嵐の中で輝いてないで逃げて
――半年前。独立国ハイランド。
「……返せ」
嵐が舞うハイランド近辺の荒野で、独立国ハイランドの王子『クラッド・シルトベイル』が、妹の『シール・シルトベイル』の亡骸を手にして、向かい合う黒い剣を握る男に投げかける。「シールを返せ」と。
「そいつはこっちのセリフってやつだ……俺がシールを『蘇らせる』。たった今死んだシールを本当に返してほしかったら、まずは俺に『シールの遺体』を寄越せ。決着はそれからつける」
「天使の血を引く我が一族にとって、貴様のような愚鈍で愚かな名もない者との戦い――決着など、元からあってはならないのだ。もう一度言う、シールを――『シールの意思』を返せ」
「俺の名は『カイム』だ! シールがくれた――初めて誰かから与えてもらった『宝物』だ! 二度と間違えんじゃねぇ!」
カイムとクラッド。二人の男の手には、シール・シルトベイルの命を構成する二枚のパズルのピースが一枚ずつ握られている。
『遺体』と『意思』。二つがはまり合って、ようやく『二人の戦いを止めるために死んだ』シールが蘇る。
「ならば遺憾ではあるが、貴様を殺し、シールの意思を――」
「残念ながら、俺を殺したらシールの意思も消滅する。だから寄越せ。もう『あの時』の俺じゃねぇ。今やりあった通り、俺たちの力は拮抗しているんだよ……だから賭けといこうじゃねぇか。俺と来るかテメェに行くか、蘇ったシールに決めさせる。さぁどうするよ? 俺はこの勝負にベットすることに決めた!」
嵐は激しく雄叫び、見やれば、クラッドの背後にはハイランドの騎馬隊の姿がある。
「先に言っておく。後ろのお仲間が来たら、俺は逃げる。この勝負は預ける。この場で決めたきゃさっさとしやがれ! 俺はベットした! テメェの番だクラッド!」
「ッ! ――私は――私は!」
瞬間、瞬きほどの一瞬に、落雷が天より落ちる。カイムは飛びのき、騎馬隊がクラッドを囲んだ。
「チッ!」
馬にまたがり、暗い嵐の中を駆けていく。クラッドの叫び声も答えも暴風と大雨の中にかき消された。
「次だ、次だからなクラッド――勝負に乗るかどうかは、それまでだ」
暗闇を駆けるカイムの轍には、地を這う黒い影のような液体がどこまでも付いていった。不可解なことに、クラッドの腕の中にいる剣で斬られたシールの体には、一滴たりとも血液が残されていなかった。
完結済みです。毎日投稿します。
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