初夏 【月夜譚No.112】
蚊帳の中で寝転がると、見える景色がいつもと少しだけ違って見えた。細かな網に囲まれて、安心感も増す。全開にした戸から夜風が入り込み、寝るには丁度良い心地だ。
タオルケットを腹にかける。ほんのりと香るのは、先ほど消したばかりの蚊取り線香の残り香だ。
手足に触れる感覚、鼻腔に入り込む匂い、月明かりだけに照らされた天井――それ等全てが満たされて、ああ、夏なのだと感じる。
西瓜にラジオ体操、蝉。夏の要素は様々にあるが、自分は今この状況が一番夏らしさを感じる。
燦々と照りつける太陽だけが夏ではない。静かな涼しい夜だって、夏の代表格だ。
ふっと、瞼を閉じる。一瞬強く吹いた風が前髪を撫で、蚊帳を揺らすのを感じた。
今夜は良い夢が見られそうだ。微笑した唇は、すぐに寝息を漏らし始めた。