夢うつつ
死の匂いに誘われて死んだ母を、そばに置いておくことにした。
だんだん朽ちてゆく体を櫻の木の下に埋めた。
満開の櫻の木は母の血を吸って真っ赤な花をつけた。
はらはらと、涙がこぼれた。
嗚呼、私は、罪深い女です。
一人孤独に泣く私の上に、花弁は舞い散ります。
蔵の裏の人魚が、嗤っています。
わらわらと、顔のない子供達が群がってくる。
のっぺらぼうだ。
彼女たちは、懐古の子。あの世の子。
春になって蔵から出てきて、魂をねだる。
影法師の子、あめふらしの子。
「まだ待って。」「もう遅いよ。」
小さき手が、ナイフを握る。
嗚呼、彼岸の世界へと、連れていかれる。
死んだ子が、赤い花を胸に挿してくれた。
季節は春で、櫻が舞い散る宿場町。
小鬼がめそめそ泣いています。影法師がにやにや嗤っています。
お地蔵様はようやく頭の上の雪がなくなったと、けたけた嗤っています。傍らには菊の花。
どうしてでしょう、学校の、死んだ子の机にも、菊の花が咲きます。
神社の鳥居に、首を吊った人がぶら下がっています。
風が吹いて、血まみれの死体から、鉄の匂いがします。
電車の轢死体の血液が、かたわらのお地蔵様にひっかけられています。
影法師が現れて、死体の魂をあの世へ。
魂を運ぶ回送列車に載せて。
さながら死神のように。
白い花が、横でゆれています。
夢うつつ。
満開の桜の木の下で、蔵の裏の人魚と酒を交わしていたら、妖女が現れて首を絞めてきた。その心地よい、死への呪い。誘い。
櫻が舞って、妖女の涙も川に流れてゆきます。
「悲しい事があったのですね————、」
妖女は、首筋を噛むと、ふつりと、消えた。
残ったのは、首から流れる真っ赤な…
春になって、夢枕に、旅の禅僧が現れた。
六文渡せというのだ。
私は死んだ祖父の財布から古い硬貨を出して手渡した。
この古い家はこうした不思議なことがよく起こる。
枕返しや垢嘗めが夜な夜な現れて難題を吹っかけてくる。
ジリリリ…線を抜いたはずの黒電話が鳴る。
過去へ旅せよと命令するのだ。