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クロスウィル 渇望のディエンド  作者: 雨乃さつき
失われし楽園
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第1話 始まりの日

【人物紹介】

黒金 大輝(くろがねだいき)

白夢  空(しらゆめそら)

火ノ国真人(ひのくにまさと)

夕凪 星来(ゆうなぎせいら)

 黒金大輝は耳元で鳴り響く携帯のアラームによって目を覚ました。

 未だ夢心地のなか、大輝は慣れた動きで携帯を手繰り寄せ時間を確認する。


 『07:02』


 映し出されている時間に、大輝は思わず顔を顰めた。


(あと、30分は寝れるな)


 携帯を素早く操作しアラームを設定し直すと、大輝は再び布団に潜り寝息を立て始める。


 暫くすると――――。


「大輝、起きてますか?」


 凛とした女性の声と共に、扉が優しくノックされる。

 だが、待てど暮らせど大輝からの返事がやってこない。


「またですか……」


 少女はドアの前で小さく溜息をつくと、大輝の返事を待たず部屋の扉を開ける。

 すると、そこには布団に包まり眠りにつく大輝の姿があった。


「全く……」


 諦めたように再度溜息を零すと、少女は颯爽とカーテンを開け窓を開く。

 そして、大輝から布団を奪い取ると、気持ちよさそうに眠る大輝の体を優しく揺する。


「いつまで、寝てるつもりですか? いい加減起きてください」


「んん……今、何時?」


 起きる素振りも見せずに時間だけを尋ねる大輝の姿に、少女は呆れた様に言葉を返す。


「起きて自分の目で確かめてください。それと、いい加減準備し始めないと朝ごはん抜きのうえ遅刻することになりますよ?」


「……それは勘弁してくれ」


 眠たい目を擦り大きく伸びをする大輝の姿を、少女は小さく笑みを浮かべながら静かに見守っていた。


「おはよう、白夢」


「おはようございます、大輝。朝ごはん、もう出来ていますよ」


「分かった。着替えたら直ぐに行く」


「分かりました。では、向こうで待ってますね」


「ああ」


 それから準備を終えた大輝は、リビングで白夢の作った朝食を食べていた。

 流れるニュースに耳を傾けながらも、大輝は黙々と箸を進める。


 向かいに座る白夢に目を向ければ、流れるニュースを真剣な表情で見ていた。


(何が面白いのやら)


 そんな事を考えていると、不意に白夢から声をかけられる。


「最近、物騒な事件が多いですね。それに、謎の行方不明者が世界中で相次いでるそうですよ――――って、聞いてますか?」


「そんな睨まなくても、ちゃんと聞いてる。それと、ご馳走様」


「はい、お粗末様でした。ちゃんと出かける前に、歯磨きを――――」


「へいへい、空様の仰せのままに」


「ふざけてないで、さっさと行ってきてください」


 間延びした返事をしながら洗面所へ向かう大輝を横目に、白夢は大輝が食べ終えた食器を片付けていく。


 その間に大輝は身支度を整え、白夢が家事を終えるのをゆっくりと待っていた。


「では、行きましょうか」


「おう」


 二人は学校に着くと、一言も交わすことなく淡々と各々の教室へと向かっていく。


 白夢と別れた後、大輝は教室で自身の机に突っ伏していた。


 すると、不意に肩を軽く叩かれる。

 仕方なく顔を上げてみれば、目の前には大柄な男子生徒である火ノ国真人が立っていた。


「黒金、おはようさん」


「火ノ国か、おはようさん。そして、おやすみ、さようなら」


 流れるように会話を終わらせ再び眠りにつこうとするが、それを遮るように新たに声をかけられる。


「大輝君、おはようー!!」


 その声が聞こえた瞬間、大輝は盛大に溜息をつくと知らぬ存ぜぬと言わんばかりに、再び机へと突っ伏した。


「あー! 大輝君、また寝てる! ねぇねぇ、起きて起きて!」


「はぁ……朝から元気だな夕凪」


「うん! 今日は月曜日だからね。土日でリフレッシュしたから、今の私は元気百倍だよ!」


「うぜぇー。とりあえず、頭に鳩の糞でも落とされろ」


「大輝君は、朝から辛辣じゃない!? 寧ろ何で、そんなに元気ないの!?」


 驚き項垂れる星来を無視し、尚も机に突っ伏し続ける大輝は、周りの視線が自分へと向けられているのをひしひしと感じていた。


「ねぇねぇ、大輝君!」


「……」


「大輝君ってば!」


「……」


 星来に話しかけられる度、男子生徒達の鋭い視線が背中へと突き刺さる。


(さっさと諦めろと声を大にして言いたい所だが、下手に反応してこれ以上針のむしろにされるのは非常に怠い。さて、どう追い返すか)


 そんな大輝の想いとは裏腹に、星来は諦めず話しかけ続ける。


 だが、何度声を掛けても反応を示さない大輝に、星来は頬をパンパンに膨らませたかと思うと、無言で大輝の肩を大きく揺らし始めた。


「ちょ、分かった! 分かったって!! 起きる、起きるから揺らすんじゃねぇ!!」


「えへへ! 大輝君、改めておはよー!」


「お、オハヨー」


 大輝は傍観していた真人へと恨みがましい視線を送るが、当の本人は全く悪びれた様子も見せず、大輝へと楽しそうに笑いかけた。


「二人共、どうかしたの?」


「ん? 特に何でもねぇよ。しいて言うなら、男同士の友情を確かめ合ってただけだな」


「えー! 火ノ国君だけずるいよ!」


 自慢げに話す真人を見て、星来は納得いかないと騒ぎ出す。


 そんな二人のやり取りを大輝が黙って見ていると、突然星来が大輝の右手を両手で包み込むように握ると真剣な眼差しで大輝を見つめる。


 先ほどまで騒がしかった教室が、ほんの一瞬だが時が止まったかのように静かになった。


 だが、手を取った本人はそのことに気づいておらず、今も大輝の手を握りしめて期待に満ちた眼差しを向けている。


(い、嫌な予感が……)


「大輝君!」


「……なんだよ」


「私も! 火ノ国君と大輝君の友情に負けないよう、大輝君ともっともっと仲を深めたいと思います!」


 その言葉に再度、教室内の空気が凍り付いた。


 クラスメイト達は表面上では他愛もない会話を続けているが、チラチラと視線を大輝達の方へと動かして様子を窺っている。


「夕凪……。お前、もう少し言い方を考えたらどうだ。今の言い方だと、聞く人によっては勘違いされるかもしれねぇだろうが」


「何を勘違いされるの?」


「……」


 大輝は目の前で首を傾げる夕凪を見て、思わず頭を抱えたくなった。

 何から指摘すればいいのか分からず、大輝の口から深い溜息が零れる。


「はぁ……。とりあえず、手離してくれ」


「あっ……ご、ごめんね」


 星来はパッと手を離すと、少し頬を赤く染め慌てたように謝った。


(手を握ってたことは恥ずかしいのか)


 大輝が冷静にそんな事を考えていると、予鈴が鳴り出し、生徒達はぞろぞろと自分の席へと戻り始める。


「黒金、また後でな!」


「大輝君、後でね!」


 そう告げて席に戻っていく二人の横顔は、どこか楽しそうに見えた。


(俺なんかと話してて、何が楽しいのやら)


 二人の表情を思い出し大輝は少しばかり頬を綻ばせた。 



 そして、午前中の授業を終えた大輝は、昼休みを迎えると同時に素早く教室を後にする。

 屋上へやって来た大輝は、空を見上げるようにして寝ころんだ。


 目を閉じると、何度も何度も今朝の夢がフラッシュバックする。

 思わず大輝の口から、ため息が零れた。


(何で、あの夢のことがこんなにも気になるんだ)


「やっぱりここに居ましたか」


「白夢……」


 声の主である白夢に一瞥くれると、再び視線を空へと戻す。


「今日の授業はどうでしたか?」


「授業か……。午前中だけで出席簿を十二回も食らったな」


「ふふっ、新記録ですね。おめでとうございます」


「おう」


 返事をしつつも何処か上の空な状態の大輝に、白夢は一瞬怪訝な表所を浮かべる。


「今日の晩ご飯ですが、何か食べたいものありますか?」


「唐揚げ」


「今日は気持ちのいい天気ですね」


「そうだな」


「お昼ご飯、ちゃんと食べましたか?」


「おう」


「何が一番美味しかったですか?」


「卵焼きとウインナー」


「野菜も残さず食べましたか?」


「一応」


 話しかければ返事はかえってくるものの、変わらず空を見上げる大輝の姿に白夢は段々不安を覚える。気がつけば、白夢は大輝のシャツの袖を弱々しく引っ張っていた。


「どうした?」


 何時もと変わらぬ声、いつも通りの距離感。

 なのに、この手を離せば何処かに行ってしまうような気がしてならない。

 そのせいか、白夢の手に自然と力が入っていく。


「何か……あったんですか?」


「いや、別に――」


 袖を掴む白夢の手が微かに振るえていることに気づいた大輝は、その先の言葉を思わず飲み込んだ。


 そして、不安そうに自分を見つめる白夢と向き合うように体を起こした。


「今朝、不思議な夢を見てな。その夢があまりに現実味のある夢だったから、ちょっと気になってるだけだ。だから、そんな不安そうな顔するな」


 到底納得できる理由ではなかったが、白夢には大輝が嘘をついてるようには見えなかった。

 四年間、共に過ごしてきた大輝が初めて見せた表情。

 胸の奥底から湧き上がってくるモヤモヤとした感情を隠すように、白夢は微笑を浮かべる。


「それで、どんな夢だったんですか?」


「それがな――」


 大輝が今朝の夢について語ろうとした、その時――――。


『輪廻の果てで……また……』


 夢で見た最後の光景がふと脳裏を過ったと思えば、大輝はまるで頭を鈍器で殴られたかのような激しい痛みに襲われた。


 頭の痛みが増していくに連れて、目の前の景色が酷く歪んでいき、脳内に見たこともない光景が次々と流れ込んでくる。


「ぃッッッッアァァァ!!」


 突然叫び声を上げたかと思えば大輝は糸が切れた人形のように、その場で倒れ込んでしまう。


 全く動かなくなった大輝を見て、白夢の全身を嫌な予感が駆け巡る。


「大輝!? 大丈夫ですか!!」


 動かなくなった大輝へと必死に呼びかけ続ける白夢をよそに、突如まばゆい光が校舎全体を包み込んでいく。


 その光の温かさに異様な安心感を覚えると同時に、白夢は抗えぬほどの睡魔に襲われる。


「一体……なに、が……」


 次第に意識が朦朧とし始め、白夢はその場に倒れ込んでしまう。

 校舎に居た生徒や教師達も光に包まれると、同じように睡魔に襲われ次々と眠りについていく。


 そして、光が全てを包み込んだ時、日本から一つの学校が姿を消すことになった。

感想、レビュー、ブクマ、評価、待ってます!



【プロフィール】

名 前:黒金大輝

性 別:男

年 齢:17歳

血液型:A型

誕生日:6月22日

身 長:162cm

体 重:56kg

特 技:特になし

趣 味:ゲーム、読書

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