初めての魔法
ルチアさんに郊外に連れて行ってもらった。
ルチアさんが借りてきた馬に乗せてもらって周りに民家もない草原のような所にやってきた。
道中、ルチアさんのお胸が頭に当たってどうしていいのやら...。
当たらないようにしようとすると前のめりになってしまうしルチアさんに後ろから抱き寄せられてしまう。
余計当たるんですけど。
「まだ、前のめりになるには早すぎるだろう?」
何のことかわからず「早いって?」と聞くと「せめて10歳を過ぎてからだろうことだよ」
と言われて数瞬、僕、5歳ですーっ! と叫びたくなった。
すぐに前を向いたけれど「おやおや、ませた子だねぇ」という声が後ろから聞こえた。
ルチアさん、5歳に下な話題はどうかと思います...。
普通の5歳の反応ではないと思うけれどルチアさんは気にしたふうでもない。
前世持ちだから大丈夫とか思わないでほしいな。言ってないけど前世女だし。
気を取り直して魔力放出だ。
実は今まではコントロールというか抑えることしかやらせてもらってない。
胸のもやもやは今では、結構苦しいところまで来てる。
「じゃ、なんでもいいからイメージした魔法を放ってみな。前方に放つことだけに注意して」
「...はい」
大雑把だなー、と思ったが素直に言うことを聞く。
宮廷魔法士になれるくらいの人なんだから、きっと何か考えがあるんだろう。
ルチアさんはぼくの真後ろに立っている。
そして、僕の前には何もない。少し背の高い雑草が辺り一面に生い茂っている。
「ウォーターカッター」
ザクッみたいなジャッみたいな音と共に僕の前の雑草が抉られるようになくなった。
いや、切られた雑草が舞っているからなくなったわけではない。
「うん、いいね。やっぱり前世持ちは魔法の扱いに長けてるんだな」
ルチアさんは僕の目線までくるようにしゃがむと「見てごらん」と前を差す。
「抉るように切られているが、どうなることをイメージした?」
「草刈りです」
「ふっ。ふふふ。とても実直なアルフレートらしいね」
笑われて少し恥ずかしい。
「手前から深く切っている。一番近いところは土まで少し削っているようだ。そこから向こうへ向かってなだらかに草が残っている。つまり手前から切ってそのまま空へ向かっているということだ。そんなことをイメージしたか?」
「いいえ」
僕は草刈りを思い浮かべて“ウォーターカッター”と言ったけれど、それだけだ。
「アルフレートの今の魔法は初めてなのに素晴らしい。でもイメージが曖昧だ。魔法は想像力、これは何度も言ってきたね?」
「はい」
「わたしもやってみよう」
ルチアさんが手をかざすと雑草だらけだった場所にぽっかりと真四角の黒い穴ができた。
大体1メートル×1メートルくらいだろうか。
焦げ臭い匂いはしないが草が焼けたのだ、ということがわかる。
「わたしは四角い熱の塊を上から当てることをイメージした。アルフレートも同じようにやってごらん」
「はい」
熱の塊と言ってもなー、なんだよそれ。
あ、フライパンとかいいんじゃない?真四角のフライパン。
それを大きいものとして鉄を叩くくらいの真っ赤な熱さ。
バチバチッと音がして黒くて四角い穴ができた。
焦げ臭い匂いもするが熱さも感じる。
思わず後ずさる。
周りの草が延焼を起こしているがルチアさんが消火してくれた。
辺りに発生した煙もルチアさんが消してくれた。
「上出来だよ」
ルチアさんはにっこり微笑んでいる。
妖艶美人の微笑み。眼福だ。
「ただ、熱をこちらが感じないように熱を遮断したらもっと良かった。更に延焼しないようにできればもっと良い。贅沢を言えば匂いもなんとかできれば良いね」
そういえばルチアさんは延焼もしてなかったし、匂いもしてなかったし、熱さも感じなかった。
「わたしのイメージはこうだ。周りを四角に魔石で囲って、そこに熱の塊を上から押し付けた。匂いと煙は風で上空へ飛ばした」
マジか。そんなとこまでイメージするの?
「わかったかい?魔法は想像力だということが」
「はい。よくわかりました」
「気分はどうだ?魔力酔いは治ったかい?」
「あぁそういえば、少しスッキリした感じがします。もう何回かやれば完全に取れそうです」
「はぁ?」
「え?」
「アルフレート、お前...。どれだけ魔力あるんだ」
「...さぁ?変ですか?」
「こんな熱を作っておいて治らない、というのは余程だと思う。わたしより多いのは確実だ」
そうなのか?
他をあまり知らないからな。比較対象もないし。
「まぁそれは今度でいい。それなら、もう何発か打っておこう。さっき草を抉った時“ウォーターカッター”と言っていたね。それは何?本当はルール違反だが教えてもらえると嬉しい」
おっと。
ルール違反というのは魔法は想像力でできるものだから、それを教えるということは相手に魔法を与える、と同義だ。
この想像を他者に強制して説明させることは法律で禁じられている。
ザルみたいな法律で、ないよりマシ、というルールだし、広く認知されている魔法は、この限りではないが。
でも、僕はタダで魔法を教えてもらっているので対価と思えば良いと思う。
だから教えることはいいのだが、“ウォーターカッター”の説明をさせられるのは、なんだか恥ずかしい。
この世界の魔法は自分の持つ魔力で行うことを指す。
その際、イメージしたものを表現しやすくするために技に名前をつけて魔法の行使の際に唱える、というか呟いたり叫んだりするのが一般的だ。
もちろんイメージができているなら無言でも行使可能だ。
さっきの四角いオコゲはルチアさんも僕も無言だったもの。
“ウォーターカッター”は前世のゲームとかコミックの何かに出てきたヤツだ。
“水刃”なんてのも少ないけどあったと思う。
まぁココでは、どっちでもいいんだけど。
「えーと、“ウォーターカッター”ていうのはですね、水の圧、というか力でモノを切る魔法の名前で、前世の記憶の中にある物語の技?です。あ、前世には魔法なんてものは実在しませんでしたけど架空の物語には魔法が出てくるお話が多くあったんですよ」
説明が難しかったのでゲームの話は省いた。
「へぇ、水の力か...。やっぱり前世持ちは面白いことを考えるな。普通は水でモノを切ろうなんて考えない。でも実際できているわけだし“ウォーターカッター”をもっと正確に使えるようにやってみよう。そうすれば魔力酔いもそのうち治るだろ」
それからルチアさんと“ウォーターカッター”の精度をあげるべくイメージを固めては実行、考え直して実行、と何回か繰り返した。
最初の“ウォーターカッター”は、範囲も考えていなかったし始点、終点も定まっていなかった。
だから最後はお空へきらーん、となったわけだが。
ルチアさんは水圧がよくわからずイメージできない、と言っていたが僕は前世で水圧でいろんなものを切っている画像を見ているからイメージしやすいんだろうな。
最終的には正確な円を“ウォーターカッター”で作ることができた。
コンパスのように中心を決めて棒を中心に当てて倒す。そこから、ぐるっと棒を回し水圧で草を刈る。というイメージだ。
僕のためのイメージなので異論は認めない。
また魔力酔いになったときのために1人でもできる小さくて安全な魔法の行使も練習したよ。
空気で丸いボールを作って中に水を入れるだけ。
水は空気中からでも作れるようにイメージを固めて練習することにした。
ちゃんとできるようになるまでは普通に水を汲むよ。
もちろん帰るときには胸のもやもやとか苦しい感じはなくなりました。
あぁ、スッキリした♪