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76話 身勝手に君を救う

 そして、ある日。


 いつものように周囲が晴葵に罵声を浴びせた。


「相変わらずキモイなー」


 が。


「おお、俺はキモいか。だから?」


「は?何言ってんだ?害虫」


「おお、次は害虫と来たか!それでそれで?」


 彼は慣れたのではない。


 大人になったのではない。


 認めたのだ。


 自分は害である、他者に迷惑をかける存在でしかない、と。


 だから、当たり前のことだから。


 言われても平気。


 だって、本当のことだから。


 そう思い込むことで彼は自分を守り続けた。


 自分を傷つけ続けることで、生き抜く術を覚えたのだ。


 そして、地元から逃げるように離れた高校に入り、いじめられる前に『変態』と言うレッテルを自分から周囲に撒いておく。


 そうすることで、傷つくことを回避したのだ。


「それが……黒一晴葵という男、かな」


 話し終わった晴葵は泣いても笑ってもいない乾いた顔だった。


 感情を失ったような、張り付けたような笑顔。


 誰もが絶句していた。


 なんと声をかければいいのかわからない。


 そんな時、文菜は晴葵の頭を抱き寄せる。


「……寂しかったんですよね。怖かったんですよね。助けて欲しかったんですよね……つらいって……叫びたかったんですよね……」


 文菜は泣いていた。


 自分を笑顔で救ってくれた人が、こんなに悲しい思いをしていたこと。


 でも。


「でも、だからこそ晴葵先輩は誰よりも優しいんです。強いんです。私たちを助けてくれた……ヒーローなんですよ」


 ぎゅっと晴葵を抱きしめる文菜。


 不思議なことに、罵声のフラッシュバックはしなかった。


「そうよ。あなたは私たちを救ってくれた。なら、どうして言ってくれないの?今度は私たちの番じゃない」


 そう言って晴葵の手を握る千弦。


「そうですよ!今度は恩返しの時です!」


 もう片方の手を握る小弓。


「そうでござるよおおおお。晴葵、お主……ううううう。拙者が、必ずや救って……おおおおおおおおお」


 号泣する匡也。


「晴葵。君は僕らを救ってくれた。なら、今度は僕らが晴葵を助けたい。そう願う事はいいだろ?身勝手に晴葵を救うさ。それが『仲間』だろ?」


 そう言って涙目で笑う幸大。


「みんな……俺は……俺は悲しかったんだ。そんなこと、言わないで欲しかった……悪口なんて……言われていい気なんて……しないんだから……」


 そう言って泣く晴葵。


 全員が晴葵のそばに居た。


 晴葵が泣き止むまで、晴葵の肩に手を置き、晴葵の手を握り、晴葵を抱きしめていた。


 みんなが、晴葵の味方だった。


 いつの間にか頭の罵声は、逃げるように消えていった。

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