帰還と褒賞
くすんではいるが、白い天井が見える。
家でもないし閉じ込められていた物置のような部屋でもない。
辺りを見回すと隣にクレアが寝ていて、こちらを見ていた。
「おはよう。こないだと逆だね」
「...天使?」
「え?」
2人でクスクスと笑う。
「ここ、どこ?」
「国境の関所の中だよ。療養所だって。昨日は大変だったんだよ」
クレアは、あの騒ぎ(僕が起こしたんだけど)の中、樽の中で目覚めたらしい。
泣き声で兵士に気付いてもらい助け出されたのだとか。
「アルフレート、魔法士様なの?魔法使っていたって聞いたけど」
「んー、魔法士の卵、かな」
「卵?」
「えっと、魔法士養成学校って知ってる?そこに入ろうと思ってる。将来は魔法士になるつもり」
「へぇ、すごい。魔法士ってすごいんでしょ。偉いんだよね?」
「うーん、偉い、わけではないと思うけど」
ドアが開いて白衣の女性が入ってきた。
「目が覚めたのね。気分はどう?」
「悪くないです」
僕は起こしてもらうと水を飲ませてもらった。
「起きたばかりだけれど話を聞きたいそうよ。辛いようなら、わたしの方で言ってあげるから無理しないでね」
「大丈夫です」
「じゃ昼食の後にしてもらいましょう」
昼食の後、場所を移して聴取?を受けた。
ここでも「本当に男の子?」と疑われた。
医務室長に「信じられないかもしれませんが本当に男の子でした」と言われて「ふぅん」と言っていたが目が信じていない人の目だった。
てことは医務室長には見られたんだね。
いつの間にかクリーム色のワンピースみたいなものに着替えさせられていたから、そういうことなんだろう。
聴取では、正直に攫われたところから騒ぎを起こした、というのは言い方がなんなので助けられたと言い直すが、そこまでを詳細に話をさせられた。
休憩も入れてくれたけど終わったら夕食だった。
明日、王都へ向けて出発するらしい。
既に王都に連絡はしているそうで母にも無事だと先に連絡してくれるとのことだった。
来るときは樽の中で辛かったが帰りの馬車は、まぁまぁ快適だった。
医務室長が治癒魔法のできる人で、体は、もうなんともない。
最初は縛られていた跡がついていて痛々しかったそうだ。
それに大きいケガはなかったが擦り傷、切り傷が多かったらしい。
まぁ近くで爆発させちゃったもんな。
僕たちを攫ったあいつらもケガはしたが死にはしなかったらしい。
良かった。
ケガくらい自業自得だろ、と思えるが、まだ人を殺す覚悟はない...。
でも魔法士を目指しているんだから、いずれは通る道になるのかな。
魔物だけにしておきたいんだけど甘い考えだろうな。
そうそう、あの嘘つき女だけど魔法を発動しようとする魔力に反応して内側に刃が出る魔道具を首に装着されて大人しくなったらしい。
こえー、そんなんあるのか。
しかも僅かだが常に魔力を垂れ流し状態にされるらしく魔力の乏しい者は外された直後には寝たきりと同じようになってしまうらしい。
魔法士殺しだな。南無南無。
僕とクレアは王都に着くと、それぞれ騎士に守られながら家路についた。
母にはめちゃくちゃ泣かれた。
近所の人たちも総出で出迎えてくれた。
そして、母がすっかり心配性になってしまった。
小さなナイフを護身用に持て、と言われ、僕には魔法があると説明するも母が少しでも安心できるなら、と持ち歩くことにした。
6歳児にナイフ、て前世では考えられないな。
出掛けるときも、どこに行くのか、何時に帰るのか、誰と会うのか、そして絶対寄り道をしない、と強く言われた。
この世界の子供は割と放置されていて、僕もこれまでは、かなり自由だった。
母が心配性になったとは言え、ほぼ、これまでの生活を取り戻した頃、なんと王城に呼ばれた。
うへぇ。
なんでも誘拐の件の特別褒賞が出るらしい。
お金。お金がいい。
特別優秀者になるつもりだけど、お金があるに越したことはない。
王城から迎えがきて初めて城の中に入る。
広い...天井高い...綺羅綺羅しい...。
うっかり変なとこ触れないな。
伯爵家からもらった服が、こんなところで役に立つとはね。
張り切った母がサイドを編み込んでくれた。
ますます女の子らしくなる。美少女だなぁ、僕...。
ホントにどうして前世と同性の女の子に生まれなかった。
部屋に案内されると陛下の秘書のようなものだ、という男性から話を聞くことになった。
僕とクレアを攫ったヤツらはサルタ王国のレット侯爵家の弟から依頼されて動いていたということだった。
依頼内容は綺麗な子供を男女1人ずつ。
それと違法薬物だった。
あの嘘つき女を捕まえることができたのは重畳、と男性はちょっと悪い笑みを零した。
あの嘘つき女がレット侯爵家の弟との契約書を持っていたため、それをサルタ王国との取引に使えることになり、そのための褒賞だった。
悪いヤツらを捕まえたことではなかった。いや、それも含めて、かな?
褒賞は、金貨100枚だった。
金貨100枚あれば僕と母が収入なしでも10年くらいは普通に暮らせる。
物価やお金の価値観が違うので前世感覚で例えるのは難しいが2000万~3000万の価値がある。
十分だ。
それに攫われていたときに持っていたカバンも中身そのまま僕の手元に戻ってきた。
良かった。
ほとんど諦めていたから嬉しい。金目のものは本くらいしかなかったからかな。
確認するとマリアさんに借りた本も少し角が潰れていたが無事だった。
「陛下がお越しになられます」
僕と男性は立って礼をする。
陛下は入ってくるとソファの奥に座り「よしよし。楽にしなさい」と仰った。
顔を上げると初老の気品ある男性が僕を見ていた。
「まぁ、掛けなさい」
「はい、失礼します」
僕だけが座り、さっきまで話していた男性は陛下の後ろにまわった。
陛下は僕をじーっと見ると「男の子と聞いていたが?」と言った。
「はい、僕は男です」
「...そうか。男名をつけられて男の子として生活しているわけではなく?」
「違います。正真正銘、男です」
この国に限らないが無事に元気に育つように、と願いを込めて女の子に男名、男の子に女名をつけて育てる風習が残っている。
現在は少なくなったが貴族の中にも平民の中にも未だに根強く残っている。
今は少ないが名前を異性のものにする以外にも、その異性のように育てる人もいる。
親の切ない願いが込められているのだと思うが、うーん...と思ってしまう。
正直、そんなの迷信でしょう。
日本にも昔、そんなのがあったらしいし。
けど、子供の気持ちを考えると、うーん、と唸ってしまうが、この国には少ないけれど、びっくりする程、珍しいものでもないからな。
ただ、そのせいで尚更、僕が男の子と思われてしまうんだが。
「アルフレート、だったな」
「はい」
「リリーに会っていきなさい」
「...はい?」
「リリーは、わたしのたった1人の孫だ」




