんな空気を打ち破る様に、あっけらかんと大輝は言葉を発した。


「とりあえず、どこでもいいか」


「は?」


 沈黙を破った大輝の言葉に、白夢は思わず耳を疑った。


「何を悠長なことを……」


「だって、今考えたところで現状俺達にはどうしようもないだろ。そんなことに時間を使うくらいなら、他の事に時間を使う方がいいと思っただけだ」


 最早どうでもいいと言わんばかりに、大輝は大きく欠伸をしている。


 能天気、お気楽者、考えなし、馬鹿など、目の前の男に対する様々な悪態が次々と浮かび上がってくる。


 それと同時に、白夢は少しだけ、自身の心が軽くなった気がした。


「あー、今何時だ?」


「深夜二時ってところでしょうか」


「お前、なんで起きてんだよ……」


 大輝が呆れた様子で尋ねると、白夢は淡々と眠っていた間に起こった出来事を語りはじめる。


「貴方が寝ている間に、色々あったんですよ。まず始めに先生方の間で職員会議が行われました。私はその会議に生徒代表として出席し会議後は、災害避難時用に備蓄されている食料と水の量を数えたり、各学年のクラス委員長達に職員会議で決まったことなどを通達したりなど、その他にも色々と、まあそれについては省きますね」


「流石、生徒会長様。他の連中と比べて、忙しかったんだな」


「はい。それはもう。誰かさんが気を失っている間、私は全校生徒の皆さんのために一生懸命働かせていただきました。誰かさんが気を失ってるあ・い・だにです!」


 言葉の端々から圧を感じ、いたたまれなくなった大輝は絞り出すように労いの言葉を零した。


「お、お疲れ様です」


「はい。ありがとうございます」


 優しく微笑みお礼を口にする白夢。

 彼女の何気ない仕草に少し照れくささを覚え、大輝は逃げるように言葉を発した。


「とりあえず、今日はもう休んだらどうだ。明日から更に忙しくなるんだろ? だったら、今の間に寝ておいた方がいいと思うぞ」


「分かってますよ。ですが、それは貴方にも言えることです。今日は大事を取って、もう一度休んでください」


 休ませようとする大輝に対して、白夢は譲る気はないと言わんばかりに真剣な眼差しで大輝を見つめる。


「さっきまで寝てたのに、そんな直ぐに眠れるか」


「おかしいですね。二度寝は得意分野なのでは?」


「この野郎……」


「ふふっ、冗談です。」


 ――この楽しい時間がずっと続けば良いのに。ですが、それは出来ません。明日からの予定は山積み。まずは、食料と水の問題を早期に解決しなければ。この右も左も分からない土地で、水と食料を安定して手に入れられるようにするには……。


「考え込んでないで、今日は遅いからさっさと寝ろ。明日のことは、明日のお前に任せればいいんだよ」


「それでは何の解決にもなってないじゃないですか」


「今の不安そうな顔したお前が考えるよりは、断然良い案が浮かぶと思うけどな」


 ――普段は適当な態度の癖に。こういう人の感情の起伏に関しては、私よりも精細で機敏なんですから。ここは要らぬ心配を掛けないよう、冷静に落ち着いた対処が必要ですね。

 

「ふぅ……別に不安そうな顔なんてしていません。おかしな事を言わないでください。全く、前々から思っていましたが大輝には常識もそうですが、社交性に加え、デリカシーも足りていないようですね。そもそも私自身、全然全くこれっぽちも、この状況に不安など感じておりません。私はあくまでも貴方の身を案じてるだけであって、これくらいの不測の事態であれば特に何の問題にもなり得ませんので、どうぞご心配なく」


「……ちょ、ちょっと待て! ストップ、ストップ!?」


「何ですか、全く。人が話してる時は、静かに聞く様に小学校でも習った筈ですが?」


「お、おう。それはそうなんだけどよ……」


「……ッ!?」


 ――何をやってるんですか、私は!? あれでは、普段と大違いじゃないですか!? これでは、怪しまれて当然。見てください……あの懐疑的な視線を。このままでは、大輝にあらぬ誤解をあたえることになってしまいます。それだけは避けなければいけません。何か打開策を……。


 ――もしかして、空の奴……。本当は人並みに不安だけど、強がってんのか? いや、待て……それだけはないな。これはあれだ。あからさまに狼狽えた態度を見せる事で、俺がそれを心配した素振りを見せたと同時に、何時もの様に揶揄う算段と見た。甘いな、空。こちとら伊達に長い間、お前と一緒に過ごしてきてねぇんだよ。この程度のトラップで、俺の弱みを握れると思うなよ。だが、あまりにキッパリと断った場合、それ相応のしっぺ返しを受ける可能性がある。ここは敢えて、一度相手の策に乗った上で、出方を伺うのが得策だな。ここは、何時も通りチョットした冗談で先手を取る!


「ふ、不安なら手でも繋いでてやろうか?」


「っ…………では、お願いします」


「……マジで?」


 冷たく一蹴されて終わり。

 そんな反応を想定していたため、大輝の口からは思わず驚きの声が漏れた。


 大輝の反応から、冗談だった事に気づいた白夢は一気に顔が熱を帯びていく。


「な、なんでもありません! 忘れてください! もう寝ます! おやすみなさい」


「お、おう」


 捲し立てるように一気に喋りきり、白夢は大輝に背を向け目を瞑った。


 またしても見たことのない白夢の反応に、大輝は戸惑いを隠せない。


 考えても考えても白夢の機嫌を直す手段は思いつかず、大輝は諦めたように息をつくと白夢へ背を向け横になる。


「おやすみ、空」


 眠る白夢にそれだけ告げると、そっと彼女の右手を優しく握り大輝は眠りについた。

感想、レビュー、ブクマ、評価、待ってます!


【キャラクター紹介】

名 前:白夢空

性 別:女性

年 齢:17歳

血液型:A型

誕生日:4月02日

身 長:162.8cm

体 重:秘密

特 技:模写

趣 味:読書、料理、手芸

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