秘密
久しぶりのオリジナル小説です。
読んでいてほのぼのする、心が温かくなるような作品になれたらいいなと思います。
ぜひお楽しみくださいませ!!
どんな人間も一度は誰かを好きになる。
恋愛と聞けば、甘酸っぱくて幸せで、きっとそんなものを想像するだろう。
誰かを好きになり、その人に好かれるために努力をする。
それを青春と呼ぶ人も多いのだろうか。
だとしたら俺の青春は始まる前から終わっている。
永遠に始まることのない青春時代を予感させながら、今日もいつもの始業チャイムが鳴り響いた。
『人生は思い通りにいかない』
それが齢16歳にして俺、蒼井翔平が導き出した結論だ。
君たちは可能性に満ち溢れている!!頑張れば何にだってなれる!!
そんな言葉は、才能と運を持った人限定のもの。
平凡な人間が多少努力したところで、生まれるのはほどほどの結果のみ。
そりゃ、成功した人間は夢は叶うなどと無責任にいうだろう。
だが、それを目指して心が折れ、挫折した人間が山のようにいることを俺は知っている。
成功はしたい。
だけど、努力した結果の先にボロボロの挫折を味わうのは嫌だ。
その俺が導き出した結論は一つだ。
・・・・・・・・・・諦めよう
「なにボーッとしてるんだい?
もう朝のホームルームは終わったよ!」
窓際の一番後ろの席で、外の景色を見ていた俺は声のした方を向く。
そこには、椅子に腰掛けてこちらを伺う垣本結城の姿があった。
「・・・なんで俺にはすごい才能やら、突出した要素がないのかなって考えてた。
放っておいてくれ・・・」
「君にそんな目立つ要素がないことは小さい頃から知ってるよ。
小学校からの腐れ縁だけど、今更悩んでもしょうがないんじゃないかな?」
「・・・・幼馴染ならもう少し優しい言葉をかけてくれてもいいんじゃないですかね?」
「僕は現実主義者だからね。
残酷な嘘はつかないのが優しさだと思ってるよ」
自称・現実主義者の友人の言葉にため息を漏らす。
言い方はアレだが、正直なにも否定できない。
勉強は平均より少し上。
体育の成績は4
顔もまあ・・・普通程度だと信じてる。
良く言えば欠点が無い。悪く言えば器用貧乏。
それが俺だ。
「は~ん。君がそこまで思い悩むってことは・・
ズバリ!!凛音さんのことを考えていたのかな!!」
「ちょ!!バカ!声がでかい!
聞こえたらどうすんだ!!!!!!」
「ムガッ!
わ、わかったから口を塞がないでくれ!!
ふ~・・・窒息したらどうしてくれるんだよ。
それにしても、好きな人のことを考えて思い悩むなんて
まるで少女のようだね。
男の君がやってもあまり可愛げがあるようには思えないが」
「可愛げがなくて悪かったな」
その時、俺の肩がトントンと叩かれた。
誰だろうかと後ろを振り返ってみると
「っ!?!?!!!
り、凛音!!?!?」
話題に出していた張本人が目の前に現れ、思わず動揺した声を上げてしまった。
そんな彼女はこちらに優しい微笑みを浮かべながら
「あ、ごめんね。
驚かせちゃった?
これ、落ちてたから」
言いながら、俺にスッと何かを差し出す。
その手の中には俺の消しゴムが握られていた。
「お、おう・・・サンキューな・・・」
「うん!それじゃあね!!」
消しゴムを渡し終えた彼女は、他の女子たちと楽しげに会話を交わしながら去って行く。
俺は教室を去る彼女の後ろ姿から目を離せないでいた。
手の中にある消しゴムがなんだか温かく感じる。
・・・・今日はついてる日かもしれない
周りの男子たちが彼女を見てヒソヒソと、今日も可愛いだの言い合ってる。
「おい。見すぎだぞ。
そんなんじゃ、俺が秘密にしてても簡単にバレてしまう」
「っ!!
わ、わかってる・・・・」
凛音遥。
この高校の中で確実にトップに入る美人だ。
長く艶やかな黒髪に、整った目鼻立ち。
スラッとしたスタイルはモデルにも引けを取らない。
誰に対しても優しくて、絵に描いたような美少女だ。
おまけにすごい金持ちのお嬢様だと。
同じクラスになり、最初は美人な人だな~といった印象だった。
しかしそのうち、何度か会話を交わすようになって・・・俺はあっさり恋に落ちた。
「僕は彼女に恋心は抱いてないけど、何度見ても美人だとは思うよ。
気品が溢れている。さすがは学校一のお嬢様だね。
君が好きになるのも納得だ。
しかも、演劇部所属で女優を目指しているとか」
「女優!?!?!
それってまじか!!!!」
「らしいね。女優が夢だって話しているのを女子の友達が聞いたそうだよ。
お嬢様だからもっと堅実な道を選ぶかと思っていたが・・・
まあ、彼女なら十分に可能性のある夢だろうけどね」
将来は女優・・・
それを聞いて、自分との差にさらに絶望感を抱いてしまう。
・・・・いや。
今更わかりきっていたことだ。
みんなから人気があってお嬢様の彼女に抱いた分不相応な感情。
自分には遠すぎたんだ。
「・・・・・世の中は不平等だよな」
「感傷に浸るのはそのくらいにしてそろそろ授業の準備をしたらどうだ?
課題は済ませてあるのかい?」
「・・・・・・見せてください」
「仕方ない。
昼飯に購買のパン一つで手を打とう」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
放課後。
なんとなく気分の落ち込んでた俺は気晴らしに遠回りしながら帰っていた。
普段は通らない道を適当にぶらぶらする。
・・・・こんな道もあったんだな
いつもはすぐに帰ってゲームしてるから全然知らなかった。
ぼんやりと見慣れない景色を物色していると、
昼間の学校のことを思い出してしまう。
凛音・・消しゴム拾ってくれて優しかったな・・・・
・・・・ちょっと話しかけられてこんなに舞い上がるんなんて、
どんだけ女々しいんだよ俺。
同じクラスの彼女とはたまに会話くらいはする。
でも、それだけだ。
当然、休日に遊びにいったり、放課後に一緒に帰ったりする間柄ではない。
彼女からするとクラスメイトB的な印象だろう。
これだけ、うじうじするくらいならいっそ当たって砕けてしまおうか。
そんなことを考えたこともある。
だが、彼女を前にするとどうしても頭が真っ白になってしまう。
彼女の纏っているオーラが自分とは別次元の存在だと感じてしまうのだ。
・・・なんだか今日は凛音のことばかり考えていたな。
もう少しぶらぶらして気分転換してこよう。
俺は見たことない道を気の向くままに曲がっていった。
その時のことだ。
「・・・・・・ん?これは・・」
足元に何か黒いものが落ちていることに気づいた。
それを拾い上げると
「うちの学校の生徒手帳じゃないか・・
・・・・・っ!?!??!?!」
生徒手帳の顔写真を見て思わず目を見開く。
教室で何度も目で追いかけ続けていた綺麗な顔。
見間違えるはずもない・・・・凛音だ。
「帰ってる途中で落としたのかな・・・」
明日学校で渡す??
いや、それより本人に連絡した方がいいか。
生徒手帳を無くしたことに気づいて、焦ってたらかわいそうだもんな。
ポケットからスマホを取り出し、
LINEを起動して彼女の名前を探す。
一応、クラスの全員を友達登録してあるので名前を検索すればすぐに出てくる。
・・・メッセージなどほとんどしたことないが。
数分考え込んだ後。
【同じクラスの蒼井です。
今、道で凛音の生徒手帳を拾ったんだけど・・】
・・・よし、当たり障りない文章・・・だよな?・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
ええい!!メッセージひとつで何を緊張してるんだ俺は!!
さっさと送ってしまえ!!!!
それからさらに何回か見直して、ようやく送信ボタンを押した。
返事が来るまでしばらくはかかるだろうし、
生徒手帳は預かっておいて家に帰ろうか。
そう思い、足を踏み出そうとした直後のことだった。
しきりに震え出すスマホ。
その振動は一定間隔で収まることなく続いている。
画面を確認すると。
「うぉっ!??!え!?!
まじか!??!!!!!!!!!!!」
凛音からの着信を知らせる通知。
突然の着信に慌てふためき、
スマホを落としそうになりながらも急いで電話に出る。
『・・・・・もしもし』
『あっ!!!!!もしもし!!!!
蒼井くん!?
ごめんね!急に電話しちゃって!』
電話越しに初めて聞く凛音の声はなんだかいつもと違って感じる。
なんだろう。
電話って特別感があって良い!!!
『さっきメッセージ見たんだけど、私の生徒手帳拾ってくれたんだよね??
ありがとう!!
帰ってから無いな~って探してたんだよ!
本当に助かるよ!』
『い、いや、俺は偶然見つけだけだから。
それより、どうしようか・・
明日、学校で渡せばいい?』
電話越しとは言え、こんなに凛音と話せたのは初めてかもしれない。
生徒手帳ナイス!!!!
『ん~でも預かってもらうの悪いし。
私、今から取りに行くよ!!
蒼井くんまだ外にいる?
場所伝えてもらえればそこまで行くからさ』
『い、いや!わざわざ来てもらわなくても俺が近くまで行くから・・・』
これは予想外の展開だ。
まさか凛音と待ち合わせをするとは!!!
今日はとことんついてる日かもしれない!!!!!
・・・いやまあ生徒手帳を届けるだけなんですがね。
『あはは!!優しいんだね!蒼井くん。
じゃあ近くの公園とかにする?
蒼井くんはどこら辺にいるの??』
電話越しに聞こえるクスクスという上品な笑い声。
ああ、もうずっと話していたい!
でも、早いところ受け渡しを済ませないと時間的にも親御さんが心配するか。
凛音はお嬢様だから車とかで送り迎えしてもらうのかな??
できれば、どんなすごい家に住んでるのか一度くらい見てみたかったな・・
クラスのやつらが言うには、相当でかい屋敷に住んでるとか。
きっと休日は庭で優雅に紅茶を飲みながら、ゆったりとした時間を過ごしているんだろうな。
もしかしたらメイドとかもいるのかもしれない。
そんな生活一度くらい送ってみたいもんだ。
『蒼井くん??どうかしたの?』
『へっ!?ああ!!!なんでもない!』
凛音の言葉にハッとして我に帰る。
思わず黙り込んでしまった。
不審がられたりしてないよな?
これ以上、ボロを出してお嬢様に嫌われないうちに用件を済ませるか。
『あーっと・・・ここはどこら辺なんだろ。
ちょっと普段通らない道に来てて・・
調べるからちょっと待ってて』
『普段通らない道?
そんなところで何してたの?』
『い、いや・・・ちょっと散歩を』
『ん~何か目印とか・・・・』
その先を言いかけた言葉が途中で止まる。
二人の間に流れる静寂。
スマホを耳から離し、俺は正面にいる人物をぽかんとした顔で見る。
そして、それは相手も同じことだった。
驚愕の表情で俺を見つめる彼女。
頬に流れる一筋の汗。
目の前にある建物のドアが突然開かれたかと思ったら、
先ほどまで電話をしていた凛音本人がそこにいたのだ。
制服のまま家から出てきた彼女は、目の前の道路に佇む俺から目が離せないでいる。
俺はといえば、彼女よりも、彼女が出てきた『建物』に目を奪われていた。
・・・そう。
彼女が住んでいると思しき建物。
おそらく築年数50年以上は確実と思われる、
今にも崩れ落ちそうな超おんぼろアパートを見て。