これは暴力という名の虐待だ
そんな呑気に暮らしていた僕だったが5歳になって少しした頃だ。
父が船で航行中、行方知れずになった。
難破したのか海賊にでもあったのか漂流しているのか、誰にもわからない。
だが、そのせいで僕と母の生活は急激に変わった。
まず、ギリギリだった別邸の使用人が1人もいなくなった。
皆、申し訳なさそうに出て行った。
辞めさせられた人もいたようだ。
全員本館に連れて行っても本館に、そんなに要らんわな。
家庭教師も辞めさせられた。
先生は僕が前世持ちだから国にも僕に関して報告する義務がある、と言っていたのだけどいいのかな。
魔法、どうしよう。
次の先生が決まるまで中止するように、と言われたけれど次がある保証はどこにもない。
使用人が1人もいないので僕もできることをやった。
何も支給されないので別邸の中の物を売って食料を買った。
本館の使用人が食料を分けてくれることもあったがバレたら使用人がどうなるかわからない。
母はありがたいが決して無理はしないように、と言っていた。
僕は母に、こんなところ出よう、いる意味ない、と訴えたが僕の貴族としての将来を考慮して、迷っているようだった。
だが、決定的なことが起きた。
母が買い物に行っていた留守に滅多に来ることがない正妻が別邸へ来たのだ。
何しに来たのかわからないが中に入るなり調度品の少なさに売り払ったことに気付いたらしく「この泥棒が!」と平手打ちされた。
指輪が当たって痛い。
女性とは言え大人の本気の平手打ちに僕は吹っ飛んだ。
左頬が、かーっと熱くなる。左目だけから涙が出た。
後ろに控えていた侍女が2人、慌てて止めに入るが「私に逆らう気!?」と言われれば控える他ない。
それでも「子供ですから、それくらいで...」などと言うが僕が顔を横に振り、目で制止すると驚いたように目を見張り、やがて黙った。
正妻は履いていたヒールで僕をぶった。
ヒールはヤバい。
目だけは守らなければ、と庇っていたが額を温かいものが流れるのがわかった。
僕は、それを拭い、目立つように服や顔につけた。
正妻が血を見て怯んだのがわかる。良かった、逆に興奮されたらどうしようかと思っていたけれど貴族のお嬢さん育ちが血に慣れているとは思わなかったので目立つようにしてみたのだ。
正妻は肩で息を切らしながら「泥棒を家に置くわけにはいかないわ。母親と一緒に今日中にここを出て行ってちょうだい。何も持ちだしてはダメよ。本当は弁償しなければならないのを温情で許してあげるのだから感謝なさい」と言うと侍女に家を出て行くまで監視するように言いつけると本館にふらふらしながら戻っていった。
残った侍女は自分のハンカチで僕の頭を押さえる。
泣きながら謝ってくれたが侍女が悪いわけではない。
「あなたまで罰を受けてしまうから、これで良かったんだよ。だから泣かないで」
正妻と共に戻った侍女が傷薬や包帯や手拭いなどを抱えて戻ってくると2人で僕の手当てをしてくれた。
そんなときに母が戻ってきた。
母はびっくりして泣いて謝った。
お母様が悪いわけでもないんだけどな。
僕は正妻に言われたことを母に伝えると別邸を夕暮れには出た。
荷物はとても少なかった。
母に手を引かれ城下に向かう。
薄闇と大きくて明るい月が不安を助長させる。
準備ができていなかった僕は途方に暮れていたが、母はその足のまま自分の実家に行くと(すぐ近くにあった、知らなかった)兄に訳を話して、しばらく母と僕は伯父さんたちの家に世話になることになった。
僕の顔とケガに驚いていた。
「可愛い子だとは聞いていたが男の子だよな?」
「頬が腫れているけれど、それでも綺麗な子だとわかるわ。アンネッテ(母のことだ)も綺麗だけど、この子の綺麗さは絵にある天使のようだわ。こんな子に暴力を振るうなんて信じられない」
こんなに褒められるのは久々で照れる。
母は前もって伯父に話してあったようで部屋が用意されていた。
「いつ来てもいいようにしておいたんだ。気兼ねなく使えよ?」
伯父はレストランを複数経営しており生活は豊かなようだった。
使用人までいる。
僕の祖父母にあたる人は王都を離れて悠々と老後を過ごしているらしい。
伯父も叔母も初めて会ったのにとても同情してくれて、母の次の仕事も焦らず探せたので、かなり条件のいいところが見つかった。
初めて会う従姉妹は僕を見て「わたしの従弟なの?天使みたい。本当に従弟?」と絶賛してくれた。大変素直ないい子である。
頭に包帯を巻きつけた痛々しい姿だが、そこは気にならないのかと思ったが、あまり触れられたくないことだったので、まぁヨシ。
名前はジェシカ、11歳だ。
この子が一番僕を可愛がってくれたと思う。
友達に僕を紹介して一緒に遊んでくれた。
なぜか自慢げだったのが可愛らしい。
前世が女の子だったせいか、こんなことしてられるかーっ...みたいなことには一切ならなかった。一緒にお菓子も作ったよ。皆が僕にあーん、としてくるのには少し困ったが楽しかった。あぁ心配だ、僕は男の子、僕は男の娘、違う、男の子。
頭に2か所ハゲができてしまったが髪で隠れるし問題ない。
ただ、母の顔が曇るのだけは切なかった。
自分のせい、とか思ってるんだろうな。そんなことないのに。
母は仕事が決まると、そこの3階に部屋を借りることができた。
仕事場は1階の薬屋だ。
部屋を安く借りられる条件として薬屋(男、独身、後でわかるが変人)の生活スペースの掃除と洗濯もする。
もちろん、僕も手伝う。
新しい生活は贅沢はできないが穏やかな日々だった。
元々、贅沢なんてほとんどできなかったし嫌がらせや嫌味のない今の方が気分的には楽だ。
ただ、魔力がなー...。
最近、胸の辺りが気持ち悪い。
原因はわかっている。
魔力のコントロールができるようになって抑え込むことができて物を壊すことは、ほとんどない。
その代わり、魔力が僕の中に溜まって気分が悪くなるのだ。
適度に魔力を発散させればいいのだが、こんな街中で魔法を使うなんて怖い。
どうしたものか...。
僕は母から図書館があることを聞いた。
誰でも利用可能なのだそうだ。ラッキー。
魔力をどうすればいいか何かないか探してみよう。




